第29話 ほう、気づく人は気づくのですね。
左右のモフモフを堪能しつつ、タンバラの街に到着する。モウキさんがいた。そのモウキさんの顔は青ざめていた。右のモフモフがヴォーパルバニーだと気づいているのだろう。この人かなり強いんだな、とわかる。
「お、おい、アイス、お前の肩に乗っているウサギってもしかして、、、。」
「あ、モウキさんお疲れ様です。恐らくモウキさんの思っているとおりのウサギです。でも今は普通の野ウサギなので害はないですよ。安心してください。」
「まあ、普通は気づかれないからいいかもしれんが、万が一があるとシャレにならないぞ。」
「そうですか? 大人しかったですし、最初から友好的でしたしね。」
「友好的? どういうことだ?」
「昨日、一昨日のスガープラント採集で一緒に引っ張った同士ですよ。」
「お前、あの魔の大森林の群生地で手に入れたのか? あそこは魔物が多くて危険な場所なんだけどな。」
「確かにオークやオーガなどの魔物はいましたが、普通の種類じゃないですね。何か、フォレストオークとかフォレストオーガとかいう種類だったと思います。ここにいるウサギ含めてみんなで一緒にスガープラントを引っこ抜きましたね。」
「何っ? フォレスト種だと? フォレスト種のオークやオーガは1体でもオークキング並にやばいんだけどな。そんな連中と一緒に引っこ抜いていたのか?」
「ええ、必要分引っこ抜いた後はみんなで健闘をたたえ合ったりして楽しく採取できましたね。」
「そ、そうか。まあ、お前達が無事ならそれでいい。ところでアイス、すまんが念のためマーブルとそのウサギを従魔登録しておいてくれ。変に目を付けられると厄介事が増えるからな。お前の心の安寧のためだ。」
「わかりました、助言通りにギルドで従魔登録しておきますね。マーブル、ジェミニ、君たちは私の従魔として登録するけどいいかな?」
「ミャッ!」
「キュー!(わかりましたです!!)」
マーブルが敬礼のポーズをとると、ジェミニもそれを真似て敬礼のポーズを取る。何これ可愛すぎるんですけど。不意にこんなことされたら、可愛すぎて悶絶する。モウキさんですら悶絶しそうなところを我慢している。ジェミニの正体に気づいていてもこれだから、他の人だとひとたまりもないだろう。
「こいつら、人の言葉がわかるんだな。凄えの連れているなお前は。この見た目であの強さか。これ倒すのはSランク冒険者でも無理なんじゃねぇか? とにかく、街での厄介事は避けるようにしてくれ。っと、そのウサギはジェミニっていうんだな。」
「そうです。改めましてよろしくお願いしますね。」
「キュウ、キュー!(ジェミニというのです。よろしくです!)」
改めてジェミニが敬礼のポーズを取る。あ、これ結構気に入っているな。いいことだ。
「ところで、いつもより早い帰りだが、もうクエストは済んだのか? 」
「はい、今日はこれでクエスト完了です。街でやらないといけないこともあるので。って常駐の薬草集め忘れてた。まだ時間ありそうですかね。」
「いや、流石に薬草採取するほどの時間はなさそうだぞ。常駐型のクエストは達成できてなくてもペナルティはないから大丈夫だ。」
「そういえばそうでした。では、これがギルドカードです。」
「確かに確認した。くどいようだが、従魔登録を忘れないようにな。では入っていいぞ。」
街に入ってすぐに冒険者ギルドに向かう。モウキさんの助言通りに従魔登録をするためだ。ジェミニは町並みをキョロキョロと見ていた。人の街に入るのは初めてだろうからな。ウサギがキョロキョロとしているのは傍目からみてもほっこりしますしね。
「アイスさん。人が、人がいっぱいいるのです。」
「そりゃ、人の住んでいる街だからね。」
「なるほどです。アイスさん、美味しいものが食べたいです。美味しいもの食べに行きましょう!」
「それはちょっと待っててね。先にしなきゃいけないことがあるので、マーブルを見習って大人しくしてて。これから冒険者ギルドに行くけど、多分注目されるから。くれぐれも攻撃してはいけませんよ。」
「わかりましたです。大人しく野ウサギを演じるです。」
こんな感じでジェミニと会話しながら冒険者ギルドへ向かって行った。スキルで得た多種族との会話能力でウサギの言葉がわかるようになったので、こうして会話しているが、傍目から見たら妖しいよな。それ以上に言葉を教えてくれ!! と殺到してくるかもしれない。そっちの方が面倒かな。一方マーブルは私の左肩という定位置でいつもどおりくつろいでいた。
ギルドに到着して、クエストの報告をする前に従魔手続きを済ませておこうと、エリルさんのところではなくニーナさんのところに向かった。
「お疲れ様です、アイスさん、マーブルちゃん。あら、可愛らしい仲間が増えていますね。ウサギちゃんですか、名前は何ですか?」
「お疲れ様です、ニーナさん。こっちのウサギはジェミニといいます。」
「ジェミニちゃんですね、わかりました。ところでアイスさん、今日は指名依頼は受けていないはずですが、こちらの窓口に用事でも?」
「はい、この子達を従魔登録しておいた方がいいとモウキさんに言われたので、その通りだと思って登録しに来ました。」
「そうでしたか。では従魔登録を行いますね。といっても、こちらを付けてもらった状態でギルドカードに登録するだけなんですけど。この子達でしたら首輪になりますが、よろしいですか?」
首輪に関してはマーブルは渋々了解してくれたが、ジェミニはどうなのかな? 両方とも一応聞いて見たところ敬礼でもって応えてくれたので大丈夫だろう。
「2人とも大丈夫みたいですね、それでお願いします。ところで、首輪自体は変えることはできますか?」
「従魔の証を首輪につけますので、こちらに持ってきてくれれば付け替えます。」
「そうですか、わかりました。ではお願いしますね。」
「はい、わかりました。ではギルドカードを預かりますので出してくださいね。」
ニーナさんにギルドカードを渡すと、ニーナさんは受け取ったギルドカードを魔導具の上に置いた。魔導具から小さいプレートみたいなものが出てきて用意してきた首輪につけるとそのプレートは首輪にくっついた。
「これで従魔手続きは完了です。さっきも言いましたが、首輪を別のものにしたいときはこちらで付け替えできますので、新しい首輪を持ってきてくださいね。」
「わかりました、ありがとうございます。」
従魔手続きが終わると、ニーナさんは態度を改めてこう言ってきた。
「そういえば、アイスさん。指名依頼が来ておりますが受けますか。できれば受けて欲しいのですが。」
「依頼にもよりますが、どんな依頼ですか?」
「これです。是非受けて欲しいです。」
何か必死ですが、どういった内容なんでしょうかね?
「・・・・・。ニーナさん、これ職権乱用じゃないですかね? 気持ちはわかりますが、これはまずいでしょ。流石にこれは受けられませんね。」
何てことはなかった。依頼主はニーナさんで、依頼内容はマーブルを1日モフりたい、というものだった。いや、気持ちはわかるよ、気持ちは。けど、これは暴走しすぎなんじゃないか。マーブルも何かうんざりしている。マーブルは猫だけど、これは一応私の希望で猫になってもらっているようだ。アマさんが言ってた。私の顔を立てて他の人にも猫として振る舞っているが、実際は私以外には猫として接して欲しくないそうだ。
「だって、マーブルちゃん可愛いし。じゃ、じゃあ改めて依頼し直すから、そっちのジェミニちゃんはどうです?」
ジェミニを見ると、ジェミニは嫌そうにしていた。ジェミニの方は動き回れないことが嫌みたいだ。どちらにせよ、不許可だね。
「ジェミニも嫌みたいです。あきらめてください。」
渋々あきらめてくれた。何て残念な美女だ。ギルドで相談してギルドで飼えばいいのでは? と強く思った。明日の会議のあとでギルド長に打診してみますか。
次はエリルさんのところに向かう。クエストの達成報告だ。受注窓口の方は結構並んでいた。列の後ろに並ぶと、視線がやばい。無理もない、マーブルだけでなく今日からジェミニも一緒だ。注目されないわけがない。次々に撫でさせて欲しいとのお願いが来る。マーブルはそっぽを向いて拒否のしぐさをする。ジェミニはこういったことは初めてなので最初こそ我慢していたが、そのうち我慢できなくなって殺気を放ってしまった。モウキさんですら青ざめるほどの魔物から出る殺気だ。通常の冒険者では耐えられないだろう。やはり殺気に当てられた冒険者はことごとく膝をついた。顔は青ざめていた。これは慣れてもらうしかないかなどちら側も。
「アイスさん、何なんですか、あいつら! ジャマです!! 汚い手で私を触って欲しくないです!!! いい加減にして欲しいです!!!!」
ジェミニは激怒だ。
「まあ、そう怒らないで。可愛い動物を撫でたいのは仕方がない。私も同じ立場なら触らずにはいられないんだから。」
ジェミニをなだめていたら、私の番になった。
「アイスさん、お疲れ様です。あ、ウサギちゃんが増えてますね。こっちも可愛いですね。っと、報告でしたね。時間的にも早いんですが、もしかして失敗報告ですか? 無事に帰ってきてくれたのでよしとしますが。」
「お疲れ様です、エリルさん。この子は新しい仲間でジェミニと言います。失敗報告ではなく達成報告です。ギルドカードで確認してください。」
そう言ってギルドカードをエリルさんに渡す。そうか、普通はこんな短時間で討伐できないんだな。
「ジェミニちゃんというのですね? 私はエリルといいます、ジェミニちゃんよろしくね。っと確認でしたね、では、確認します。、、、え? カードにはカウントされていますが、本当にグラスウルフ25体も討伐されたんですか? いくら何でも早すぎます。」
「嘘ではないですよ。あの数くらいでしたら大丈夫ですよ。マーブルもいますし、今はジェミニもいますからね。」
「そ、そうですか。では、アイスさんクエスト達成です。グラスウルフ10体の討伐ですが、25体討伐に加えグラスウルフリーダーが含まれていますので、通常でしたら金貨5枚なのですが、今回は金貨15枚になります。」
「あれ、そんなにもらえるんですか? 後で返せと言われても返しませんよ。」
「それはないので、安心してください。これが木札です。受取窓口で受け取ってください。それと、素材の買取りがありましたら、ボマードさんのところに行ってくださいね。」
「確かに受け取りました。」
「はい、またお願いしますね。」
受注窓口を出て、解体窓口へと向かうと、窓口の人はわかっているとばかりに奥に案内してくれた。
「おう、アイスか。今日は解体か?」
「お疲れ様です。そうです、解体をお願いします。」
「そうか、今日はどれだけ持ってきてくれたんだ?」
「今日はですね、グラスウルフ25体とフォレストウルフ15体ですね。」
「お、おい、今日だけでその数か? とりあえず5体ずつ出してみてくれ。」
これだけの広さがあれば全部出せるかな。空間収納からとりあえず言われたとおり5体ずつ出すと、ボマードさんは唖然としていた。
「おい、今どこから出した。いつもの荷台はどうした?」
「ポーターのスキルで空間収納があったので、その練習としてこちらに入れておきました。」
「お前、収納系はバレないように隠しておけよ。」
「もちろんわかってますよ。ボマードさんだから、このスキルで出したんですよ。」
「そうか、それは嬉しいな。では、確認するぞ。」
ボマードさんはウルフ達を1体1体確認していく。
「うーん、相変わらず状態がいいな。鈍器で頭部を一撃で仕留めた感じだな。それでも牙は無傷だし血抜きも完璧だ。さらに毛皮の状態も良好か。お前のことだから、残りもこんな感じなんだろうな。」
「恐らくそうだと思います。いい状態かどうかは正直私にはわかりませんし。」
「まあ、いいや。場所的には残りの30体分も置けそうだな。解体した分はどうする? 全部買取でいいか?」
「そうですね、ウルフのリーダー達の分と通常の4体分は毛皮と牙を回収させてもらって、残りは買取でお願いします。」
「わかった。ところで、フォレストウルフの肉は結構美味いから肉も売れるんだが、そっちはどうする?」
「フォレストウルフは肉もいけるんですか? でしたら、フォレストウルフについては肉も同じようにリーダーと通常の4体は回収で、残りは買取でお願いします。」
「わかった。この数だと、今の時間からだと明日には出せるかな。というわけで、明日取りに来てくれ。それで、解体費用は買取分と相殺でかまわないか?」
「ありがとうございます。そうしてください。では、よろしくお願いしますね。」
ボマードさんから木札を受け取って、受取窓口に行って報酬を受け取り冒険者ギルドを後にした。
さて、残りの用事も済ませないとな。まずは宿賃払って期間更新しないと。
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