第46話 ほう、初めてのお泊まりですな。フラグは無しです。

 私達は現在、タンバラの街を出発して南に向かっている。目的地は王都タンヌだ。不思議なことに道中に人はおらず、試しに気配探知をしてみるが、やはり人の気配は全く無かった。訳がわからなかったので、とりあえず聞いてみた。



「アンジェリカさん、少し聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」



「わたくしに答えられることでしたら、遠慮なく聞いてくださいませ。」



「えーっと、これって、王都に向かっているんですよね? 何で人っ子一人いないのですか?」



「そのことですか。当然人が通らないルートを使って移動しておりますから。」



「はい?」



「ですから、人が通らないルートを通っておりますの。人がいないのは当然ですわ。」



「え? 街道とか無いんですか?」



「もちろんありますわよ。でも、わたくし達は狩りをしながら王都へ行きますので、魔物の出やすい道を通っておりますのよ。あと、人通りが多いと変な視線を多く受けてしまいますので、それでしたら、魔物と戦いながら移動する方が気が楽ですの。」



 なるほど、合点がいった。人がいなければ、転移魔法も使えるな。これはひょっとしたら風呂などの問題も解決できそうだな。うんうん。どちらにしろ、道わからないから付いていくしかないのだけど。



「ところで、アイスさん。いつも引いておりました荷台はどうなさいましたの?」



「うん、それ私も気になってた。もしかして手放しちゃった?」



「いえ、しっかりとありますよ。マーブルに頼んで収納してもらっているんです。出します?」



「できれば出して欲しいのですが、これから上り坂などもありますので、大変ですよね?」



「いえ、重量自体は気にしなくても大丈夫ですよ。ポータースキルの重量軽減のおかげで、重さはほとんど感じませんので。ご希望ならお出ししますよ。」



「ええ、お願いしますわ。」



「わかりました。では、マーブル隊員、頼めますか?」



「ミャッ!」



 マーブルが敬礼した後、それらしい動きをしてもらいソリを取り出す。実はソリを収納しているのは私の空間収納のスキルだが、私達以外の前でこのスキルを使うときは、マーブルの魔法で収納してもらっていることにしている。



「マーブルちゃん、こんな魔法まで使えるのですか?」



「マーブルちゃん、凄い!」



「カワイイ上に、有能。最強。」



 戦姫の3人がマーブルを褒め称える。でも実際は私が出し入れしているから、マーブルは軽く返事をするくらいだった。それでも十分可愛かった。流石は私の猫。っと、まだ聞きたいことあるんだった。



「そういえば、このルートですと、王都までどのくらいかかります?」



「このルートですと、大体3日から4日かかりますわ。ちなみに街道を通る場合ですと、1週間かかりますの。ですから、ゆっくり狩りをしながら王都に向かってもこちらの方が早く着きますわ。」



「いつも3人はこのルートを使っているのですか?」



「ええ、そうですわ。こちらの方が早く着く上に、気が楽ですから。」



「ということは、いつも王都に戻るときは野営をされているのですか?」



「ええ、ですから、わたくし達は野営には慣れてますの。」



「そうしますと、3人で見張りとか大変じゃ無いですか?」



「普通はそうでしょうね。でも、わたくし達にはこれがありますの。」



 と言って、アンジェリカさんは何か道具を出してきた。



「これは半径5メートル以内であれば指定した人物以外は入ることができない結界を生み出す魔導具ですの。寝るときに使用すれば見張りの心配もなくグッスリ眠れますわ。」



「なるほど、それは便利ですね。」



「ええ、ですから盗賊の襲撃も問題なく防ぐことができますのよ。」



「ほう、それは凄いですね。ところで、一つ提案なのですが、野営に関しては、私に任せてもらえませんか?」



「アイスさん、何か方法をお持ちですの?」



「はい、魔導具を使うとなると、これだけの結界を発生させるくらいの優れものですから、必要な魔石は大量に必要では?」



「ええ、それなりの魔石が必要となりますわね。でも、それは普段から準備しておりますから、心配なさる必要はありませんわ。」



「いえいえ、魔石が勿体ないですから、それは次回以降に取っておきましょう。」



「まあ、アイスさんがそこまでおっしゃるのであれば、お任せしますわ。」



「ありがとうございます。とりあえず今日はある程度進みましょう。」



 そう言って、私達は道を進む。道中で美味しそうな採集物が見つかれば、それを採取してソリに入れていく。こういうのはジェミニが得意だ。セイラさんも結構見つけてくれた。マーブルは甘いものにしか反応しない。で、その甘いものはそれほどなかったため、マーブルは大人しかった。ライムは採取してきたものを次々に綺麗にしてくれた。



「ジェミニちゃん凄い! こんなに食べられるものってあるんだね。いろいろ知ることができて嬉しいよ。今後もそういったもの教えてね!!」



「キュウ(お任せあれです!!)!!」



「ライムちゃんも、凄い。取ってきたものが全部美味しそう。」



「わーい、ほめられたー!」



 ジェミニは敬礼で、ライムは垂直跳びで応える。うんうん、カワイイよ君たち。目尻が下がってしまう。


そんなこんなで道中を進むが、魔物の気配がほどんどない。聞いてみると、初日はいつもこんな感じなんだそうだ。2日目あたりからが本番らしい。このルートも進み方がだいたい決まっているらしく、今日はここで進んで、明日はここまで進む、といった感じらしい。そのため野営する場所もだいだい一緒だそうだ。いつも利用している状態で人が通らないということは、仮の転移ポイントを設置できそうだ。マーブルにまだポイント設置する余裕があるか聞くと、まだまだ余裕といった感じだった。では、転移ポイントをつくってもらって、寝るときはねぐらを利用しますか。風呂に入りたいので。



 戦姫の3人から言われたとおり、今日は魔物との遭遇はなかった。じゃあ、何でソリ出す必要あったの? とか思ったが、採集したものを入れまくったからそれでよしとしますか。



 初日の野営ポイントに到着する。



「アイスさん、今日の野営する場所に到着しましたわ。これからどうなさいますの?」



「これからいいところに移動します。では、マーブル隊員。」



 マーブルは「ミャッ!」と答えると、足下に魔方陣が出来上がる。戦姫の3人は驚きのあまり呆然としながらも恐る恐る聞いてくる。



「ア、アイスさん、こ、これは?」



「これは転送移動の魔方陣です。私が以前いた『ねぐら』に案内します。そこですと、魔物は襲ってこないので魔導具を使うまでもなくグッスリ寝られますよ。ただ、寝具はないので、用意しているもので我慢してもらう必要がありますが。それと、『ねぐら』には野営ではまず体験できないものがあります。楽しみにしていてください。」



「て、転移魔法? アイスさんはそんな凄いものを使えるんですの?」



「いえ、私は魔力がないので使えません。これはマーブルの魔法です。」



「アイスさんのお供ってどれも凄いんですのね。それはそうと、その『ねぐら』が気になります。早く案内してくださいませ。」



「うん、行ってみたい。」



「早く、行こう。」



「では、魔方陣の中に入ってくださいね。マーブル、よろしく。」



 マーブルの「ミャア!」というカワイイ鳴き声と共に場所が変わる。戦姫の3人は周りをキョロキョロ見渡している。



「こ、ここが、アイスさん達のねぐら、、。」



「何か、水たまりがある。あっ、いくつか部屋がある!!」



「洞窟なのに明るい、この明るいのはコケ?」



 3人それぞれが違う言葉が出てきており非常に興味深い。



「我らが『ねぐら』へようこそ!!」



「アイスさん、早速ですが、野営では体験できないものとは一体? あと、そこにある2つの穴が気になるのですが。この穴が関係していますの?」



「そうです、大いに関係しております。先に答えを言ってしまうと、大きな方の穴はずばりお風呂です。」



「「「えーーーーーっ、お風呂?」」」



 お、ハモった。



「で、小さい方の穴は洗濯場です。」



「す、凄い、た、確かに野営ではまず体験できないものですわね。」



「お風呂も凄いけど、洗濯はもっと凄いよ!!」



「清潔、大事。」



「ところで、洗濯場というのはわかりましたが、これでどうやって綺麗になるのですか?」



「それは、後でお見せしましょう。ただ、私の分と一緒に洗濯することになりますが、よろしいですか?」



「もちろん、かまいませんわ。お風呂もご一緒ですわよね?」



「いや、後で入るつもりです。自分を見失いそうなので。」



「別に一緒でもかまいませんわよ。」



「うん、アイスさんだったら一緒でもいいよ。」



「うん、むしろ一緒がいい。」



 そう言ってくれるのは嬉しいが、それは遠慮して先に入ってもらった。その間に食事の準備とか済ませてしまいたいのもある。もちろん美女(1名美少女)達と一緒では転生後の今ではいくらそういった興味が薄れているからといって、平然としていられる自信は全く無い。むしろ、今まで築いてきた信頼が一気に無くなる可能性がある。それだけは避けたい。



 野営場所に到着したのがいつもより早かったらしく、時間はまだ少し早かった。ねぐらといっても、所詮は洞窟なので、いつまでも地べたに座ってもらうのも気が引ける、というわけで、食材の準備も兼ねて先日狩ったワイルドボアを3体解凍して、ジェミニに解体、ライムに綺麗にしてもらう。その間にマーブルには燃やせるものを取ってきてもらう。戦姫の3人も手伝いを申し出てくれたので折角だから手伝ってもらうことにした。3人には、ねぐら付近にあるスガープラントを1つ取ってきてもらった。私はその間にお風呂の準備だ。調理係も兼ねてるし。



 スガープラントを取ってきてくれた3人にはお風呂に入ってもらった。着替えを用意してもらい、その辺りに体に付いている水分を取り去る空間をつくっておいた。お風呂にはいってもらっている間に、3人用の部屋を用意する。まあ、用意するといっても、空いている一部屋に先程解体したワイルドボアの毛皮を敷いたり、ライムに一通り綺麗にしてもらったりしただけだが。



 3人が風呂から出て着替えを済ませてもらい、部屋に案内してしばらくそこでくつろいでもらった。ワイルドボアの毛皮を敷物にしていたことに驚いていたが、そうしないと地べただし。料理についてだが、折角なので少し時間をかけて煮込んでいるため、くつろいでもらっている間に風呂に入ることにした。



 風呂からでて、水術で水滴を取り去って着替え終わった後、煮込んでいる鍋の様子を見に行ったら、いい感じで仕上がりそうだった。我ながらいいタイミングだった。準備が完了したので3人を呼んで夕食を食べる。今回はスガープラントをしっかり使っているので味などは大丈夫だと思う。



「では、いただきます!」



「「「いただきます!」」」



「ミャア!」「キュウ(いただきますです!)!」「わーい、いただきます!」



 私が音頭を取る。王女を差し置いていいのかなあ? まあ、本人も納得しているしいいか。



「こ、これは何という美味ですの。」



「なにこれ、美味しい!!」



「私、肉苦手。だけど、これは食べられる。むしろもっと食べたい。」



 喜んでくれて何よりだ。マーブル達は、と、うん、ご満悦のようだ。よかった。



 食事が終わり、片付けをするが、今はライムのおかげで面倒な油汚れも凄く楽になっている。片付けが終わると、3人は洗濯の様子が見たいというので、洗濯することにした。別段特別な方法ではなく洗濯場に貯めてある水の温度を高くして水を回転させるだけだ。とはいえ、その光景を見慣れていない3人は唖然として見ていた。時間にして10分くらい回してから水を無くしていく。それぞれ洗濯物を取り出して水分を抜いていくと、あら不思議。汚れもおちてパリパリの状態だ。これで洗濯終了。



「お風呂も驚きましたけど、洗濯はさらに驚きですわね。」



「うん、しかもこれ、宿で洗濯頼んだときより綺麗になってる。」



「うん、まるで新品。これ知ってしまうと、もう他では頼めない。」



 こちらも喜んでくれて何より。さて、時間も時間なのでそろそろ寝るとしますか。戦姫の3人はワイルドボアの毛皮の感触を気に入って、これにくるまって寝たいとのことだったので、3人に毛皮をあげることにした。3人は買う、と言ってくれたがその分大事に使ってくれればいいから、ということで収めてもらった。ねぐらでは必要ないからね。お休みなさいの挨拶をして3人のいる部屋から出る。



 そういえば、ここで寝るのは久しぶりかな。私は一角ウサギの毛皮を敷いてもう1枚のやはり一角ウサギの毛皮をかける。両側にはマーブルとジェミニが横になった。寝返りに注意してね。ライムはその近くに水をくんだ器を用意して、そこに入る。



「おやすみ、マーブル、ジェミニ、ライム。」



「ミャウ!」



「アイスさん、おやすみです!」



「あるじー、おやすみー!」



 うん、今日も1日楽しかった。マーブル、ジェミニ、ライム、明日もよろしくね。もちろん、戦姫の3人もよろしくお願いしますね。そう思いながら眠りに就いた。 

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