第13話 ほう、また襲撃ですか。人じゃないけど。後編

 見えるオーク達の数が多くなってきた。胃の中のような地形はオークだらけだ。胃の出口はエーリッヒさんが10人のゴブリンを率いて押さえている。地形が狭いので少人数で迎撃するにはもってこいの地形だ。



 ついに先端が開かれた。狭い地形な上に通常のオークよりも鍛えたゴブリン達の方が強かったので、出口付近は大丈夫そうだ。オーク達が出口付近に殺到し出した。



「よし、今だ。ぶっ放せ。」



 エルヴィンさんの号令で射撃部隊が飛び道具をオーク達に放つ。オーク達の喚声で号令は届かないはずだが、射撃部隊は周りで飛び道具が放たれているのを見て次々に射撃を開始していた。すばらしい行動だと思う。さらに、飛び道具を撃つたびに違う場所に移動してそこでまた飛び道具を放っていく。出口に集中していたオーク達はうろたえる。すると、オークの隊長クラスが飛び道具部隊を攻撃するように指示する。狙われた射撃部隊のメンバーはすぐに後方に下がると、今度は近接部隊のゴブリン達が迎撃に向かう。



「来たか。返り討ちにしてやる。」



 近接部隊が迎え撃つが、近接部隊のゴブリン達は通常のオークなど相手にならないほど強くなっている。予想通りオーク達を圧倒するが、それを見た隊長クラスのオーク達が今度は攻撃に加わってくる。流石のゴブリン達も隊長クラスが加わってくると今までとは違ってくる。こうなると、最初は優勢でも戦力差や数の力で徐々に勢いを失っていく。すかさず射撃部隊が援護に回り、勢いを取り戻していく。とはいえ、こちらは戦い続けているのでいずれスタミナの関係でじり貧になっていくのは目に見えている。ある程度予想はしていたので、交代で迎撃してきたが、数に押されて交代する余裕もなくなってきていた。



 戦線が膠着してきたとき、オークの中央で動きがあった。ひときわ強いオーラを放っているオークが動き出したのだ。私はどうしていたかというと、突撃部隊として待機していた。途中で何度も援護しようと構えるたびにハインツさんに左肩をつかまれ、首を横に振られていた。しかし、このオークが動き出したときを待っていたかのようにハインツさんが号令をかける。



「よし、突撃部隊は突っ込め。パンツァー、フォー!!」



「ウオオオオオオーーーーーッ!!!」



 号令とともに私たちもまっすぐ突貫する。流石に水を差すかと黙っていたけど、やはりハインツさんって私が知っている大物の転生者じゃないかと。だってね、戦車に乗ってないのにパンツァー、フォーって、結構気に入ってたのね、その言葉。気持ちが横道にそれはしたけど、幾分か落ち着くことができたと思う。ここでの私の役割は大暴れすること。恐らくオークのボスは私でないと対応できないと思う。逆に私でもきつい相手のはずだ。でも、私にはマーブルもいれば、ゴブリンのみんなもいる。また、格闘術極もある。いくら強いとはいえオーク程度にやられているようではこの先厳しい。しっかりと餌になってもらうよ。水術で足場を凍らせて加速する。もちろん突撃部隊で先頭を切るために。



「バンカーショット!!」



 氷の角を放ちながら大物めがけて突っ込んでいく。狙いは特に定めずとにかく数優先で放った。ハインツさん達が後に続いて蹴散らしてくれるだろう。マーブルも当たるを幸いとばかりに爪撃を放っていく。ハインツさんも槍で突きながら後に付いてくる。他の突撃部隊の数人は続きながらとどめを刺していく。一応役割としては私とマーブルとハインツさんがとにかく突っ込んで大物達を倒す。残りの突撃部隊はその道中にいるオーク達で特に倒せそうな者を片っ端から倒す。そのため、突撃部隊の残りのメンバーは大剣などの大きめの得物を得意とする者達だった。



「バーニィバンカー!!」



 気合いを込めて氷の杭をオーク達に打ち込んでいく。とりあえずジャマだから取り巻きから蹴散らそうと思いボスがはっきり見えているところで周りのオーク達から倒していく。ここら辺は適当でいいと思う。周りにいる仲間達もオーク達の圧力が減って戦いやすいだろう。ついでにボスとその取り巻きを鑑定してみる。



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『プラチナオーク』・・・オークエンペラーの上位種で、下手をすると魔王クラスのオークじゃ。なんでこんなところにおるのじゃ。力任せでは勝てんのう。骨は拾ってやるから頑張るのじゃぞ。


『オークキング』・・・オークの中では上位2番目のクラスじゃ。かなりの強敵じゃぞ。


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 ちょっと待て、そんな上位種をこちらによこすな。何が『骨は拾ってやる』だ。殺す気か。まだマーブルと満足に旅ができていないんだぞ。死んだら死んだで致し方ないけど、もっと旅を満喫してから死にたい。前世では訳の分からない死に方したんだから、こっちでは満足な死に方をさせてくれ。



「ウガアアアアアアアアア!!」



 プラチナオークがいきなり吠えながらこちらに向かって来た。突撃隊のメンバーはもとより、周りにいたオーク達もその声にビックリして動きを止める。私はうるせぇ、と感じるくらいだった。これならいけるかな。マーブルは耳を閉じてふさいでいた。流石はマーブル。ハインツさんは一瞬怯んだっぽいけど、気を取り直したみたいだ。プラチナオークの隣にいた2体のオークキングもこちらに突っ込んでくる。ハインツさんは左のオークに、マーブルは私の肩から飛び出して右のオークに当たる。これで邪魔者はいなくなったかな。プラチナオークはためらうことなく私に攻撃を繰り出してきた。



 オークキング達は2メートル50センチあって巨大だが、プラチナオークは私より少し大きいくらいで体はそれほど大きくない。けど、動きがやばい。全身筋肉の塊で動きに無駄がない。一撃でも喰らってしまうと体とおさらばしてしまう。私でないと対応できないと思っていたが、正直私でも厳しい。とはいえ、ここで死にたくないので全力で対応しますか。バーニィバンカーで狙っている余裕はないけど、幸いにも身長はこちらに近い。どこまで通じるかわからないけど、やれるだけやりますか。



 プラチナオークとの攻防というか、私の防戦一方なのだが、攻撃を避けるのが精一杯で攻める余裕が全くない。隙が全く無いのだ。オークということで得物を振るっているだけかと思えば、いきなり足技も繰り出したり魔法も使ってきたりする。魔法に関しては水術でどうにか対応できているが、反撃の糸口はつかめておらず、相手のスタミナ切れを待ちたいところだが、相手のスタミナよりこちらのスタミナの方が切れるのが早そうだ。なぜ反撃できないかというと、近接に持ち込めないためだ。距離を置かれてしまうとこちらはバンカーショット頼みとなってしまう。下手にショットを撃つと、その隙を突かれて終わる。近接に持ち込もうとして囮のショットは何度か放ったが、そういうときは近づいてこない。速すぎて水術では動きを止められず、相手の足場を柔らかくしても近づけても未知なるヤバイ反撃が待っていそうだ。というわけで、未だに攻撃を仕掛けられないのだ。



 こういった状況が続いてかなりの時間が経ったとき、チャンスは来た。プラチナオークはなかなかこちらを仕留められないせいか、かなりいらだっており、たまに周りの様子を見るようになった。それでも一瞬だけだが。何度か確認するので、その周期をつかみ、こちらも周りの様子を見てみると、あれほどいたオーク達の数がかなり減っていることに気づいた。オークキング達を見ると、ハインツさんと戦っている方は互角だったが、マーブルと戦っている方はマーブルが圧倒していた。むしろこちらに近づかせないように気を遣っているくらいマーブルは余裕があるみたいだ。流石は私のマーブル。そういった状況になってきたので、プラチナオークはますますいらだって、こちらに突っ込んできた。私は嬉しかった。ようやく攻められると思わずニヤリとしてしまった。その私の表情をみてプラチナオークは激高していた。冷静さを失ってしまったのかもしれない。無意識にニヤリとしてしまったが、逆にこれがよかったのか。



 いきなり突っ込んできて持っている剣で切りつけてきた。今までは間合いギリギリで切りつけていたので仕掛けられなかったが、間合いを無視して強引に来たのであれば対処は可能だ。すぐさま左側に回避して後ろに回り込み羽交い締めにする。そのままフルネルソンで締め上げようとも思ったが、パワーが違いすぎるのでそれは無理そうだ。というわけで、そのまま後方にゆっくり投げることにした。いわゆるドラゴンスープレックスだ。ゆっくりにしたのは、速く投げてしまうと投げっぱなしの状態になってしまい距離ができてしまうとよくないと思ったからだ。地面は固くないので角度を調整して首というか脊髄に負担がくるようにする。そうやってて思ったのがこの格闘術極って、こんな調整もできるんだという驚きだ。相手の力の出ない状態に持ち込めばこちらは好き勝手に調整できる。とはいえ、まだ倒せていないだろうから続けて攻撃を仕掛けないとならない。落ち着きを取り戻して距離を置かれてしまうとまずい。というわけで、このままの状態でブリッジを崩さず横に半回転してから再び持ち上げて投げる。あの体つきのくせに、かなり重かった。これ以上無理に投げてしまうと、こちらの体が壊れてしまう可能性が高いので、関節技か絞め技でいきますか。とはいえ、腕を自由にさせてしまうと強引に技を外されるか最悪こちらの体を壊しに来るだろう。そうするとかなり限定されてしまうな。よし、あの技で行こう。



 2回も投げられて脊髄がヤバイ状態になっているおかげか、うつぶせの状態のまますぐに起き上がってこなかったので、すぐさま両足で片足を固めて、オークの左腕を右側に持っていき右腕と一緒に固定。水術でしっかりと固めながら右手で押さえる。左腕はオークの頬に肘が当たるようにして顔も固定する。いわゆる原型STFというやつだ。これで押さえ込むとオークからうめき声が聞こえた。これはプロレスじゃないので、ロープブレイクもギブアップも存在しない。まあ、状況によってはギブアップはアリかもしれないけど。



 こうしてオークを固めて1分くらいすると、左腕に手応えを感じた。それと同時にプラチナオークから抵抗力を感じなくなった。油断せずに右手は押さえたまま左腕でバーニィバンカーを頭に放つ。特に抵抗もなく頭が胴体から離れる。ついに倒せたのだ。技を完全に解いて周りを見ると、マーブルが私に飛びついてきた。マーブルも相手を仕留めたようだ。残っているのはハインツさんと戦っているオークキング1体のみとなった。そのオークキングもプラチナオークを倒されてかなり動揺していた。その隙を逃すことなくハインツさんは渾身の一撃を放つ。もろに喰らったオークは倒れてしまいすぐさま首を取られてこの戦いは終わった。ハインツさんは勝ったとはいえ結構満身創痍だったが、その表情は満足感にあふれていた。



 オーク達が全滅し、辺りはゴブリン達の歓声で満ちあふれていた。ゴブリン達は大小の差はあれど、みんな傷を負っていたけど、傷を負いながらもみんな嬉しそうだった。実力では上位のはずのオークの集団を自分たちで倒したのだ。喜ぶなという方が無理だと思う。



 戦いが終わってしばらくして、エーリッヒさんが周りの状況を確認して胃の出口に向かって合図をする。それを待っていたかのように、カムドさん達留守番組がやってきて半数はオーク達の装備をはがし、一カ所に集めてその近くで穴を掘ってから血抜きを始め、残りの半数は重傷や疲労などで歩けない仲間達を荷台のような乗り物に乗せていき集落に向かった。見事な手際と連携に感心した。そこまで準備していたとは、ここのゴブリン達凄いな。



 一通り血抜きが終わると、はがした装備とオークの死体を荷台に載せ、それらを指揮していたカムドさんが右腕を挙げてここにいるみんなに聞こえるようにこう告げた。



「我らゴブリンの勝利だ!! 今夜は宴会だ。さあ、ムラに帰ろう!!」



「おおーーーーーーーーーーー!!」



 ゴブリン達もそれに答えるように右腕を挙げて叫んだ。私はこう見えて話す気力もないくらい疲労困憊していたので右腕だけは挙げたが叫ぶことはできなかった。さあ、私たちもムラに帰ろう。そう思ってマーブルに頬ずりすると、マーブルは、了解! と言わんばかりの勢いで「ニャー!!」と答えてくれた。

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