第39話 ほう、こうなってしまうとは、お察し申し上げます。

 日も落ちかけてきた頃に盗賊団『ヘルハウンド』討伐隊がタンバラの街に到着した。総勢31名と2匹で出発したのだが、無事に戻ってきたのは20名だった。無事ではない11名はというと、盗賊団の構成員だった。基本的に戦姫以外のパーティには1人は構成員がいたらしい。何で3分の1も構成員がいたの? しかもギルドの精鋭じゃないの? 他の街もこんな感じなのかねえ? というか、あんなのに加わっていてメリットあったの? というのが正直な感想だ。どのパーティにどれだけ構成員がいたかなんて正直どうでもいい。さっさと報告完了していろいろやりたい。



 冒険者ギルドに戻り、討伐隊は先日の会議室に向かう。捕縛している連中は裏口で放っておいてある。縄ではなく水術で雁字搦めにしてあるので、脱出どころか寒さで力尽きるかどうかがせいぜいだと思う。



 先日座った席にそれぞれ着く。所々空席が目立つ。とりあえず全員席に着くと、アイシャさんが話し出す。



「皆さん、『ヘルハウンド』討伐ご苦労様でした。盗賊団を壊滅できたのは喜ばしいことなのですが、討伐隊にも構成員がいたことについては私の不明の致すところです。ともあれ、クエスト達成ですので、契約通り参加者の皆さんへの報酬は金貨100枚です。更には拠点から押収した分を集計して被害者への見舞金などを差し引いた額を分配した金額が追加報酬となります。金貨100枚については明日にでも支払いますが、追加の報酬については数日お待ちください。それでは、解散します。」



 アイシャさんの解散宣言で冒険者達は続々と会議室を出て行く。冒険者達の顔は暗い。当然だろう、パーティを組んでいた仲間が盗賊団とグルだったのだ。私なら分かった時点で粛正ですかね。皆さんお優しい。これ、皮肉じゃないですよ。私達も出ようとしたら、アイシャさんとモウキさんに止められた。話があるそう。


よく見たら、戦姫の3人も残っていた。



「アイスさん、引きとどめて申し訳ありません。少しお話がありまして。」



「お話? アジトにあったお宝と盗賊達の装備の剥ぎ取り品の件ですか? 大丈夫ですよ。しっかりと回収しておりますので。参加者で山分けでしたっけ? もちろんそのつもりでしたけど、何かありました?」



「いえ、その件ではありません。この作戦のためにアイスさんをだます結果になってしまい申し訳ありませんでした。」



「いえ、騙されたとは思っておりませんので、そのことはお気になさらず。逆に任務とはいえ部下に当たる人達を罠にはめなければならなかったことに関して、お察し申し上げます。まあ、そういうことですので、私は気にしておりません。早速押収品を確認してください。」



 何だか謝り合戦になりそうな気がしたので、さっさと次の話題に移すことにした。



「そうですね、早速確認してもよろしいですか?」



「はい、確認や集計など大変でしょうから早いうちに始めてしまいましょう。」



 ギルドの裏口にある荷台置き場へと向かう。捕縛した者達はモウキさんを通じて呼ばれていた門番の方達が連行していった。モウキさんはアイシャさんの補助のためここに残っていた。いつもは裏口からソリを入れずに素材などを出していたが、今回はソリも含めて裏口に入った。さてと、まずは押収品からかな。



 最初に押収品を出していく。次々に出てくる品々を見て、その場にいた人達は唖然とする。モウキさんが呆れた口調で聞いてくる。



「おいおい、どれだけあるんだこれ?」



「さあ、一応あるだけ入れてきました。どれだけ悪いことしてきたんでしょうかね。」



 まさか、ここまでとは思っていなかったアイシャさんが頭を抱える。



「モウキさんにも手伝ってもらいますからね、これだけの量、確認するだけでも頭がどうにかなりそう。」



「うわ、まじか。俺もかよ、、、、。」



「あ、この品は、どこかの貴族から探索依頼がでていたはずですわ。」



 流石は押収品、出所が多種多様だ。では、剥ぎ取り品を出していきましょうかね。



「では、次は盗賊が装備していたものです。ものはいいのですが、盗賊達が使っていたものです。かなり汚れていましたが、新しく仲間に加わってくれたライムがキレイにしてくれましたので、安心して確認してください。これらは剥ぎ取り品ですので、欲しい装備があったら優先的にもらってくださいね。早い者勝ちですよ。」



 そう言って、押収品とは別の場所に装備を出していくと、またもやモウキさんが呆れながらつぶやいた。



「これだけの押収品だけでもかなりの量があるのに、装備品もこれだけ入れてきやがったのか、、、。これもポーターのスキルなのか?」



「いえ、これはマーブルの闇魔法です。空間魔法ほどではないにしても、こういったことができるみたいなので、荷台に魔法をかけてもらってこうなっております。『ニャン!!』」



 マーブルが得意げに鳴く。すげぇ可愛い。思わず顔がほころぶ。



「お前の猫すげぇな。」



「マーブルだけじゃないですよ。ジェミニも凄いし、ライムも優秀ですよ。」



 胸を張って親馬鹿ぶりを発揮する。だって、本当に凄いからね、この子達は。



「お、おう。しかし、いろんな装備があるな、どれどれ、、、、、って、何だこれらは? ほとんど新品同様じゃねえか。あいつらどれだけ貯め込んでたんだ?」



「いえ、装備はどれもかなり汚れていましたよ。これらはライムが全部キレイにしてくれましたから。」



 こう言うと、ライムはまっすぐピョンピョン跳ねた。うん、可愛いな。私と戦姫以外の人がいるときは人語を話さないように頼んであるので、ライムもそれを守ってくれている。



「は? この数をか? 確かにスライムはこういったものをキレイにできるのは知っているが、あんな短期間でこれだけの数は無理だぞ。スライムキングクラスでさえこの量だと早くても丸1日かかるというのに、お前ってやつは。」



 モウキさんが眉間を押さえる。失礼な、ライムは優秀ですぞ。



「それにしても、キレイになったとはいえ装備については全部が普通に使える状態だな、というより装備にほとんど傷がないな、これはどういうことだ?」



「ああ、簡単な話です。盗賊はどうなってもいいので、とりあえず装備の保全を優先しましたので。」



「は? そう指令を出したのか? 戦姫の3人はそれで了解したのか?」



「もちろんですわ。我が国に貢献するどころか逆に足を引っ張る存在なんて必要ありませんわ。もちろん民は大事にすべき存在ですが、彼らは民ではありませんので、どうなろうと知ったことではありません。」



「お、おう、そうか。こればかりは盗賊達に同情してしまうな、、、。」



 そういえば、アイシャさんが静かだなと思っていたら、これからの手続き地獄に加え、これらの品々を見て、驚きのあまり硬直していたみたいだ。しばらく硬直していたが、ようやく我に返ったアイシャさんが立ち直って話してきた。



「装備品は、盗賊を倒した人がもらえますが、アイスさん、本当にこちらに引き渡していいのですか?」



「はい、かまいませんよ。正直、私には使いこなせないものばかりですし。アンジェリカさん達もさしあたって欲しいものはなかったそうです。ですから、今回の参加メンバーで欲しいという方がいらっしゃったら、差し上げてください。残りは山分けということで。」



「何から何までありがとうございます。お言葉に甘えてそのようにさせて頂きます。」



「あ、もちろん、アイシャさんもモウキさんも欲しいものが見つかったらもらってくださいね。優先権です優先権。」



「ハハッ、ありがたくそうさせてもらう。」



「では、納品は以上ですので、これで失礼しますね。」



「はい、ありがとうございました。」



「おう、アイス達、ありがとうな。」



「アイスさん、また一緒にパーティ組みましょう。」



 そう言って、この場を後にした。とはいえ、ボマードさんに用はあったので部屋からは出ていない。



「おう、アイス、相変わらずだな。で、ワイルドボアの件だな?」



「そうです。集計はできておりますか?」



「ああ、大丈夫だ。早速だが説明するか?」



「はい、お願いします。」



「まずは、解体費用だが、ワイルドボアは巨大だからな、1体につき銀貨5枚もらうぞ。全部で22体だから金貨11枚だな。で、皮は1体につき金貨11枚で、肉は金貨22枚になる。牙は金貨6枚、その他の部分はまとめて金貨6枚だ。本来はここまでの金額にならないが、状態が内臓が売れるほどもの凄くいい状態だから上乗せさせてもらった。ボスは皮と牙は通常の2倍だ。量も凄いからな。で、だ、合計で買取額は金貨969枚で解体費用として11枚もらうから、相殺で958枚だ。」



「そんな金額になるんですか?」



「ああ、これでも相場通りだ。これが木札だ。」



「ありがとうございます。」



「おう、またよろしくな。」



 部屋を出て、受取窓口に向かう。



「お疲れ様です、木札とギルドカードを出してください。」



「お疲れ様です、木札とギルドカードです、どうぞ。」



「それではお預かりします。報酬はどうされますか?」



「50枚を金貨で、80枚を銀貨で頂きます。残りは預けます。」



「わかりました、少しお待ちください。・・・・、お待たせしました。こちらが金貨で、こちらは銀貨になります、ご確認ください。あと、ギルドカードをお返しします。」



「ありがとうございます、確かに確認しました。」



「お疲れ様でした、またお願いします。」



 ワイルドボアの報酬をもらってギルドを後にする。一応夕食には間に合ったかな。本来なら討伐成功の宴会か何かを行うのだけど、今回は流石に素直に祝えないそうで、自然となしになった。個人的にはそういったものは好きではないので、ぶっちゃけ助かる。というわけで、ホーク亭に戻って夕食を頂く予定。



 ホーク亭に戻ってメルちゃんに挨拶して夕食を頂く。そこでふと気づいた。ライムの食事の分が、、、。


ライムは大丈夫と言ってはいるが、ライムだけ食べられないのはかわいそうだし、何より親としてそれは許されない。というわけで、お供が増えたので1食追加してもらった。金貨2枚でいいとのことだったので、お言葉に甘えておいた。



 夕食を食べながらライムに聞いてみた。



「ねえ、ライム。夕食の量は足りているかな? もし足りなければ追加するよ。」



「だいじょーぶ。あるじたちと同じものを食べたいだけだから、ちょっとでも問題なし-。」



「そうか、足りなくなったら遠慮なく言うんだよ。」



「はーい。」



 いつも通り和気藹々と夕食の時間は過ぎていった。夕食後ねぐらに移動して風呂と洗濯と着替えを済ませる。見たことも無い場所にライムも驚いていたが、マーブルとジェミニが楽しそうに過ごしているのを見て一緒に楽しんでいた。うんうん、いいことだ。宿に戻って寝る支度をする。ライムはスライムなので、水場の近くがいいと言っていたので、皿に水を入れてテーブルの上に置くと、ライムは嬉しそうに皿に入れた水に浸かっていった。



「おやすみ、マーブル、ジェミニ、ライム。」



「ニャー!」「アイスさん、おやすみです!」「あるじー、おやすみー。」



 いつもの遣り取りでもメンバーが1人増えると賑やかになる。これはこれでいいな。



 こうしてまったりと次の朝を迎えた。

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