第50話 ほう、ここが王都ですか。
ついに王都の城門に到着する。うん、流石王都だけあって城壁ももの凄い規模で周りを囲っている。門は2つあって大きい方が貴族用で小さい方が一般用となっている。大きい方の城門には門番が10名近く配備されていて、一方の小さい城門には門番が3名ほど配備されている。王都に入っていくのは一般人の方が圧倒的に多いので、言うまでもなくもの凄い行列だった。逆に貴族側の方は今のところ誰も通っていない。アンジェリカさんはためらうことなく一般用の方に並んでいった。
「あの、アンジェリカさん? 私はともかく、貴方達は向こう側では?」
「アイスさん、何をおっしゃいますの? わたくし達『戦姫』は冒険者なのですよ? いわば一般人です。こちらに並ぶのが当たり前でしてよ。」
「あ、ハイ。ソウデシタネ。」
本人達が一般人側に並ぶと言っているのだからそれに従いますかね。何となく察しは付いていると思うが、私は人混みが苦手で、前世では行列には基本並ぶことはしなかった。ラーメン屋などでも外で待機している人がいたら店を変更していた。待つ時間も楽しめるようで無くては、と思うかも知れないけど、人混みもそうだけど、何より退屈でしょうがないというのが主な理由かもしれない。しかし、今はマーブル達がいるので、それほど気にならない。
しかし逆の意味でうんざりしていた。ここには美女(1人美少女)達に加えて至高のモフモフ(一部反論があるだろうけどご容赦願いたい)であろう猫とウサギが揃っているのだ。そしてその集団と、ぱっと見冴えない中年男性の私が彼女らと一緒なのだ。ここでも戦姫は有名らしく、近くにいた冒険者たちがしきりに声をかけていた。何かしら切っ掛けをつかもうと絡んできたが、全く相手にされないことがわかると、私に敵意の視線を向けたり、舌打ちされたりと散々な目に遭った。マーブル達へはモフろうと接触を図ってくるが、そういったときは私の肩から降りて逃げ出す。拒否された連中はやはり揃って私を睨んだり舌打ちをしたりと精神的被害はかなり受けた。これって私が悪いのか?
しかし、怪我の功名というか、そういう接触を図るため前にいたのに後ろに並び直すような人達(お馬鹿さん)が続出したため、思っていた以上に早く受付を済ませられそうだった。でも割に合わないけど。そんなこんなで予想以上に早く自分たちの番になる。門番の人は初老の人と若い人2人だ。対応などの印象は悪くない感じだ。王都だからもっと偉そうにふんぞり返っている人が対応すると思っていた。
「王都へようこそ、早速だが身分証を提出して欲しい。」
私達はギルドカードを提示する。
「ほう、『戦姫』か、って、『戦姫』の3人は受付はこちらではじゃないでしょう?」
「いいえ、わたくし達はBクラスの一般冒険者ですので、こちらで間違いありませんわ。」
「ふぅ、全く、そういったところは相変わらずですな。ところで、君がアイス君か。話はモウキから聞いておるよ。」
「えっ、モウキさんのご家族の方ですか?」
「あれ? モウキから何も聞いてないのかい?」
「はい、何も聞いておりません、ただ、『気をつけて行ってこいよ』くらいですかね。」
「はあ、まあ、あいつらしいと言えばあいつらしいな。って自己紹介がまだだったね。私はジュセイ、モウキの父親だよ。」
「おお、モウキさんのお父上でしたか、改めて私はアイスと申します。左肩に乗っているのがマーブル、右肩に乗っているのがジェミニで、こちらがライムです。いずれも私の従魔です。」
マーブルとジェミニを紹介しながら腰に下げている皮の筒(ゴブリンのムラで作ってもらった)からライムを出す。
「ミャア!」
「キュー、キュウ(ジェミニです、よろしくです!!)!!」
「ピーピー!!」
マーブルとジェミニは敬礼で、ライムは垂直跳びの仕草で答える。
「ほう、これは何とも可愛らしい従魔達だね。モウキが可愛すぎると言っていたのもうなずける。」
ジュセイさんは頷きながら答える。親子なのに口調が違うな。
「では、確認は済んだからギルドカードを返すね。では、王都を楽しんでください。」
ジュセイさんに控えていた門番からギルドカードを受け取り王都に入った。
王都を軽く見渡す。控えめに言っても凄ぇ、以外の言葉が出てこない。タンバラの街でも驚いたが、王都は規模が違った。正直に言いましょう、これ、絶対迷うな、そう確信した。では、迷わないようにするにはどうすればいいのか? 簡単だ、聞けば良い。ということで、戦姫の3人に聞いてみたが、王都ではほぼ王宮にいるためそれほど詳しいわけでは無かった。残念。仕方が無いから報告がてら冒険者ギルドで聞くとしますかね。
私達は王都の冒険者ギルドへ向かう、到着する、一言で言うと、『でけぇ』、これだけだ。中に入るとタンバラの街とほとんど同じ配置だった。違うのはそれぞれの窓口が複数あることくらいだ。配置ってギルドで決まっているのだろうか。正直同じ配置の方がこちらとしては助かる。討伐した魔物の買取を希望したいのだが、あいにくそっちの依頼は受けていない。常駐型ですら受けていないのでとりあえず手続きの窓口へと向かった。
受注窓口は5人くらい職員がいたが、それでも結構並んでいたが、こちらの職員は3名ほど。3名でも凄いけど。それほど混んでいないが、視線がもの凄い。タンバラの街でも結構なものがあったけど、規模がデカい分視線の数もやばい。とりあえず視線だけで済んでいるので気にしない方向でおとなしく並んで待つ。
「冒険者ギルドへようこそ、今日はどういったご用ですか?」
うん、やはり美形だ。流石は王都だ、といってもニーナさんに少し劣るかな、とはいえ美人であることに変わりは無い。というか、こんな冴えないオッサンがそんなこと言っても『お前が言うな』だろう。別にがっかりしたとか、そういったことではないので勘弁して欲しい。
「討伐した魔物の買取をお願いしたいのですが。」
「それでしたら、奥の解体作業場へとお願いします。向かって左奥の部屋ですので、そちらで手続きしてください。」
「ありがとうございます。それと、あといくつかお聞きしたいことがありまして。」
とりあえず、ホーク亭とアマデウスさんの教会の場所は確認した。他のことは宿などで聞いた方がいいかなと思い、お礼を言って手続き窓口を後にする。その後解体作業場へと向かい魔物の買取をお願いする。一旦裏口を出て、空間収納からソリを取り出し裏口につけて討伐した魔物を出していく。ちなみに今回討伐した魔物はジェミニが張り切って解体してくれたので、買い取ってもらうだけだ。
討伐した魔物を出し終えると、作業場にいた職員達は質に驚いていた。ブラックドラゴンについては出さないことにした。大騒ぎになりそうなので。ドラゴンも解体済みであるが、肉もそうであるが、他の部分も捨てるところがないとの事なので、ある程度細かく分類してあるが量が半端ない。収納スキルレベルは現在8まで成長した。一応64メートル立方という結構広いスペースではあるが、その3分の1はマスタードラゴンが占めている。頑張ってレベルを上げないとね。
全部買取な上、質もいいとのことで、総額金貨600枚になったので4等分した。戦姫の3人は貢献度から私が半分もらうべきだと言ったが、私はもちろん、マーブル達も4等分を主張して納得してもらった。それぞれが活躍したのだから仲良く山分けの方が良い。それはそうと、これだけの量なのにも関わらず買い取り価格がもう出てしまったのは、職員の数が多いので余裕があるのか、すでに解体が終わっているからなのかわからないけど、多分両方なのだろう。木札をもらって受取窓口で報酬を受け取る。
報酬を受け取ってギルドを出てから、ホーク亭を目指した。その道中で良い屋台が見つかれば何か食べるつもりだ。屋台について言えば、タンバラの街で食べたものと大差はなかった。ホーク亭に到着すると、何かあればホーク亭に連絡することを確認して戦姫の3人と一旦別れる。
ホーク亭に入った私達は受付の人に驚く。思いっきりメルちゃんだった。
「ホーク亭へようこそ。あっ、あなたはアイスさんですね? メルちゃん達から話は聞いております。私はメラといいます。この子達がマーブルちゃんとジェミニちゃんとライムちゃんですね? これからしばらくよろしくお願いします。」
「メラちゃんですか。こちらこそこれからよろしくお願いします。」
「ミャア!」「キュー!」「ぴー!」
「ああっ、話には聞いていたけど、こんなに可愛いなんて。っといけない、タンバラのホーク亭から話は聞いておりますので、宿代はそちらでの前払い分から頂く形になりますので、約20日分はお支払いの必要はありません。ちなみに、これはホーク亭のシステムなので。」
「そうですか。では、お言葉に甘えさせて頂きますね。」
ホーク亭もタンバラの街と同じような配置だった。違うのはここは食堂があることと、規模が大きいということで、基本的には変わりが無い。何よりもメラちゃんとメルちゃんの区別がつかない。これってモブキャラ? あるいは、某戦車で魔物を倒すRPGに出てくる双子と同じ感じだぞ。そんなことを考えながら鍵を受け取る。部屋はタンバラの街と同じ場所だった。気を利かせてくれたみたいだ。ホーク亭のみんなに感謝だ。
部屋に入って旅装を解く。家具の配置もほとんど同じだ。逆に落ち着く。早速マーブルに転移ポイントを設置してもらう。これで、風呂と洗濯の準備はバッチリだ。時間もあるので、折角だからアマデウス神殿へと向かうことにした。意外なことにアマデウス神殿はそれほど距離は無かった。逆に大通りから外れた場所にあるのでそれほど大きな勢力ではないということかな。人はそれほどいなかった。
「アマデウス神殿へようこそ。お祈りですか?」
「はい、そのつもりです。あと、こちらをお納めください。」
心付けとして金貨10枚を神官らしき人に渡す。
「こ、これは、ありがとうございます。子供達のために主に使わせて頂きます。」
「おお、ここには孤児院があるのですか?」
「ええ、王都では犯罪者が出ないように身寄りの無い子供達を各教会が引き取って孤児院を運営しております。貴族の後ろ盾がある教会ではそこそこ良い暮らしをさせていると聞いておりますが、私達には貴族の後ろ盾がなく、信者からの寄付だけで運営している状態でして、財政は心許ないのです。」
「そうでしたか、これも何かの縁です。機会がありましたら少額で恐縮ですが、何かしら奉納いたします。」
「ありがとうございます。あっ、お祈りでしたね、ではこちらにどうぞ。」
「ご案内ありがとうございます。」
ご神体があったが、誰? この方。私の知っているアマデウスさんではないですね。何か厳格な表情をしているんですが、あの方もっと好々爺な感じなんですけど、って軽く突っ込みながらお祈りをする。すると意識が遠のいていく。あ、これ本人ご降臨かな。とか思いつつ遠のくままにしておく。
場面が切り替わり、何度か見たことのある風景がでてきた。やはりか。
「おう、アイスよ。ついに神殿に来てくれたのじゃな。」
「アマデウスさん、お久しぶりです。」
「会いに来てくれたばかりか、教会への寄付、感謝するぞい。」
「いえ、折角のご縁ですしね。」
「しかし、お主、我が像を大分くさしておったが、気のせいかの?」
「そりゃ、本人を拝見している身としては、姿形が違っていたら違和感ありまくりでしょうが。」
「まあ、神に会う機会なぞまずないからのう、それは突っ込まないでやって欲しい。」
「もちろんそのつもりです。ところで、今のところは報告することは特にないのですが。強いて言えば、黒いマスタードラゴンを倒したことくらいですが。」
「お主、簡単に言っておるが、そもそも黒のマスタードラゴンなぞ倒せるものはほとんどおらんぞ。しかもマーブルとジェミニの助けを必要とせずに倒しおって。」
「いえ、マーブルとの合体技があったればこそです。って、あれって倒してはいけなかったのですか? 喧嘩を売られたから買った感じになってしまったのですが。」
「・・・ただの喧嘩程度であれを倒せるのは異常じゃぞ。それはそうと、一応お主に伝えておかねばと思っての。」
「何でしょうか?」
「近いうちに、王都に魔物が襲撃してくるのでな、一応注意しておいた方がいいと思ってのう。」
「ちなみに襲ってくる魔物とは?」
「ミノタウロスじゃったかな? 大型の牛型の魔物じゃ。王都とはいえ簡単に倒せる冒険者はおらんじゃろう。かなりの総力戦になりそうじゃが、お主はどうする?」
「王都で一冒険者として指示通りに戦おうかと思っていたのですが、ミノタウロスですよね? ということは牛か、牛の魔物ということは、牛肉か、、、、。」
牛肉と言う言葉にマーブル達が反応した。
「ミャッ!!」
「牛肉ですか? アイスさんが調理するですか? それは是非手に入れないと!!」
「わーい! 牛のお肉だー!!」
「・・・というわけで、牛肉がついにこちらの世界でも手に入るということで、張り切って倒していきたいと思います。ちなみに、どの方角からたくさん襲撃してくるのですか?」
流石のアマデウスさんも少し引き気味に答える。
「お主達、ミノタウロスを牛肉扱いか、災厄級になりそうだというのに。まあよいわ。奴らは王都の南側と西側から来そうじゃな。南側は平原となっておる故少し目立つな。」
「とすると、西側一択ですかね。わかりました、ちなみに牛肉達は王都にどのくらいで到着しますか?」
「牛肉って、まあよい、あと1週間といったところかの?」
「1週間って、王都的にはかなりまずい状況ですね。」
「うむ、そうじゃのう。とはいっても、お主達にとっては『1週間も』といった感じじゃな。」
「まあ、そうですね。とはいえ、王都を数日散策したら、狩りに向かうとしますよ。」
「そ、そうか。では、伝えたいことは伝えたから頼むぞ。」
「あ、そうだ。討伐したらお供えした方がいいですか?」
「してくれるとありがたいが、無理してせんでもよい。その代わりにこの教会にいる子供達にも少し分けてやってくれんかの?」
「そちらはお任せ下さい。貴重な情報ありがとうございました。」
「うむ、また会おうぞ。」
景色が暗転して意識が戻る。時間的には一瞬程度のようで、神官さんに驚いた様子はなかった。お礼を言われて教会を出て、ホーク亭に戻る。さて、牛肉祭りだ。戦姫も誘ってみるかな、いや、止めておこう。王都に万が一があってはまずい。というわけで、私達4人で向かうとしますか、ふふ、牛肉を独り占めできるぞ。仮にまずくても、臭み抜きやらどうにかなる。筋が多ければ牛すじ煮込みだ。これは気合が入るな。マーブル達もその時が待ち遠しそうにしていた。
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