第28話 ほう、新しいモフモフですか。

 さて、面倒な用事はさらなる面倒な用事になってしまった感はある。が、そんなことよりもクエストだクエスト。というわけで、依頼型クエストを確認する。さっきよりも数が減っていた。そりゃ当たり前か。少々ムシャクシャしているから討伐系を希望。さてと、あるかな。お? いいものが残っておりました。Dランク以上推奨なので、Eランクでも受けられる。よし、これにしよう。少しテンションが上がる。それに反応したマーブルが起きた。可愛いあくびをしたあと伸びをするのだが、肩の上から落ちないから不思議だ。っと、クエスト受注しないと。ということで、依頼の紙をもって受注窓口のエルナさんのところに向かう。



「おはようございます、アイスさん、マーブルちゃん。」



「おはようございます、エルナさん。」



「ニャー。」



「あらあら、マーブルちゃんはしっかり挨拶できるのね。賢いわね、お姉さん嬉しいわ。」



「クエストの受注に来ました。」



「はい、クエストの確認をいたします。今日は常駐クエストは受けませんか? 受けても仮に成果がなくてもペナルティはないので、受けておいた方がいいと思いますよ。」



「わかりました、常駐クエストも受けておきます。今回はそっちの報告はできなさそうですが。」



「かまいませんよ。では常駐クエストの受注を確認しました。依頼型クエストの方ですが、アイスさん、これ本当に受けるのですか?」



「はい、そのつもりです。」



「グラスウルフ10体の討伐ですが、現在集団が大規模化しているので、パーティを組んでいるのならともかく、アイスさんお一人で受けるのは危険だと思いますが。」



「大丈夫です、マーブルもいますし。危なくなったら逃げますので。」



「どうしてもというのであれば、一応受注を確認しますが、本当に無理はしないでくださいね。」



「ご心配ありがとうございます。ところで、昨日の素材についてですが。」



「あ、素材買取の件ですね。ボマードさんから聞いております。ゴブリンは1体につき銅貨2枚、グラスウルフですが、毛皮が1枚につき銀貨2枚、牙が1本につき銀貨1枚、オークは革が1枚につき銀貨3枚、肉が1体分で銀貨5枚です。ゴブリン5体とグラスウルフ7体、オークが4体となりますので、合計で金貨5枚と銀貨4枚となりますが、お受け取りになりますか?」



「はい、正直フトコロが心許ない状態だったので、早速受け取ります。受取ですが、金貨3枚と銀貨24枚にしてもらってもいいですか?」



「わかりました。これが木札です。」



「ありがとうございます。お金を受け取ってからクエストに行ってきます。」



「はーい、気をつけて行ってきてくださいね。」



 受取窓口で報酬を受け取ってから南門へ行くと、今日もモウキさんが門番だった。



「おう、アイスとマーブル。今日はいつもより遅いな。」



「ちょっとギルド長に呼ばれて話をしておりました。」



「そうか、そうすると例の件が実行に移せそうだな、っとそれは置いといてだ。これからクエストか?」



「そうです。グラスウルフの討伐に向かいます。」



「グラスウルフか、ここより南に進んだところに集団でいたという報告があったな。相手は集団だが大丈夫か?」



「マーブルもいますし、大丈夫だと思います。」



「そうか、気をつけて行ってこい。」



「ありがとうございます、行ってきます。」



 モウキさんの情報通りに南へ進む。途中でそれらしい気配を感じた。数は15か。さてと、やりますかな。



「マーブル隊員。今回は左右で7体ずつ仕留めます。先に7体倒した方がボスと戦う権利を得ます。また、今回は接近戦のみでいこうと思いますがよろしいですか?」



「ミャッ!」



 マーブルが了解とばかりに右足を挙げていつもの敬礼のポーズをとる。



「バーニィ起動。では、突撃!!」



 ためらうことなく群れに突っ込む。やはりウルフだった。今回は左右別れるのではなく混戦で行く予定だ。攻撃圏内に入るとマーブルは私の肩から飛び出し攻撃を仕掛ける。私も負けじとウルフに攻撃をかける。それぞれ1体ずつ倒すと、少し離れたところにいる大きめのウルフが吠える。あれがボスだろう。吠え声に呼応したウルフ達が取り囲むように動き出した。それに合わせて攻撃を仕掛ける。別に相手の戦い方に会わせる必要などどこにもない。ウルフ達は囲むように動いて攻撃を仕掛けてくるが、軌道がわかりやすいので集団でも全く脅威にならない。



 特に苦戦することなく7体を倒したので、マーブルの方を見るとすでに7体倒したらしく、いつの間にかボスと対峙していた。くそっ負けた。仕方がないのでマーブルに任せるつもりだが、何もしないというのも芸がないから、とりあえずボスの逃げ道をふさぐべく、水術でボスの後方に氷の壁を張っておく。今回はサービスで厚く用意させて頂きました。2対1ではかなわないと思ったのか、ボスは逃げようとしたが、あっさりとマーブルに追いつかれ猫パンチ一撃で仕留められた。



「任務完了です。これより血抜きの作業に入りますので、マーブル隊員は周りの警戒をお願いします。」



「ミャア!!」



 速攻の勝負で私に勝ち、ボスも倒せたマーブルは満足そうに元気よく敬礼のポーズで答える。か、可愛すぎる。ウルフ達の死体を確認すると、マーブルが倒したウルフは頭蓋骨が破壊された感じになっていた。でも牙はしっかりと無傷で残っていた。マーブル、その肉球は鈍器扱いなのね。頼むから起こすときにはいつも通り可愛く叩いてください。切実なお願いです。



 解体はボマードさんに任せるので、血抜きだけで済むのは正直言って助かる。ってか器用5に設定すんなっての。生前も不器用だったのは認めるけど、器用さ5はないだろう。と愚痴りながら空間収納のスキルが上がっているかの確認もかねて放り込んでみると、15体全部入ってしまった。これだけ入るということは、少なくともレベル2にはなっているということか、うん、いいことだ。



 空間収納のスキルは中身が表示される。とりあえず中身を確認すると、フォレストウルフ15体となっていた。ん? あれ? フォレストウルフ? おい、ちょっと待て? 何か間違ってないか? ギルドカードを確認すると、依頼内容にはグラスウルフ10体と書かれていた。まじか。こいつらじゃなかった。意味もなく討伐してゴメン、頂いた素材は無駄なく使わせてもらいます。気を取り直して南に進むとしますか。



 さらに南に進んでいくと、また似たような気配を確認したので、近づくと、同じように犬っぽい集団がいた。数は25だった。さっきのフォレストウルフは毛が白っぽかったのに対し、こちらは毛が黒っぽい。念のため鑑定すると今度は間違いなくグラスウルフだった。作戦は同じでいこう。



「マーブル隊員。今回の作戦も先程と同じですが、今度は12体です。ボスと戦う条件もさっきと同じく先に12体倒した方に権利が与えられます。よろしいですね?」



「ミャッ!」



 了解の返事をもらったので、第2弾の開幕です。



「バーニィ起動。突撃っ!!」



 相手の動きもほとんど同じだったが、よく見ると、フォレストウルフに比べるとグラスウルフは毛が硬めなので、攻撃する場所によっては痛いな。というわけで、先程はほとんど足中心で攻撃していたが、今回はさすがにそれだとこちらも少なからぬダメージを負いそうなのでバーニィバンカーで倒していくことにする。素手の時とは違い、流石に武器使用だと早い。解説する暇なく倒されていくグラスウルフ達。マーブルの様子を見ると、残り2、3体といったところか。その様子を見ていたグラスウルフのボスはマーブルの方に向かった。ボスが加わったところでマーブルの敵にはならないとはいえ、ボスを倒す権利があるのはこっちだ。



 マーブルに突進するボスめがけてランニングエルボーを放つ。グラスウルフのボスは5メートルほど吹っ飛んだので、追い打ちをかけようとそこに行ったら、グラスウルフのボスは事切れていた。改めてマーブルの様子を見ると、最後の1体らしきグラスウルフが猫パンチを食らって顔が変形しているのを確認した。すげぇ威力だな、おい。と驚いていると、それを見たマーブルが得意げに「ニャー」と鳴いた。控えめに言っても超可愛いな。それを間近で見られる幸せ。



 グラスウルフ25体もしっかりと血抜きをしておく。その25体も空間収納に収まってしまった。試しにスキルを鑑定してみると、空間収納スキルは4になっていた。32メートル立方か。凄い勢いで大きくなっているな。戻ったらソリも空間収納にいれておこう。とりあえず、今日のところはこれで戻るとしますか。



 タンバラの街を目指してのんびり歩いていると、ものすごく速い速度でこちらに向かっている1体が確認できた。敵意や害意といったものは感じられなかった。その存在が視界に入ったときは少しビックリした。ウサギだ。しかも見たことのあるウサギだ。私達の姿を確認するとそのウサギは目の前に来て立ち止まる。



「昨日の人間さん、こんにちはです。猫さんの方もこんにちはです。」



 ウサギ語で話しかけてきた。



「誰かと思ったら、昨日のウサギさんでしたか、こんにちは。で、いきなりどうしました?」



「ニャー!」



「はい、昨日、一昨日とあの甘い植物を我々の住み処に持ち帰ったのです。それで持ち帰った経緯を長に話したのです。そしたら、長もこの植物のおいしさにとても喜んだのです。また、それをきっかけに一緒に採ったオーガさんやオークさん達と仲良しになれたのです。それでそれぞれの長達が集まって話し合いをして仲良くやっていこうという流れになったのです。」



「おお、それはすごいことですね。おめでとうございます。それで、今日こうしてやってきたのは?」



「それです。長達が話し合った結果、あの植物の採集方法を教えてくれたり、採集を手伝ってくれた人間さんにお礼としてその人間さんを護衛しようということになり、私がそれに選ばれたのです。ですから、これから人間さんと一緒に行動するためにここに来たのです。」



「そのお気持ちだけで十分です。護衛は必要ではないので、今度またスガープラントを採集するときに協力して頂ければ満足です。」



「このまま帰ってしまうと、長に会わせる顔がないです。あ、もしかして、私が弱くて護衛にならないと思っているですか、、、。」



 何か凄いションボリしてるな。ウサギといってもヴォーパルバニーというヤバイ種類だから侮っているわけではないのだけど。



「そういうことではないのです。あなたはヴォーパルバニー種ですから、むしろ強いというのは理解しております。強い弱い関係なく護衛は必要ないと言っているのです。」



「そうですか、でも私もこのまま帰るわけにはいかないです。普通にお供でもいいから連れて行って欲しいです。また、極秘任務として長から他に美味しいものがあったら、見つけてきて欲しいとも言われてるです。」



 今、極秘任務っていったよね? そんなに簡単に話してもいいの? ってか、それって極秘にする必要全くないでしょ? まあ、いいや。心強い味方がいるのはありがたい。しかも外見は可愛いし。



「でしたら、私の許可なしでみだりに相手を攻撃しないこと、普段はただの野ウサギとして過ごすこと、この2点を守ってくれるのでしたら、一緒に来てもかまいません。」



「あ、ありがとです。それと私のことはジェミニと呼んで欲しいです。」



「そうですか、わかりました。ジェミニ、私はアイスといいます。この猫はマーブルといいます。これからよろしく。」



「ニャア!」



「はい、アイスさん、マーブル殿。これからよろしくお願いするのです。」



 そう言うと、ジェミニはうれしそうに右肩に乗ってきた。経緯はともかく、さらにモフモフ、いや、仲間が増えましたね。これからさらに楽しい人生になっていくような気がします。



 そう思い喜びをかみしめながら私は帰途に就いた。

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