第30話 ほう、新たな1日ですね。
今日のクエスト達成の報告は終わったから、忘れないうちに宿の更新をしておかないと。あと食事増やさないとね。ジェミニはこんなに小さいけど私よりも食べる。こりゃ2食追加しておかないとダメかな。とか考えながらホーク亭に戻る。早速メルちゃんがいたので、用件を済ませてしまおう。
「お帰りなさい、アイスさん、マーブルちゃん。あれ? ウサギちゃんがいますね、新しい仲間ですか?」
「ただいま戻りました。メルちゃん、このウサギはジェミニといいます、マーブル同様よろしくお願いしますね。」
「ジェミニちゃんですか? 私はメルよ。よろしくね。」
「キュウ、キュー。(ワタシはジェミニというです。よろしくです。)」
「わあ、ジェミニちゃん。私の言ってることがわかるんだ。マーブルちゃんといい、ジェミニちゃんといい、アイスさんの連れ合いは賢い子ばかりですね。」
「ありがとうございます。で、忘れないうちにと思いまして、宿って今日まででしたよね? 宿泊の延長ってできますか?」
「延長ですか? ありがとうございます。アイスさんは部屋を綺麗に使ってくれているので、そういったお客さんに長く泊まって頂けるとこちらとしても助かります。」
「そうですか、では30日分でお願いできますか? あと、食事は1食4人分でお願いしたいのですが。」
「ありがとうございます!! 30日もご利用頂けるとはこちらとしてもありがたいです。1泊で4人分の食事付きですと、1泊銀貨3枚と銅貨8枚となりますので、30日分だと金貨11枚と銀貨4枚ですが、銀貨4枚分はサービスいたしますので、金貨11枚頂きます。」
「おまけしてくれるんですか? ありがとうございます。では先に金貨11枚支払っておきます。どうぞ、確認してください。」
「先払いですか? ありがとうございます。・・・確かに金貨11枚頂きました。ご利用ありがとうございます。ジェミニちゃんが増えたということは、夕食から4食分必要ですよね? 今日の夕食と明日の朝食分につきましてもサービスいたします。」
「いえ、追加料金として払いますよ。」
「いえいえ、この程度しかサービスできなくて逆に申し訳ないので、これくらいはさせてください。」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。では、夕食の時間くらいに戻りますのでよろしくお願いします。」
「はーい、ではいってらっしゃいませ。」
宿代が少し安くなるとは思わなかったな、とりあえず30日は最悪宿にいるだけで生活できる。支払い忘れによって追い出されるのはいろんな意味で勘弁願いたいからね。
ホーク亭を出て、次はギースさんの店に向かうことにした。ジェミニ用の首輪を追加で作ってもらうためだ。流石に昨日の今日だから道を間違えることなく到着した。店に入ると、店番らしき人がいた。
「いらっしゃいませ、何か入り用ですか?」
「はい、昨日装備の制作をお願いしたアイスと申しますが、ギースさんに少し話がありまして。」
「アイス様ですね、話は伺っております。親方に用ですか? すぐお呼びしますので、お待ちください。」
少し待つと、ギースさんが出てきた。
「おう、アイスか、どうした? 何か問題でも起きたか? 注文の品だったら、予定通り2日後だぞ。」
「ギースさん、どうも。そちらはそのままでお願いします。少しお願いがありまして。」
「お願い? ん? お前さん、お供が増えたか。ということは、そちらのウサギの首輪だな? それだったら問題ない。追加で作っておくよ。素材は一緒でいいな?」
「話が早くて助かります。それでお願いします。あと、この子はジェミニといいます。」
「そうか、ジェミニという名か。ところで、申し訳ないが追加で金貨1枚もらうぞ。」
「わかりました、では金貨1枚です。」
「まいど、確かに受け取った。首輪だから装備と一緒に渡せそうだ。サイズはマーブルと同じでよさそうだな。では、2日後に取りに来てくれ。あと、まだ追加があれば承るが、これ以上は一緒に渡せないと思うが了承してくれ。」
「ありがとうございます。2日後が楽しみです。」
「ああ、期待して待っててくれ。いいものに仕上がりそうだ。」
ギースさんの店を出ると、ジェミニが話しかけてきた。
「アイスさん、首輪を作るというのはわかったですが、素材は何にしたですか?」
「素材は一角ウサギの毛皮だ、ってジェミニ、確認せず悪かったが、一角ウサギの毛皮でよかったか?」
「確かに同じウサギかもしれないですが、種族が違いますので問題ないです。お肉も問題なく食べられるです。」
「そ、そうか、それを聞いて安心した。本当なら最初に聞かなきゃならないことだったんだけど。そうなると出来上がりが楽しみだな。みんなお揃いになるね。私は首輪じゃないけど。」
「アイスさんと、マーブル殿とお揃いですか? それは楽しみですね!!」
「ニャア!!」
よかった。2人?とも嬉しそうだ。最低限の用も済んだし、折角だから町並みを見て回りますか。
アクセサリーの店や魔導具の店など意外にも多く存在していた。でも、魔力が「0」の私にどうしろと? あとは、服飾店があったので、何着か購入した。案外安かったな。食堂などもいくつか見つかったが、ホーク亭で夕食が出るので今日はいいか。正直興味はあるので、行く機会があったら行ってみるとしますか。散策ついでに屋台が何軒かあったので、いくつか購入した。肉自体は悪くなかったが、味がちょっと、といったところだ。そうこうしているうちに夕食の時間が近かったので、ホーク亭に戻った。ついでなので、ソリを収納してみたが、すんなりと収納できた。これで空間収納のスキルを隠したりできるな。
ホーク亭に戻り夕食を済ませて部屋で少しくつろぐ。スープとパンだけとはいえ、味はすばらしい。
「アイスさん、これ美味しいですよ! こんなに美味しいのに囲まれているのは初めてです! アイスさん達は毎日こんな美味しいものを食べているですか?」
そういえば、ジェミニがホーク亭の食事を食べて興奮気味にそう言っていたな。用意した甲斐があるってもんだ。作ったのは私ではないが。お腹も落ち着いたところで、いつも通りねぐらに戻って風呂と洗濯を済ませようと思ったが、そういえば今日からジェミニが一緒だった。というわけで、一応話をしておく。
「これから、お風呂に入って、服を洗濯しに行きます。」
「え? お風呂ですか? 初めて聞くです。洗濯というのも知らないです。それって何ですか?」
「お風呂というのは、温かいお湯に浸かって今日の汚れと疲れをとる場所です。洗濯というのは、今私が着ている服を洗って綺麗にする作業のことです。」
「えーっ、お湯に浸かるですか? ここにはそういった場所はないですが。」
「そうです。ですから今から移動します。驚かないように。」
「わかりましたです。どこに行くですか?」
「行き先は教えません、というかわかりません。定位置に乗ってくれれば大丈夫です。」
マーブルはいつものことなので、左肩に乗った。それを見たジェミニは頭の上に「?」を付けたまま右肩に乗る。こういった仕草も可愛いな。
「では、移動します。マーブル隊員よろしくお願いします。」
「ミャッ!」
マーブルの転移魔法でねぐらに到着する。いきなり景色が変わったのでジェミニが驚いている。当たり前か。
「ア、アイスさん、ここってどこですか?」
「ここは、魔の大森林にある私達の家みたいなものだね。私は『ねぐら』と呼んでいる。」
「『ねぐら』ですか?」
「そう、ここは私とマーブルがここにいたときに生活していたところだよ。」
「アイスさん達がここに住んでいたですか? そういえばお風呂はどこですか?」
「慌てなくてもいいよ。お風呂は逃げないから。準備するから少し待っててね。」
湧き水から水術でお風呂用の穴と洗濯用の穴に水を入れていく。
「えっ? 水が勝手に動いているですが、これは?」
「これは私のスキルで水術といって、身の回りにある水の成分を操る術だよ。」
「アイスさんってそんなに凄い術を持っているですね。ビックリです。」
「凄いかどうかはわからないけど、便利であることには違いないかな。魔力0だけど(泣)。」
「ええっ、魔力0ですか? こんな凄いことやってるのに魔力一切使ってないですか?」
「使おうにも使えないからね、っと水も十分溜まったな。では、温めますか。」
慣れているから加熱の速度や加減もあっという間に終わる。服を脱いで洗濯用の水に放り込んでから湯船に浸かる。マーブルも慣れているので一段高くなっている部分にためらいなく入っていく。ジェミニはそれを見て驚き、恐る恐る湯船にかわいらしい前足をちょこんとつける。
「何です? これ、水が温かいです。これに入るですか?」
「そう、この温かい水に浸かるのがお風呂に入るということ。試しに入ってごらん。もちろん濡れるけど、私が乾かすから大丈夫だよ。」
「では、突撃です。・・・はぁ、温かいですぅ。これは気持ちいいです。くせになるです。」
ジェミニも気に入ってくれたようだな。マーブルはいつも通り気持ちよさそうだ。この2人?が気持ちよさそうにしているのをみると、とてもほっこりする。マーブルだけでも破壊力十分だったが、ジェミニも加わってしまうとさらに破壊力がやばい。っと、ほっこりしてないで、洗濯洗濯。洗濯といっても、お湯に浸かっている間に洗濯用の水を回転させるだけ。洗濯用の水は入浴用と違いかなり熱いので汚れの落ち方がものすごい。
しばらく湯に浸かっていたが、これ以上はのぼせてしまうので、名残惜しいが出ることにする。とはいっても別に今日だけじゃないからね。私が湯から出て水術で乾かしてから干してある服を着ると、マーブルが湯から出てきたので水術で乾かす。乾かした後はねぐらにあるウサギ毛布で横になる。ジェミニはというと、マーブルが湯から出るのに合わせて出てきたので、一旦お湯に戻ってもらってマーブルを乾かしてから出てもらった。ジェミニにも水術で乾かすが、マーブルより毛が短い分乾燥するのも早かった。洗濯した服は乾かしてからいつものところに干しておく。風呂と洗濯が済むと、それぞれ水を抜いておく。
さっぱりしたところで、定位置に乗ってもらい転送魔法で宿に戻る。その頃になるとジェミニは驚き疲れたのか、それほど驚かなくなったが、こんなことを聞いてきた。
「アイスさん、あの『ねぐら』という家があるのに、何でここで泊まるですか?」
「あの『ねぐら』って、マーブルの転送魔法がないと戻れないんだよね。場所がわからないから。」
「そうなんですか?」
「そう、魔の大森林といわれている山からこの街に来るまでに何十日もかかっているんだよ。何十日もさまようと体がかなり汚れるから、お風呂と洗濯用に残しておいてるんだよ。元々は人のいる街や村に行くつもりだったから。」
「そうだったですね。では、お風呂や洗濯のできる場所があったら、『ねぐら』には戻らないですか?」
「そうだね。10日のうち1日は戻るかもしれないけど、基本戻らないかな。」
「そうですか。いろいろと驚きっぱなしの1日でしたが、アイスさんのお供になれて嬉しいです。これから楽しみでたまらないです。」
「そうか、そう思ってもらえると嬉しいよ。私としてもマーブルと2人?だけでも楽しい日々を送れたけど、ジェミニも一緒にいてくれるとさらに楽しい日々が送れそうだよ。」
「みゃあ!」
マーブルも同じ考えのようだ。こういう気持ちが一緒っていいよね。
「では、寝るとしますか。おやすみ、マーブル、ジェミニ。」
「ミャア。」
「おやすみなさいです、アイスさん、マーブル殿。」
前世ではほとんど味わえなかったこのほっこりとした気持ちのまま私は睡魔に落ちた。
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