第49話 ほう、これは凄いものを見ました。
この旅も一週間が過ぎ、ようやく今日王都に到着する予定だ。私は新たに手に入るかも知れない調味料に心を馳せ、マーブルとジェミニは見知らぬ場所へ私と一緒に向かっているのを楽しんでくれているようだ。その点に関しては私も同じかな。一方で戦姫の3人は嬉しそうな表情では無かった。特にアンジェリカさんはいかにも面倒臭そうな様子だった。
「はあ、もう王都ですの。まだあそこにいたかったですわ。でも、いい加減戻らないと探索隊を出されて面倒臭いことになりますし、戻ったら戻ったでこれもまた面倒臭いですし、ホント困りましたわ。」
「殿下、お気持ちはお察しいたしますが、もうすぐ到着です。お気持ちを切り替えませんと。」
「うん、あきらめも肝心。」
アンジェリカさんが愚痴をこぼすと、セイラさんとルカさんはフォローしているのか? よくわからないけど、3人とも少なくとも嬉しい里帰りではなさそうだ。
「ところで、お3方はなぜそこまで戻りたくないのですか?」
そう、何でここまで戻りたくないのかが気になっていた。昨日の話から察するに確かに戻りたくない気持ちはわかるが、一緒にクエストをしているときでもいつも楽しそうに話していたアンジェリカさんがなぜここまで愚痴をこぼすのが。
「昨日の話以外にも、実は、王女殿下への縁談話が殺到していて、王家でも断り切れなくなっているらしいの。」
「あれま、それはそれは。」
「セイラの言った通りですの。私にはそんな気は全くないのですが、周りからうるさく言われているらしくて、お父様もいい加減お断りするのが大変になったので、今回わたくし達に戻るよう言ったきたのですわ。」
「まあ、殺到するでしょうね、血眼になっている貴族や他国の王族達の気持ちもわかるというものです。」
「そうだよね。仮に王女殿下という身分じゃ無くても恐らく殺到するわよね。」
「うん、わかる。」
アンジェリカさんの外見は間違いなく美人だ。そして鎧姿も凜々しい。更に鎧を脱ぐとスタイルはものすごいのだ。ぶっちゃけると、真性のロリやウホ属性以外は絶対に興味を持つ。『戦姫』は伊達では無いのだ。このチーム名も当人達がつけたわけではないらしく、正直嬉しくないそうだ。私はといえば、若い時分であれば間違いなく虜になっていただろう。今はマーブルやジェミニやライムの方に興味があり不思議とそういった気分にはならない。うん、前世でぼっちだった影響だな。
これ以上は本人次第だと思うし、こちらからは何もできるわけでもないけど、旅の仲間として愚痴はできるだけ聞いておいて少しでも楽になってくれればと思い話を続けていると、マーブルが何かの気配を感じたらしい。こちらもマーブルの指示する方向に意識を向けるともの凄い数の集団を探知した。ただ、不思議なのは数こそ凄いものの敵意などは全く感じられないどころか、こちらに意識が向いていないようだ。でもこちらに向かって来ている。
この集団は数こそもの凄いが、1体1体は大した存在では無い、あ、待った。1体もの凄い存在がいた。このまま進んでしまうと、この集団に飲み込まれてしまうので、一旦待機することにして、戦姫の3人にもこの事を伝えた。
「もの凄い数の集団って、何ですの? まさか、スタンピード?」
「いえ、マーブルも私も集団から敵意は感じませんね。ただ集団移動しているだけでしょうか。でも、巻き込まれたら間違いなく飲み込まれますね。」
「あっ、わたしも気配を感じるよ。でもとてつもない威圧感なんだけど、不思議とこちらは大丈夫のような気はするね。」
「そうですか、ではしばらくここで待ちましょうか。」
ただ待機しているのはつまらないので、ここで休息を取ることにした。スガープラントの甘い汁の部分を絞り出してある程度煮詰めただけのものだが、これが意外に好評だった。
「これはスガープラントですね。どうやってお作りになったのかしら?」
「これは絞り汁を少し煮詰めただけです。疲れたときには甘いものが一番です。」
実際は疲れたときに甘いものを摂らない方がいいとも言われているが、そんなことは知ったことでは無いからいいのだ。
甘いものを摂ってくつろいでいる最中にそれは現れた。先程の集団が少し前を横切っている。
「なにこれ? クレイワームの集団?」
クレイワーム? って、ミミズじゃねーか。ミミズは土壌をよくしてくれる存在だから前世でも見かけても放ってくくらい身近な存在だが、そのミミズが途方も無い集団で横切っている光景は正直きついものがある。その集団の中で一際巨大な存在が中心で移動していた。太さ的には周りのミミズの3倍くらいだが、何せ長さがやばい。どのくらいやばいかというと、先頭集団で頭?を確認したが、未だに続いているのだ。周りのうねうねを気にしないようにして、その巨大というか長大なミミズを眺めながら鑑定してみた。アマさん頼むぞ。そういえば、最近鑑定してもステが出てこないけど、どうなってるんだろ?
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『インフィニティ』・・・クレイワームを率いるボス的な存在じゃ。クレイワームは実際には魔物では無いが、このインフィニティは魔物じゃ。とはいえ、クレイワームと同じ役割を果たす、つまり土壌を綺麗にしてくれる存在じゃ。一応倒せることは倒せるが、倒してしまうとその地域の土地では作物が育たなくなるぞい。ある意味神以上の存在じゃな。お主は間違っても倒すようなことはしないと思うが。こやつがここを通ったということは、この地域における作物の保証はされたということも同然じゃ。大切にするがよいぞ。
それと、鑑定でステータスが出てこないと言っておったな? それは、出してもあまり意味がないと思ったからじゃ。べ、別に一々表記するのが面倒になったからじゃ無いからな、いいか、そこのところを間違えるでないぞ。っと、話は変わるが、このインフニティは滅多に見られないものじゃからしっかり目に焼き付けておくのだぞい。
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なるほど、ステ表示は面倒だから省略したと、そういうことかい。まあ、問題はないけど。それにしてもインフィニティとは上手く名を付けたものだ。とか考えていると、戦姫の3人は呆然と集団が横切るのを眺めていた。その一方でマーブルとジェミニとライムは楽しそうにインフィニティの集団を追いかけてはこっちに戻ったりを繰り返していた。ちなみに、まだインフィニティは続いていた。
集団を眺めること1時間ちょい、クレイワームの集団は移動を完了したようだが、インフィニティはまだ終わらなかった。全長どれだけあんねん!! と突っ込んでからもう1時間ほどでようやくインフィニティの姿はいなくなった。
「あれがインフィニティ、壮観というか何というか、、、。」
「あ、あれが伝説のインフィニティですの?」
「知っているのですか? アンジェリカさん?」
某漫画の「知っているのか? ○電?」みたいな感じで聞いてみた。流石にタメ口はまずいでしょ。
「以前王都の図書館で読んだ程度でしか存じ上げませんけど、その存在が最初に確認されたのは約1200年前だそうですの。その後、数100年毎で発見されておりますわ。」
「ほう、そうしますと私達は非常に貴重なものを見ることが出来たわけですね。」
「ええ、そうなのですが、あのインフィニティには呪いがあって倒してしまうとその土地は砂漠化してしまうというものなのだそうです。」
「呪いですか?」
「ええ、そのように書かれておりましたわ。」
「そうですか。でも、実はこれ呪いでも何でも無いんですよ。」
「「「えっ?」」」」
戦姫の3人が反応する。
「の、呪いではないとしたら、何で、、、?」
「クレイワームでしたっけ? あのクレイワームは実は魔物ではありません。クレイワームがたくさんいる土地ってかなり良い土なので、作物がよく育つんですよ。」
「え? そうなんですの?」
「はい、ですから、そのボスであるインフィニティはもちろんのこと、その周りにいるクレイワームを倒してしまったら、、、後はわかりますね?」
「なるほど。インフィニティだけでなく、クレイワームは殺してはいけない生き物なのですね。」
「殺すなとは言いませんが、そのままにしておいた方がいいのは間違いないですね。」
まあ、ミミズってあの外見だから見つけたら殺そうとする人がいても不思議では無いよね? ましてあの巨大というか長大ミミズを見てしまったらねぇ。
そんな感じで話をしつつ、襲ってくる魔物を倒しつつ進んでいくと、王都への門が見えてきた。
「はあ、ついに到着してしまいましたわ。」
テンションがだだ下がりのアンジェリカさんをみんなで慰めつつ私達は王都へと向かって行った。
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