第38話 ほう、作戦開始ですか。

 私達はライムという可愛くて便利なスライムを仲間に加えて意気揚々とアジトへ向かっている。2度ほど襲撃があったが、その後は大人しいものです。ライムは人語を話せるばかりではなく、マーブルとジェミニとも会話ができるみたいで、移動中は革袋の中ではなく私の頭の上に乗っている。時折アンジェリカさんが羨ましそうにこちらを見ている。分裂できたら差し上げるから我慢して。ちなみにライムにも了解は得ているので問題ない、と思う、多分。



 セイラさんを先頭にしばらく進んでいると、多くの気配を探知した。そのことを伝えると、どうやらアジトの入り口に近づいているからだそうだ。さらに進んでいくが、途中でセイラさんが歩みを止めた。



「入り口が近い。けど見張りが見当たらないんだよね。」



「ここら辺に気配は感じられませんね。恐らくこちらには気づいていないのかもしれません。」



「先手必勝がよろしいと思いますわ。素早く入り口から攻めて奇襲してやりましょう。」



 少人数での作戦は奇襲がしやすいので、これは定番だといえる。しかし、それはあくまで少人数で襲い、短時間で引き上げることが前提だ。何か気配探知を続けていたら、そのうち洞窟の壁とかも何となくわかるようになってしまった。水術やばすぎじゃねえの? ということで、ここのアジトの人数と地形がわかってしまったので、無理して奇襲することは無い。ついでに、相手の守り方もわかってしまった。これで作戦は決まりましたね。折角だからここにいる全員で思う存分暴れ回りましょうか。あ、ライムは別ね。



「奇襲はやめておきましょう。普通に入って普通に蹴散らせば問題ないです。」



「奇襲は止めておくって、どういうことですの? 隘路ですから奇襲の方が効果が高いと思いますわ。」



「ええ、隘路でしたら間違いなく奇襲の方がいいでしょうね。隘路なら大人数を相手にしなくて済みますし、個々の戦力ならこちらの方が上ですからこれ以上無い作戦です。けど、ここは違うんですよ。」



「え? 違う? この入り口ってどう見ても隘路が続きそうな感じですが。」



「そう、『普通』は、隘路が続きそうな感じです。『普通』ならです。しかし、『ヘルハウンド』が王国やら冒険者ギルドから討伐対象にされていても、ここまで生き延び、勢力を拡大できた原因はこの北側にあると思います。」



「この、北側が原因とは、いったいどういうことですの?」



「実は、この入り口って、入って少し進むと大きな部屋があります。言い換えると、実はここがメインの入り口なんです。恐らく、南と東は入り口こそ広いけど、少し入ると狭くなるよう作られているはずです。」



「守りやすいようにですの?」



「そうです。討伐隊は基本大人数で攻め寄せてきますので、少数で守るには、大群を展開できないようにすればいいのです。砦だと難しいですが、洞窟だと比較的容易にそれが実現できます。入り口を大きく見せれば、そちらに主力を回すでしょう。逆に入り口を小さく作っておけば、そこは裏口と判断されて少人数しか配置されない、少人数を相手にするわけですから、こちらは数で押しつぶすことができます。」



「相手もなかなか考えておりますわね。」



「ですね。かなりの知恵者だと思います。ただ、今回は相手が悪かったと思いますね。恐らく、アイシャギルド長とモウキさんはこの拠点の地形と敵の取る作戦をわかっている前提で今回の討伐作戦を実施してますね。これは私の個人的な考えですが、2人の考えた作戦は、メインと思われている入り口に主力を引きつけて討伐軍に加わっている構成員と呼応して挟み撃ちにするという盗賊の作戦を逆手にとって、構成員のいぶり出しをし、裏口と思われている箇所には広範囲で攻撃できる部隊を配置して殲滅する、といったところでしょうか。人数を搾ったのも、仮に討伐隊の全員が盗賊の構成員であったとしても、自分たちだけで倒せる分の人数を率いている、ということでしょう。というわけで、大きな入り口を攻撃するのはアイシャさんとモウキさんが担当できるけど、そうすると、裏口と思われているメインの入り口を正面から攻撃できるほどの殲滅力を持った冒険者が皆無か、いても人数が足りなかったので実行できなかった、といったところでしょうかね。」



「なるほど。ギルド長が『ようやく戦力が整った。』と言っていた意味がようやくわかりましたわ。確かにアイスさん達が加われば可能ですわね。」



「まあ、私はそこまで戦力になれるかどうかはわかりませんが、マーブルとジェミニがいますからね。」



「では、アイス『隊長』。作戦を説明してくださらないかしら?」



「では、作戦を説明します。その前に敵の戦力からです。敵の数はおよそ60。入り口こそ狭いですが、入るとすぐに大広間があります。敵の大半は現在そこにおります。恐らく私達を襲った先遣隊が戻ってこないので話し合いやら何やらをしていると思われます。警戒はしておりませんが、戦闘準備はある程度できていると思いますので、そこは油断無きよう。敵主力もここにおります。」



 気配探知からの人員の配置を感知してそう決定づける。討伐隊の主力は2つの入り口で無効化されていると思っているはずだ、と相手はそう思っている。油断していてくれるとこちらとしてもやりやすいのだけど。



「というわけで、作戦を説明します。装備で相手の身分がわかると思います。できれば幹部は生け捕りにしたいですが、最悪1人残ってくれれば十分なので、できるだけ幹部は殺すなとだけお願いしておきます。相手が死んでしまったらそれはそれで結構です。さんざん悪さをしてきているだけあって、装備の質はかなりよさそうです。今回も敵の命より敵の装備を大切に扱うことにします。」



 いい装備とはいえ、かなり薄汚れているが、今はライムがいるので、そんなのも新品同様に綺麗にしてくれる。さて、張り切って参りましょうか。



「横道にそれてしまいましたが、改めて作戦です。突入すると大広間に入りますが、大広間の先には東と南に続く道と住人の居住区に行く道、それに各部屋への扉があり大まかに分けると5つのグループに分けられます。では、まずはアンジェリカ隊員とセイラ隊員とで、正面の右隣の部隊をお願いします。アンジェリカ隊員の強さなら正面から堂々と殲滅していけるはずです。セイラ隊員は相手魔術師に狙撃をして下さい。お2人の相手するグループは魔術師系も数人配置されております。セイラ隊員は詠唱のジャマを優先して下さい。場合によってはアンジェリカ隊員は雷魔法の使用を許可します。」



「えっ? わたくしが雷魔法を使えるのがご存じなのですか?」



「何となくです。私の中ではヴァルキリーといったら、槍と雷魔法ですから。」



「そういうことでしたのね? ふふっ、了解しました。奥の手なので使わないようにはしますが、最悪使用させていただきますわね。」



「魔術師の詠唱阻止だよね、わかったよ。」



 そう言いながら、2名は敬礼でもって応える。



「次に、ルカ隊員は正面左隣の部隊をお願いします。できれば風魔法でお願いします。火魔法ですと大惨事になりかねません。それでも十分すぎると思いますが。」



「ん、わかった。」



「では、マーブル隊員はルカ隊員の左側の部隊をお願いします。殲滅後、ルカ隊員の補助を頼みます。ジェミニ隊員ですが、アンジェリカ隊員とセイラ隊員の右側の部隊をお願いします。マーブル隊員と同じく、殲滅後はお2人の補助をお願いします。」



「ミャッ!」



「キュウ(お任せあれです!)!」



「ライム隊員ですが、戦闘後に大仕事がありますので、その間は私の革袋の中に避難して下さい。」



「わかったー。隠れてる-。」



 ルカさんとマーブル、ジェミニは敬礼で応える。ライムはピョンピョンと跳びはねていた。いいね。



「私は正面の部隊を引き受けます。また、ホコリが散らないように後方の道も遮断します。皆さんくれぐれも無理はしないようにしてください。敵の殲滅よりも自分の安全を優先させましょう。また、前回同様、装備のはぎ取り優先です。」



 相手に気づかれても問題ないと判断したので、気合を入れて号令を下す。



「バーニィ起動。では、作戦開始、突撃--!!」



 今回は一斉に攻撃する予定だが、入り口が狭いので基本一人ずつであるので、水術移動で先頭を切る。入り口に入ると空気がかなり澱んでいたため思わず顔をしかめた。よくこんな環境で生活できるな。そりゃ、あれだけ汚くなっても平気でいられるはずだ。そんな事を思いつつ進むと、定番通りの台詞をもらった。



「何だ、お前達は?」



 折角定番の台詞を頂いたのだ。こちらも返事をすることにしますか。



「ちわっーす。清掃業者、モフモフといいまーす、ゴミ掃除に参りましたー。」



「そんなもん頼んだ覚えはねーぞ、それにここがどこだかわかってんのか?」



「ええ、ここが俗にいう『タンヌのゴミ』、いや『人類のゴミ』の集積所である『ヘルハウンド』さんですよね? ところで、『ヘルハウンド』なんて、名前付けてヘルハウンドのワンちゃんに失礼だと思わないのですか? 生きてて恥ずかしくないんですか?」



 そう言っていると、一人強そうな男が出てきた。あくまで「強そう」ってだけ。



「お前、いい度胸してるな。それだけこちらに舐めたことしてるんだ、覚悟はできてるだろうな?」



「おや、おたくはどなたですか? 今までさんざん国や街にたいして舐めたことしていたおたくらにそういったことを言う資格なんて無いんですよ。わかってます?」



 強そうな男は体を震わせている。さて、隊員達は到着したかな。あ、したね。では、もう少し話をしてやりますか、いや、やめておこう。これ以上話をしても意味無さそうだし。



「お前、よほど死にたいらしいな。ここまで虚仮にされたのは初めてだ。生きて帰れるとは思うなよ。」



「はいはい、皆さん揃いましたね。では、清掃会社モフモフ、これより掃除開始です。」



 そう言って、正面から突っ込んでいく。バーニィ起動させたけど、この程度相手では必要ないな。格闘術だけで相手をしますか。まずは、氷の壁で通路をふさいでっと。正面にいた強そうな男を始めとして次々にボディブロウを喰らわせると、相手はうめき声をあげながらあっけなく倒れる。動かれると困るので、膝の部分を踏みつけて動きを止めていく。ってか、もう終わっちゃった。もう少し手応えがあると思っていたのに拍子抜けだ。



 さて、他の人達は大丈夫かな、と見回すと、マーブルとジェミニは早急に仕事を終えて戦姫のサポートに回っていた。戦姫の3人はまだ戦いが続いていたが、マーブルとジェミニがそれぞれ救援に入って呆気なく終わった。マーブルとジェミニの凄いところはサポートするときは、必ずサポートする人が倒せるように仕向けることだ。決して自分たちは倒さない。流石自慢の猫達、お父さんは嬉しいです。



 全員を倒したことで、剥ぎ取りタイムだ。ハッキリ言うと、こっちの時間の方がかかった。剥ぎ取りを完了したら、ライムの出番だ。ライムは張り切って剥ぎ取り装備を綺麗にしていった。その間に外に置いておいたソリをこちらに持ってきた。綺麗になった装備を次々に入れていく。



「さて、ゴミ掃除の任務お疲れ様でした。しかし、まだ任務が少し残っておりますので改めて作戦を伝えます。といっても、部屋を調べて捕らえられている方達の救出や貯め込んだお宝の回収をすることくらいですので、みんなで手分けして調査です。」



「了解!!」



 全員が敬礼している。みんな案外こういったノリ好きなんだな。



 部屋を調べていると、捕らえられている人達はいなかったが、貯め込んでいたお宝はかなりあったが、やはりそこは盗賊の拠点、保存状況はお察し、というわけで、ライム隊員出番だ。ライム隊員の活躍によって綺麗な形に戻ったお宝達はソリの中に次々に消えていった。一応言っておきますが、装備はともかく、お宝は一旦ギルドに渡しますよ。元の持ち主に返した方がいいものもあるに決まっているでしょうから。



 さて、次は他の方面に向かった冒険者達が気になりますね。こちらの通路から救援しますか。奇襲になりますし。念のために戦姫の方達に提案しておきますか。



 他の方面に向かったメンバーの様子をこちらから探ろうと提案したら、頷いてくれたので、とりあえずここで生きている盗賊達を水術で固定しておく。アンジェリカさんとルカさん、私とセイラさんで別れて行動する。進んでいくと私達はモウキさん達のパーティと合流できた。盗賊達は全員倒されており、生きている者達は捕縛されていた。予想通り討伐組の中からも捕縛されている者が何人かいた。驚いたのはチームそのものが構成員ではなく、同じパーティを組んでいても構成員とそうでないものがいたことだ。とりあえず構成員以外の討伐隊の方が無事でよかった。モウキさんと話をする。



「おう、アイス達か。こっちに来てくれたということは、そっちも終わったということだな。済まなかったな、敵主力をそっちに任せることになってしまって。」



「いえいえ、探知で盗賊の数を確認したときに何となく作戦の意図がわかりましたので、これでは秘密にするしかないでしょうしね。まさか、少人数組が敵主力と戦う予定だったとは盗賊達も予想できなかったでしょうし。」



「そうだな。お前が参加してくれたおかげで、この作戦も早めることができた。そのおかげで被害がこの程度で済んだんだ。報酬は期待してもらっていいぞ。」



「これでこの街の治安が良くなるといいのですけどね。」



「そうだな、ところでアイス、そっちでも何人か生け捕りしたんだろう?」



「ええ、数名捕縛できております。残りは殲滅しました。」



「おう、そうか。では、北側から出て街に戻るとするか。アイシャには俺から伝えておく。」



「わかりました。向こうにはアンジェリカさん達が行っていると思います。」



「そうか、彼女たちは無事か?」



「セイラさんの表情を見れば一目瞭然かと。」



「それもそうだな。じゃあ、戻るか。」



 この後、アンジェリカさん達と合流し、簡易の荷台を作って生きている盗賊達を乗せてタンバラの街に戻ったが、自分のソリだけでなく何で盗賊達も引っ張っていかなきゃならんのだ、と愚痴をこぼしたが、



「そりゃ、お前はポーターだからな。」



 と、モウキさんに言われ、みんなも頷いていた。そうだった、私ポーターなんだよ。そう言われたら運ぶしかないじゃん。と落ち込んでいたら、先程までソリの上で遊んでいたマーブル達が肩の上に飛び移って私にスリスリしてきた。気を遣ってくれているのだろう。この気持ちよいモフモフのおかげで不満度がかなり下がった。さらに追い打ちをかけるようにライムが頭の上に乗ってきてピョンピョン跳びはねたので完全に不満度が無くなった。逆にモフれていない他の冒険者たちの不満度が上がった感じがした。



 フッ、勝ったな。

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