第45話 ほう、依頼クエストですか、ってあんたらかい!



 テシテシ、テシテシ、ポンポン、毎朝恒例の朝起こしだ。うん、ライムはやっぱり理解してくれていた。この子も偉いな、流石は我が子達、優秀だね。マーブル達が毎朝起こしてくれるのでこちらも気分良く起きることが出来る。いつも通り顔を洗って、朝食をもらいに行く。メルちゃんが待ち構えていた。



「おはようございます、アイスさん、マーブルちゃん、ジェミニちゃん、ライムちゃん。今日でここを去ってしまうんですね。寂しいです、もっとマーブルちゃん達と遊びたかったですぅ。」



「おはようございます、メルちゃん。別に今生の別れではないのですから、必ず戻ってきますよ、マーブル達と一緒に。」



「ミャー!」「キュウ(アイスさん達と一緒に戻ってくるです!)!」「ピー!」



 揃ってメルちゃんに答える。ライムには戦姫のメンバーやゴブリンのムラの住人以外には人の言葉を話さないように言ってあるため、喋ることができない対策として一応返事らしきものとして使うらしい。ライムやるな。



「アイスさん、マーブルちゃん達、約束ですよ?」



「はい、約束です。ここに戻ったら必ずここホーク亭でお世話になりますので。」



「約束してくれるならこれ以上は言いません。しばらく味わえないでしょうからホーク亭自慢の料理をじっくり味わって下さいね。」



「ありがとうございます。みんなでじっくりと味わって食べますよ。」



 そう言って朝食を受け取り、部屋に戻る。いつも通り美味しかったが、今日は特に美味しいと感じた。内臓が入っていた。これはギルドに提供したフォレストウルフの内臓かな? ほう、これは確かに美味い。ワイルドボアの内臓も美味かったが、これはこれで美味い。流石はライムがしっかり綺麗にした素材だ。これだけでもライムを仲間にした甲斐があった。もちろん癒やし枠としても申し分ない。ライム、十分役に立っているから心配しないで。



 食事が終わって、食器を返す前に出発する準備をした。正直また2階に上がって1階に戻る、なんて面倒なことはしたくない。忘れ物がないか確認しつつ、お礼としてライムに頼んで部屋を綺麗にしてもらった。素晴らしい仕上がりだった。



 出発する準備が整ったので、食器を返しに1階に戻ると、メルちゃんだけでなく、女将さんとご主人も見送りに来てくれた。ここに戻ったらお世話になる旨を伝えて、感謝と共に別れを告げてホーク亭を出る。本当にいい宿だった。移動先でもこれだけのいい宿に泊まりたいな。



 ホーク亭を出るが、時間はまだ少しあったので、ギースさんの所に一応挨拶に行った。ギースさんは餞別としてライム用の小さな帽子を作ってくれていた。もちろん素材はあの一角ウサギの毛皮だ。作成料を支払うと言うと、余った部分の素材で作ったものだからいらないと言われたが、無理を言って金貨5枚受け取ってもらった。恐らくこれでも少ないだろうが、これ以上は受け取ってくれなかった。



 まだ時間があったから屋台でもと思ったが、流石に朝食を食べたばかりなので、それほどお腹も空いていない。ということで、少し早いが冒険者ギルドに向かった。やはりこの時間は混み合っていたが、用のある窓口は手続きの窓口なので、比較的空いていた。それでもニーナさんは忙しそうにしていたが。というのもニーナさんやエルナさんは冒険者ギルドの看板嬢らしく野郎どもはもちろんのこと、女冒険者達の間でも人気は高いので、どうでもいい用件で絡んでくる冒険者が結構いるとか。人の心はわからないけど、個人的には逆効果なんじゃ無いかと思う。自分がそうされたらどう感じるかを考えてみればわかると思うのだが。まあ、どうでもいい話か。待つこと少し、私の番が来た。



「あっ、アイスさんおはようございます。例の依頼の件ですね?」



「そうです。指名依頼の護衛任務の手続きに参りました。」



「依頼主の方達はもうすぐお見えになると思います。今のうちにギルドカードを出して下さい。」



「はい、ギルドカードです。」



「はい、ギルドカードを受け取りました。この依頼を受けて頂いてギルドとしては嬉しいのですが、私個人的には1ヶ月以上マーブルちゃん達に会えないなんて、悲しすぎます! と、いうことで、アイスさん!!」



「は、はい?」



 ニーナさんがいきなり凄んできたのでびっくりしたが、その考えは読めている。あとはそれを承諾してくれるかどうかだ。



「今の私にはモフモフ成分が足りておりません! マーブルちゃん達に補給させて欲しいのです!! 1ヶ月ですよ? 1ヶ月!! どれだけつらいか!! アイスさんならわかりますよねっ?」



 予想はできたが、まさかこれほどとは。ってか顔が近い近い。これだけの美人に迫られたら、男としては嬉しい。嬉しいが、別に私に興味をもってそうなっているわけでは無い。ああ、周りは私に対して殺意を抱いてる、不可抗力なのに。これ以上は身の危険を感じるので、アイコンタクトでマーブル達に許可を求める。マーブル達は渋々了承してくれた。私に気遣ってのことだろう、ありがとうね我が猫達。



「依頼主のお3方がおみえになるまででしたら。」



「あ、ありがとうございます!!! ささっ、マーブルちゃん達、こっちに来て-!!」



 マーブル達はニーナさんの方に向かったが、その足取りは重そうだった。ゴメンね(泣)。私の後ろは誰もいなかったのが幸いしてニーナさんはモフモフを堪能する。まあ、気持ちはわかる。仮に私が逆の立場だったらそうしていただろう。でも、私だと周りが引いているだろう。やはりこの世界でも美人は得であり、ブサメンには厳しい世界だ。周りを見ると殺気立っていた視線が今度は嫉妬を込めたどす黒いものに変わっていた。これって、殺気より質悪いな。



 私に突き刺さっている視線に耐えながら待機していると、戦姫の3人が入ってきた。戦姫の3人はこちらの手続き窓口に向かってくる。私達に気付くと、アンジェリカさんが声をかけてくる。



「アイスさん、ご機嫌よう。わたくし達の依頼を受けて下さったとのこと、誠に感謝いたしますわ。」



「おはようございます、アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん。って依頼? アンジェリカさん達の? どういうこと?」



 依頼主って第3王女だよな? でも、今目の前にいるのはアンジェリカさんだよな。あ、あれ? ってことは、アンジェリカさんて第3王女? 確かにアンジェリカさんは高貴な身分というのは見てわかるけど、ま、まさか、王女?



 予想外のことにパニクっている状態を見て、アンジェリカさん達はドッキリ大成功みたいな顔で話してくる。



「どれだけ危険な敵に遭遇しても平然としていたアイスさんが、まさかこんなに驚いて下さるなんて、ニーナさんに名前を告げないようにお願いしたのは正解でしたわね。おかげさまで初めての表情をうかがうことができましたわ。」



「いや、そりゃ、びっくりしますって。いきなり想定外のことが起こったのですから。」



「ホホッ、アイスさんの滅多に見られない表情を堪能しましたわ。では、ニーナさん、依頼主と引受人が揃ったところですので、案内してください。」



 モフモフを堪能してこちらの遣り取りには全く神経が行ってなかったニーナさんはびっくりした表情で慌てて答える。



「は、はいっ、失礼しました。双方揃ったところですので、案内します。こちらのどうぞ。」



 口調こそしっかりしているが、その視線と態度はモフモフしたりないことがはっきりとわかるくらいの状態だった。いや、仕事しろよ。その隙にマーブル達は文字通り脱兎のごとく私の所に飛びついてきた。



「あぁ、私のモフモフが、、、、。」



 いや、このモフモフは私のですからね。



「お、おかえり、マーブル、ジェミニ。」



「ミ、ミャァ、、。」「キ、キュゥ、、。」



 2人ともぐったりしていた。ご、ごめんね。次に魔物が出たら思いっきり戦っていいからね。お昼ご飯も頑張って美味しいもの用意するからね。ちなみにライムは革袋に避難していたので無事だった。



 ニーナさんに案内されたのは2階の会議室だが、先日案内された場所の手前の部屋だ。小会議室といえる広さの部屋だった。部屋に入ると、大きめの細長いテーブルがあり、それぞれに名前が書いてあるプレートがあった。案内された席に着く。私達と戦姫の3人が向かい合うような形になっており、横側の席にニーナさんが座るような感じだ。進行はニーナさんが務める。



 話した内容は、依頼内容の確認と報酬の確認だ。それぞれの確認に間違いがないかを確認したところで話し合いは終わった。契約通りだったので特にこちらから言うことはなかったので、あっさりと終わった。ちなみに、ニーナさんは進行こそ恙なく執り行っていたが、視線は常にマーブル達に向いており、私達はもちろんのこと、戦姫の3人も呆れていた。そんな状態でも問題なく契約の手続きを行えるだけあって、かなり有能だということはわかる。でも残念な人だともいえる。



 手続きが終わって預けていたギルドカードを受け取り、1階に戻るとまた痛い視線にさらされる。原因は戦姫の3人だ。「また、戦姫の3人と一緒だ。」「ふざけやがって。」とか小声で怨嗟の声が聞こえた。これ、私が悪いの? とか考えながらギルドを出る。



「アイスさん達、少し準備をしたいのですが、一緒によろしいかしら?」



「ええ、かまいませんよ。ポーターとしての役割もありますしね。」



「本当にアイスさん達とお知り合いになれて幸運でしたわ。腕が立つ上にポーターもできて、さらに心強くて可愛らしいお供もいらっしゃいますし。」



「そうだね、私達恵まれてるよね?」



「うん、カワイイは正義。」



 私達に直接依頼したのは、王都への道中で狩りをしながら戻りたかったらしく、ポーターもできる上に腕の立つ冒険者だからだそうだ。そういった面を評価しての依頼だったら少し誇らしい。でも、正直あまり目立ちたくはなかったが。



 街で必要なものを購入していく。主に食事面だ。肉は道中で出来るだけ狩る予定なので、万が一肉が手に入らなかったときの保険として数日分、残りは肉だけでは飽きてしまうということで野菜類をそこそこ、あとはパンを多めに購入。通常のメンバーだと干し肉メインだが、私達と一緒ということで、干し肉は一切必要ないので、その分をパンにお金をかけることができる。あとは、野営用のテントを2張り。もちろん、戦姫と私達の分だ。戦姫の3人は1つのテントで問題ないと言ってくれたが、それは信頼されているのか、男として見られていないのか微妙だ、できれば前者であってほしい。一応2帳りにした理由としては、報告するときに同じテントで眠ったとわかるとどうなるかわかったものではない。無用な衝突は避けたい。あとそのた諸々を購入して準備はたぶん万端。では、王都に向けて出発だ。



 いつもの南門に向かうと、モウキさんがいた。まあ、普段は門番をしているので当たり前だけど。



「おう、戦姫の3人とアイス達じゃねえか、アイシャから話は聞いている。気をつけて行ってこいよ。そして、また戻ってこいよ。」



「ええ、行って参りますわ。」



「はい、行ってきますね。」



 モウキさんに挨拶をして南門を出発する。



「さて、道中狩りをしながらゆっくりと王都に向かいますわね。アイスさん達もよろしいかしら?」



「依頼は1ヶ月ですので、お任せしますよ。それ以前に、王都まで道がわからないのですから、付いていくしか選択肢がありませんし。」



「ホホッ、そうでしたわね。わたくしが王都まで案内いたしますわ。セイラやルカも一緒に手伝って下さいませね。」



「はいっ。」「わかりました。」



 一行は王都を目指して出発した。しかし、思った。なぜ徒歩なの? 馬車は?

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