第48話 ほう、なかなか面倒臭そうですね。
王都に向かっているはずの私達だったが、何だかんだで1週間ねぐらと野営ポイントを往復している毎日だった。何かトラブルがあったとかそういったものではなく、道中だけで考えたら怖いくらい順調だったし、魔物狩りも結構な量の魔物を狩ったと思う。ハッキリ言おう、王都まで半日でおつりが来るくらいまで近くに転送ポイントを設置していたが、王都に入るという選択肢が私達、いや、正確には戦姫3人にはなかった。というのも、スガープラントを引っこ抜く作業が楽しいらしく、王都に少しずつ向かっては野営場所からねぐらに転送してこの作業を行っていた。スガープラントはもうすぐ引っこ抜けるくらいまでの状態になっていた。3日目まではびくともしていなかったあの植物だが、4日目以降は少しずつ動くようになってきたので、それで意地でも引っこ抜きたかったらしい。5日目からは何と身体強化魔法を使い出してさらに効率を上げた。
「さあ、あともう少しですわよ。みなさん、頑張りましょう。」
「「「おーっ!!」」」
何か水を差すのも申し訳ないので、アンジェリカさんの号令に応える私。セイラさんとルカさんはもちろんのこと、マーブルとジェミニもやる気に満ちている。こんな状態で一人冷めた様子を見せてもなんだか申し訳なかったので、ほどほどにやる気をみせていた、といってもこうしてワイワイやるのは楽しかったので、それがほどほどにやる気がでる要因なんですがね。
何かコツもつかめてきている感じがして、いつも以上に手応えを感じる。マーブルの号令に合わせて引っ張っていると、最後にはものすごくいい感触があったと思ったら後方に吹き飛ばされたような感覚を感じた。そう、ついにスガープラントを引っこ抜くことに成功したのだ。引っ張り要員は全員後ろに倒れる感じになってしまい一瞬静寂が支配するが、うまく引っこ抜けたことがわかると一転して喜びの声が辺りを支配した。
「つ、ついにやりましたわ、ようやくあの大物を引き抜くことに成功しましたわ!!」
アンジェリカさんは嬉しさを隠さずに喜びを表に表す。セイラさんはもちろん、普段はそれほど表情を変えることの無いルカさんも嬉しさに満ちあふれていた。マーブルもジェミニも嬉しそうに周りを駆け回っていたし、ライムも普段以上にピョンピョン跳ねていた。これは、○橋名人超えたな、見事。もちろん私も嬉しかった。
ふと気がつくと、日も暮れてきそうな時間だったので、夕食の準備をする。今夜はお祝いだから、奮発してドラゴンの肉出しちゃうぞ。メニューはいつもとそれほど変わらない。そりゃ、前世ほど食材の種類が豊富でもなければ、私は自分で料理をしてきたが、自分しか食べないのでレパートリーはそれほどない。しかし逆に、ここでしか味わえないものがある。それでも人目を避けての移動だったから仕方ないとはいえ、米、せめてパンは欲しかった。まあ、無い物ねだりですがね。
夕食は大好評だった。そりゃそうでしょう、お肉はドラゴンの肉、しかもマスタードラゴンですからねぇ。量に限りはあるけど、たまにしか出さないし、何よりもあの大きさだし残りは腐るほどある。スガーの加減次第で味もいろいろ変えられるし。でも、他の調味料になるもの欲しいな。王都に行けば手に入るとは思うけど、どれだけかかるんだろう。ぼったくり価格なら買わない。折角だから後で聞いてみますか。
「そういえば、アイスさん、このお肉はいつもよりも美味しいのですが、一体何の肉を使っていますの?」
「ああ、この肉ですか? ブラックドラゴンの肉ですよ。」
「ええっ? ブラックドラゴンですか? ドラゴンの肉はかなり美味しいと伺っておりますが、ここまでの味とは思いませんでしたわ。ドラゴンの肉は王家でも滅多にお目にかかれないと聞いております。兄上様や姉上様達でも食べたことがないそうですの。お父様とお母様のご成婚の時にお祝いとして食べたことがあるだけだったと記憶しております。」
「ほう、それだけ珍しいものだったんですね。いえ、先日魔の大森林を探索していたときに偶然遭遇したので、マーブルとジェミニと3人で倒したんですよ。」
実際はマーブルとジェミニが1体ずつ、私がマスタードラゴン1体それぞれ倒してるけど、とりあえず3人で倒したということにしておきますか。
「はい? アイスさんとマーブルちゃんとジェミニちゃん達だけであのドラゴンを倒したのですか? 普通は比較的弱いとされているフォレストドラゴンだけでも、軍隊規模が必要で、倒せてもかなりの被害を出すような存在なのに、ましてブラックドラゴンなのに無傷って。」
「うん、ありえない。」
「まあ、私はともかく、マーブルとジェミニはこう見えてもかなり強いですからね。」
「いやいや、マーブルちゃんとジェミニちゃんの強さはともかく、アイスさんもかなりヤバイレベルですよ、それ。」
かなり驚かれてはいるが、倒してしまったものはしょうがない。仮に強くても『オレ、ツエー』みたいな態度は取りたくないし。
「まあ、私が強いかどうかはさておき、今はこの肉を堪能しましょう。よろしければ、おかわりもありますので。」
「はぁ、アイスさん達に同行願うために奮発して依頼したのですが、依頼料以上のものを出されてしまいましたわ。」
「いえいえ、予想以上の依頼料ですよ。この肉はあくまで食事用ですから実質ただみたいなものですからお気になさらず。」
そんな感じで楽しい夕食の時間は過ぎていった。夕食後は風呂と洗濯を済ませてみんなでまったりしているときに、ふと聞きたいことを思い出したので聞いてみた。
「そういえば、聞きたいことがあるんですがよろしいですか。」
「ええ、わたくしに答えられることであれば。」
「この国にはエルフとかドワーフとか人族以外の住人はいるのですか?」
「人族以外の住人ですか? 一応いるにはいる、という程度で実際にはほとんどおりませんの。といいますのも、我が国では人族以外を迫害したりする方針はまったくありませんが、宗教の関係で、、、。」
「ああ、宗教ですか、なるほど。では、王国はその宗教を国教にされているのですか?」
「いえ、我が国では特に国教というものは存在しておりませんの、今のところ我が国ではどの宗教を信じようとも自由ですわ。ただ、、、。」
「ただ?」
「ただ、王族のどなたか、あるいは貴族が帰依している宗教もありまして、彼らがそれぞれその宗教を保護したりしておりまして、、、。」
「ああ、そういうことですか。そういった方達を盾に各宗教が幅を利かしていると。」
「ええ、お恥ずかしい話ですが。」
愚痴を告げるようにアンジェリカさん達は話を続けていた。内容はミトラス教の教義は人族が最も優れており、他の劣等種族は人族に支配されてしかるべきという胸くそ悪いものだった。他にもいろいろな宗教を教えてくれたが、ミトラス教の他にもそれと似たようなものが多かった。この国はそのミトラス教が最大勢力らしく、そのせいで人族以外の住人がほとんどいないみたいだ。ただ、この国は奴隷制度というものを禁止しているというのは救いだった。
一応この国では信仰の自由が保障されているらしく、ミトラス教以外の教会も各町に存在しているそうなので、信仰しているかは微妙だけど、アマデウス神殿には顔を出しておこうかと思う。王都だから流石にあるでしょ。少なくとも、他の種族に会いたければこの国を出る必要がある。特にこの国には愛着があるわけでもないし、この国を出ることは問題ないかな。まあ、今はまだ護衛任務中だから、そういったことは依頼を終えてから考えるとしますか。
その他の内容では、ホーク亭はこの国のあちこちにあり、しかもホーク亭のご主人は同じ一族だとか。これはこれで地味だけど凄いことだと思う。初代○ルソナでは薬屋が一族経営だったような気がするが、あんな感じなのだろうか? 何軒か回ってみようかな、ホーク亭。
そういった話の最後にアンジェリカさんが明日に王都に入る予定だそうだ。本心ではまだしばらくここでいろいろやりたいそうだが、1週間を過ぎると探索隊を王都から出されるらしい、そうするといろいろ厄介だから、嫌だけど戻るそうだ。ちなみに戻るのが嫌な理由が、王族内部では宗教絡みかどうかわからないけど勢力争いが激しく、足の引っ張り合いをしているらしく、非常に居心地が悪いらしい。細かい内容は明日の移動中に話し合うことにして戦姫の3人は部屋に戻っていった。
私達は3人と少し遊んでいたが、眠気がでてきたので寝ることにした。いつもの挨拶を済ませると途端に眠気が強く襲ってきた。さて、明日王都に到着したらどうしようか、そんなことを朧気に考えながら眠りに落ちていった。
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