第40話 ほう、こういう日が続くといいですね。

 テシテシ、テシテシ、ポヨンポヨン。ん? 何か増えてるぞ。そういえば、仲間が増えたんだっけ。ふむ、これはこれで、なかなか。というわけで、朝を迎える。



「おはよう、マーブル、ジェミニ、ライム。」



「ミャー!」



「アイスさん、おはようです!」



「おはよう、あるじー!」



 仲間が増えて賑やかになった、といっても人は私だけですがね。こうなってくると人が恋しくなるか、といったらそうならない。前世でもほぼずっとと言っていいくらい一人だったしなあ。そう考えたら夢にまで見ていた猫との生活に加え、かわいい仲間達が一緒にいる、マーブルだけでも最高だったが、今はさらに最高の気分だ。これ以上何か望んだら罰が当たるってもんです。



 起きて顔を洗ってさっぱりしてから朝食を摂った。さて、今日は特にこれといった用事はないし、ここ数日でかなり稼げたので、慌ててクエストもこなす必要がない。約一週間ぶりにゴブリンのムラにいくのもいいな。あ、手土産用意しないと。手土産はワイルドボアとスガープラントでいいかな。オーク肉は、向こうに腐るほどあるだろうしな。どちらにせよ、一旦ねぐらへ行って用意しますか。



「みなさん、今日はねぐらへ行きます。今回はスガープラントの確認とワイルドボアの解体を行います。」



「ミャア!」「お? 解体ですか? がんばるです!!」「わーい、お出かけ-!」



 みんな賛成してくれた。長時間の外出になるから、流石にここから移動するとバレる可能性があるため、一旦街の外に出てから転送かな。



 というわけで、宿を出て南門へ行く。モウキさんがいた。



「おう、アイス達か、今日もクエストか?」



「いえ、今日は普通に散策です。」



「そうか、気をつけて行ってこい。」



 モウキさんに見送られてタンバラの街を出る。今回は西の森へと進む。西の森に来たのは、森が近くにあるので、ここらへんで転送ポイントを作っておくためだ。少し入り込んで人がいるかどうかを気配探知で探る。人の気配がなかったので、ここに転送ポイントを作ってねぐらへと移った。



「よし、到着っと。まずはスガープラントからかな。」



 実験で植えておいたスガープラントを確認する。ん? 植えたのは3つくらいだったけど、これ少し増えてないか? ジェミニが反応した。ただ、増えたことに関しての反応じゃ無く、スガープラントそのものに対してだった。気づかないのかな? まあ、いいか。



「あ、あの甘い植物です! 今日はこれを引っこ抜くですか? 私とアイスさんしか引っ張れませんが、頑張るですよ!!」



「いや、あのときは引っ張りたくなったから引っ張っていたら、ああいう感じになっただけで、本来はこうやって掘るんだよ。あのとき一緒にいたメンバーには教えたから、食べたくなったらいつでも食べられるよ。って、あのときジェミニもいたのでは?」



「おっと、そうでした。あれは楽しかったです。」



 スガープラントを1本掘り出す。植えたときは少ししおれていたが、これは完全復活しているっぽいな。植えておけば長持ちすると言っていたけど、その通りか。折角掘ったので、久しぶりに切ってみんなで食べた。みんな美味しそうに食べていた。葉と茎の部分は後で調味料として使いますか。残った部分を布に巻いて絞り出す。ねぐらを出発するときに、食料以外は置いてきて正解だったな。こうした形で利用することになるとは思わなかった。せいぜいお風呂と洗濯で使用するだけのつもりだったが。



 スガープラントは植え直したものばかりではなく、凍らせて食料庫に入れていたものもあったので、今度はそれを引っ張り出す。2つほど試したいことがあったからだ。1つは解凍すると味がどうなるか、ということともう1つは、白い部分の水分だけを取り出すと甘さはどうなっているか、ということだ。



 結果的にはどちらも上手くいかなかった。解凍したやつは甘さがかなり落ちていた。ということで、凍らせての保存には向かないことがわかった。水分を除いてしまうやりかただと、かみ切れないわ、飲み込めないわで、さらには甘さが凝縮されているわけでもなかった。結果的にだが非常に勿体ないことをしたと思う。というわけで、凍らせたものは解凍して植え直す、ということにした。元に戻ってくれるといいのだけど。



 次は取っておいたワイルドボアの解体だ。24体分残っているが、今回は10体分ほど解体してもらう。


ジェミニが凄く張り切っていた。



「解体はわたしにお任せです! 腕がなるです!!」



 解凍したワイルドボアを渡すと、手際よく解体していく。ボマードさんの解体も素晴らしいものがあったが、ジェミニは何と言っても切る速度が違っていた。細かい部分はまだまだボマードさんには及ばないかもしれないが、それでも問題ないレベルといったところだろう。あっさりと10体分解体してしまった。



 そんな中、ライムが恐る恐るこう言ってきた。



「あ、あるじ。ボクも何か仕事したい。マーブルさんは転移魔法などの移動、ジェミニさんは解体。それに2人とも強い。けど、ボクは戦えないし、汚れを取ることしか役に立てていない。何かやりたい、、、。」



「ライムは、汚れをとることでもの凄く役に立っているよ。それだけでも十分役に立っているんだ。そんなに仕事をしたいのなら、そうだな、まだまだ汚れをとって欲しい所はいっぱいあるんだけど、ライムに頼めるかな?」



「うん! ボクいっぱい汚れとるー!! あるじ、どこ、どこ?」



 こう言うと、ライムは嬉しそうにピョンピョン跳ねまくっていた。この仕草を見るだけでも一緒にいる価値がある。それ以前に、戦闘要員など役に立つかどうかで一緒に行ってはいない。でも、それを話しても恐らくまだわかってくれないと思う。折角なのでねぐら内を綺麗にしてもらうことにした。といっても、ねぐらで使っていたウサギの毛皮の毛布など身の回りのものくらいだったけど。あ、そうだ。あとは風呂場と洗濯場を綺麗にしてもらいますか。そのことをライムに話すとライムは嬉しそうに跳ねまくっていた。



「よーし、まかせてー!!」



 張り切っていたライムは、毛布から何から何まで凄い速度で綺麗にしていった。さらに凄いのはこれだけの速度にもかかわらず汚れのみを消化しており、それだけでなく多少傷んでいた部分が新品のように綺麗になっていたことだった。汚れの度合いに応じてシュワシュワの度合いが変わるみたいで、毛布にはそれなりに、風呂場や洗濯場はあまりシュワシュワが出なかった。盗賊装備の時はもの凄いシュワシュワが出たものだけど。



「もの凄い綺麗になったね、ライム、ありがとう。」



「ミャー!!」



「おお、お見事です、ライム!」



 私だけでなく、マーブルもジェミニもライムを褒めると、ライムはこれ以上無いほど跳ねまくっていた。これ、高○名人と連射勝負したらどちらが勝つのだろうか? などと思ってしまった。すばらしい連打力だった。



 ムラへのお土産も準備できたが、これだけでは少々物足りない。折角だから、久しぶりにこの周辺を探索して何かあればいいなと思って提案すると、マーブル達も賛成してくれた。



「ミャア!」



「おお、この辺の探索ですか! わたしはこの辺の探索は初めてなので楽しみです!」



「たのしみー!!」



 嬉しそうにしてくれるのはいいけど、何もなかったらゴメンよ。久しぶりの探索だけど、植物についてはジェミニがいろいろと教えてくれた。相変わらずマーブルは甘いものしか教えてくれない。いつも美味しそうに食べているご飯には甘い植物はあまり使われていないのだよ。わかっててやっているのかな。ライムは基本何でも食べられるからその意見は参考にはならない。でも、いろいろと話しかけてくれるから退屈しない。それにライムも楽しそうだし。私は自分で見つけたものや、ジェミニ達におしえてもらった植物を回収して回った。泥や砂などはライムに取ってもらった。



 お腹が空いてきたなと思ったら、マーブル達から昼食の催促があった。ライムは特にお腹は空いていない様子だったが、マーブルとジェミニが催促ではしゃいでいたので、それに合わせてアクションしているようだ。



「ニャー、ニャー!!」



「アイスさん、お腹空いたです。お昼ご飯にしましょう、お昼ご飯!!」



「お昼-、お昼ー。」



 ダ、ダメだ、可愛すぎる。これは断れない、といいますか、これを断れる人っているのだろうか? というほどヤバい。まあ、私自身お腹空いているので断る気など全くないけど。というわけで、食事の支度をする。材料は、ねぐらにまだ残っているオーク肉で決定。折角だからスガープラントの葉と茎を調味料として使ってみる。あとは、みんなで探した植物を少し分けてもらう。ああ、そういえば炭水化物が用意してなかった。この世界の米見つけてないし、あるのかもわからない。パンは存在しているが、残念ながら作り方を知らない。材料? もちろん用意してないよ。その代わりスガープラントを絞ってその汁を使って何かデザートを作ることにしますか。でも、一人でやってもつまらないから手伝ってもらいますか。その方が喜んでくれるよね。



「では、これより昼飯の準備をします。しかし、私一人では大変なため、隊員諸君に手伝ってもらいますがよろしいですか?」



 マーブル達は一斉に賛成の意味を込めた敬礼で応えてくれた。あ、ライムは敬礼無理だからね、その場で嬉しそうに跳ねてましたよ、ええ、これも可愛かったですよ。



「協力に感謝します。では、最初はジェミニ隊員、解凍したオーク肉をこのくらいの大きさに切ってください。」



「分かりましたです!」



「次にマーブル隊員。燃やせるものをあの場所に持って行って火をおこしてください。」



「ミャッ!」



「最後にライム隊員。ジェミニ隊員が切り分けた内臓をキレイにしてください。あと、このスガープラントの汁を搾り出すことはできますか?」



「わかったー、キレイにする-。その白いやつだけど、いっぺんに全部はムリー、少しずつなら大丈夫-。」



「なるほど。では、ジェミニ隊員、オーク肉の切り分けが終わったら、スガープラントの白い部分をライム程度の大きさに切り分けてください。ライム隊員は、切り分けたスガープラントを絞ったらこの入れ物に入れてください。なお、絞りかすは今のところ必要ないので体に取り込めたら取り込んでかまいません。」



「おお、2つ目の任務です。頑張るです!」



「うん、わかったー。しっかりしぼるよー。」



 さすがにねぐらの中だと煙が充満してしまうので屋外だ。食器を用意して焼く用の鉄板とスープ用の鍋とスガープラントの汁用の鍋を出しておく。ジェミニがオーク肉を切り分ける。その間にスガープラントの茎と葉をすりつぶしておく。白い部分は甘いくせに、葉と茎の部分は塩胡椒になるというチート植物。元がデカい分、採れる量もかなりある。さすが大勢で一緒に引っ張れるほどの長さなだけはある。準備ができたのでマーブルを手伝おうと思ったら、マーブルはすでに燃料を運び終えていて火を付けるべく待機している状態だった。流石できる猫。



 最低限の準備ができたところで、まずはスープの準備から行う。ねぐらから湧き水をくんで鍋に入れる。オークの内臓も投入して、火の通りにくそうな植物を入れていく。これらの具材は火をおこし終わって手持ち無沙汰なマーブルが風魔法でキレイに切っていく。この辺は慣れたものだ。最初の具材を投入し終わると、マーブルに火力を上げてもらい、とりあえず沸騰させる。沸騰したら半分くらいに火力を落としてもらい、のこりの具材を投入する。スープの調理が一段落したところでオーク肉を焼く準備にかかる。



 ジェミニが切り分けてくれた部分に脂の塊があったので、それを使って油を引いていく、やばい、これだけでも美味そうなニオイがする。我慢していたマーブル達にも限界が来そうだったので、さっさと焼き上げることにする。両面、しっかりとメイラードをつけて仕上げに塩胡椒代わりのスガープラントの葉と茎(長ったらしくて面倒なので、これからはスガーと呼ぶ、異論は認めない。)をすりつぶしたものをかけていく。よし、いい感じだ。焼き上がったものから次々に皿に置いていく。スープもいい感じに仕上がってきたので、スガーで味を調える。ライムがキレイにしてくれたおかげで、冷凍保存しても多少は臭かった内臓だが全く臭みを感じなかった。料理が完成したのでみんなに分ける。オーク肉のステーキと塩モツ鍋? が完成だ。



「では、いただきます!!」



「ミャー!!」「いただきますです!!」「いただきます!!」



 元は敵とはいえ、食材に対する感謝は欠かしてはならないと思っているので、食事前に「いただきます」の言葉と感謝の気持ちを込めるのを怠ってはならない。こういう挨拶はみんなでやることにしている。



 結果から言いましょう。うまい、美味すぎる!! それぞれがあまりの美味さに叫んでしまう。これ、ねぐらじゃないとムリだよな。まあ、周りに人がいないことがわかっているからだろう。スープもかなり美味かった。この状態のモツやガツを味噌で煮込みたい。味噌、欲しい。



 食事が終わり、食器をライムにキレイにしてもらってから、湧き水で洗浄、水術で乾燥させる。マーブルと2人で生活していたときより、時間もかからず、仕上がりもすばらしかった。マーブルはもちろんのこと、ジェミニやライムもまたここで食事がしたいと言っていた。作った甲斐があったというものだ。またやろうね。



 日が暮れそうになるまで、ねぐら周辺の探索をして、転移ポイントに戻って少し探索してきたような感じでタンバラの街に戻った。その後は、いつもどおり宿に戻って夕食いただいて、ねぐらに転送、風呂洗濯着替えを済ませて、寝る時間まで3人でじゃれあった。



 まったり過ごすつもりが少し予定が狂った感じだけど、こういう日もいいものだね。マーブル、ジェミニ、ライム、明日もよろしくね。そういう気持ちを込めて、お休みの挨拶をして床についた。

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