第12話 ほう、また襲撃ですか。人じゃないけど。前編
オークの集団が視界に入ってきた。気配探知だとその数40ちょい。視界に入ってきたのはそのうち20といったところ。ゴブリン達は遠目が利くみたいで集団の全体をとらえていた。それに対して、ゴブリン隊は飛び道具部隊30体と近接部隊10体の計40体だそうだ。数的には互角かな。オークは後続いるっぽいけどしばらくは来ない感じかな。今回のゴブリンの戦闘指揮官はエーリッヒさんというゴブリンの中でも切れ者だそうだ。大まかな作戦だが、集落から出て迎撃するようだ。飛び道具である程度攻撃した後、近接部隊が残りを始末する。以前のゴブリン達では無理だったが、今のゴブリン達の実力ではそれでも迎撃できると踏んでの作戦だそうだ。今回は楽だと嬉しそうに言っていたのが印象的だった。
さらに近づいてきたところでエーリッヒさんの指示が出る。
「射撃隊は50歩まで近づいたら3部隊に分けて射撃。オークどもの注意をそちらに向けさせる。」
「もちろん、全滅させても問題ないよな?」
弓隊を率いているエルヴィンさんが口元をにやりと歪めながら言った。
「それで決着が付いた方が楽だからな。倒し方は任せるぞ。」
嬉しそうに答えるエーリッヒさん。
「アイスさんもしばらくは射撃隊の援護をしてくれ。」
私にも指示が飛ぶ。最初は遊撃だったけど、お世話になった身としてゴブリンの一員として動くことを志願したのだが最初は聞き入れてくれなかったが、最後は指示通りに動くことで納得してもらった。まだ、後続部隊が来そうだし暴れるのはそのときでも十分と私は思っていた。それよりも、ここにいるゴブリン達が強くなったことを実感してもらいたかった。自信を持って私に指示を出してくる様子を見て安心して答えた。
「お任せください。では、バーニィ起動。」
私も戦闘態勢の準備が整う。ゴブリン達も次々と弓に矢をつがえたり、スリングに石を入れたり各々射撃準備を整え、命令を待つ。
オークの喚声が大きくなってきた。集団は少しずつ近づいてくる。55歩の距離まで近づいてきたときにエルヴィンの声がとどろく。
「射撃隊、構えっ!!」
集団が50歩にさしかかると、
「撃て!! 一匹も生かして帰すな!」
エルヴィンの号令で矢と石が次々とオークに襲いかかる。3体に分けて発射しているため、飛び道具が間断なく放たれる。私もそれに続いて放ちまくる。
最初こそオークはゴブリンごときの攻撃なんて大したことないと避けようともせずに突っ込んできたが、予想に反して次々に仲間が倒されていく様子を見てオーク達の足が止まる。もちろんその間にも飛び道具はオークに命中し続ける。
飛び道具でオーク達が10体ちょいに減っていた。まだオーク達は多少混乱などの戸惑いが見られた。20歩に近づいてきているのもあり、エーリッヒさんが次の命令を下す。
「よし、飛び道具部隊はそこまで。それ以上やると、肉がなくなってしまう。オークどもの後続部隊が来るかも知れないから、遠くに対して警戒だ。」
「よし、次は俺たちの出番だよな。」
近接部隊のリーダーであるハインツさんが押さえきれない様子でエーリッヒさんに声をかけた。
「ああ、この戦いの仕上げだ。頼むぞ。」
「任せておけ。今まで好き勝手にできたゴブリンとは違うということをオークどもに体で理解させてやる。野郎ども、突っ込め!!」
ハインツさんの号令一下、近接のゴブリン部隊が残りのオーク達に攻めかかる。
「この程度のオークどもなら楽勝だろう、連係も必要ない。最低1体ずつは倒せよ。」
「おうっ。」「お任せを。」「汚物は消毒だ。」
近接部隊もそれぞれの台詞を言った後、ためらいもなくオーク達に突撃していった。
結果は圧勝だった。大物はオークリーダーが1体、大きめの個体が2体ほどで残りは通常のオークっぽい。鑑定の結果オークリーダーの他にそれぞれオークバトラーとオークナイトが1体ずつだった。オークリーダーには隊長のハインツさんが、バトラーとナイトには腕自慢のゴブリンがそれぞれついて、残りは他のゴブリン部隊が攻撃に着いたが、特に問題なく倒していた。特に隊長のハインツさんは素早い足で相手を攪乱しつつ槍での鋭い突きを繰り出してほぼ一方的にオークリーダーを仕留めていた。
仕留めたオーク達とその得物は集落に持って行って、装備をはいでから解体班がものすごく効率よくオークを解体していった。ちなみに解体班は戦闘に加わっていないメンバー達で、これはカムドさんが指揮していた。戦闘班は休息をとっていた。休息といっても武装解除はしていない。後続部隊が来るかも知れないからだ。
私たちも休息をとっていると、斥候の1人が慌てた様子で戻ってきた。傷こそ負っていなかったものの、かなり疲労していた。斥候班の隊長はカムドさんの娘であるカムイちゃんで、初日で私になついてくれたゴブリンの女の子だ。
「後続部隊を確認。数は150くらい。率いているのは今までに見たことのないオーク。何か金色に光っててものすごいオーラを纏ってる。あれはやばい。その他は特大のオークが3体。大きめのオークがまばらに見えた。あと3時間くらいでこちらに来ると思う。」
それを聞いたエーリッヒさんは特に慌てる様子もなく、
「わかりました、ご苦労様でした。ところで、他の斥候班は?」
「遠巻きに確認してもらってる。確認できたらこちらに戻るようにしてる。」
「ありがとうございました、カムイ様。それぞれ戻ったら休ませてください。」
「ありがとう、戻ったら休むように言っておく。」
「集落の防備はどうだ?」
エーリッヒさんが、エルヴィンさんに問いかける。
「空堀は掘ってある。柵も補強してあるし、柵に施してある矢が出る装置も大丈夫だ。とはいえ、ここまでの規模は想定してないから、どこまで持ちこたえられるかはわからない。特に入り口は頑丈ではないから案外もろいと思う。相手をするなら集落のそとでないとまずいな。」
「そうか。外に出ないとまずいか。とはいえ、今回はそれでも何とかなりそうだな。助っ人もいるし。」
エーリッヒさんはニヤリとこちらを見て言った。
「今はなりふり構っていられないから、存分に暴れてもらうがよろしいか?」
「ええ、お世話になっている身です。遠慮なく指示してくださいね。どこまでいけるかはわかりませんが。」
私も特に気負うことなく答える。エーリッヒさんは私の意思を確認すると、少しの間目をつむって何か考え事をしていた。周りのゴブリン達中にはオーク達の数や今回のボスのオークのことで動揺しているものも結構いた。そんな中でも各部隊長たちは落ち着いていた。ある意味開き直っているのかも知れない。私はというと部隊長ではないが開き直っている方だ。怖くないかといえば正直怖い。とはいえ、脅威が迫っているのだ。戦うしかないのだ。相手は何体も倒しているオークどもだ。油断さえしなければ何とかなる。甘い考えかもしれないがそう思うしかないのだ。怖いからといって、お世話になった人? いやゴブリンか、彼らを見捨てるということは絶対にしたくない。となれば開き直って戦うしかないのだ。話し合いは無理である以上それ以外に選択肢はない。
こちらが覚悟を決めているときに、エーリッヒさんが一人でうなずくと、各部隊長と私をこちらに招いた。
集まると、話し出した。
「集落にこもっていては、オーク達にやられてしまう。ここは、打って出る。」
「打って出るのはいいが、どこで出迎える?」
エルヴィンさんがこう問うと、エーリッヒさんは地図を出してそれを指し示しながら答える。って地図もっているんかい。すげえな、このゴブリン達。
「集落から30分ほど北に向かうと比較的広めな部分があるだろう? そこで出迎える。」
「なるほど、そこなら弓などで攪乱しながら出迎えられるな。」
そうやって、地図を指し示しながら自らの戦略を話していく。そのうち私の方に目を向けて、
「アイスさん。あんたはここからオークの集団に突っ込んでもらいたい。」
なるほど、一カ所で火力というか、氷をぶっ放しながら突撃すればいいのね、了解。でも、地図見ても訳わからないんだよね。
「わかりましたが、地図見てもどこがどうだかわかりません。」
「そのことなんだが、途中までハインツの部隊と一緒に行動してもらいたい。それで会敵したら突っ込んで欲しい。タイミングは任せる。それと、今回の突撃でどうしてもハインツがアイスさんと一緒に行動したいと言ってきてな。本当はハインツが近接部隊かあるいは単独で突撃したいと言っていて、流石にそれはまずいと思ってアイスさん達と一緒ならという条件をつけたんだよ。引き受けてくれるかい。」
「いいですよ、非常に心強いです。ハインツさん、よろしくお願いしますね。」
「アイスさんの戦いを初めて見たときから、一緒に大暴れしたいと思っていた。とはいえ俺はゴブリンだからな、その夢は絶望的だったが、アンタがマーシィを呼んでくれて鍛えてもらって俺は強くなれた。どこまで強くなれたかはわからないが、少なくとも足は引っ張らないつもりだ。」
今回の戦いは、集落から30分ほど北にある場所が胃みたいな形の広間があって、そこの地形の周りから飛び道具や近接部隊がちょっかいをかけて数を減らしながら、私たちが突っ込んで蹴散らしていく感じのようだ。エーリッヒさんいわく、大規模とはいえ200人くらいの戦いならこれで十分だそうだ。彼もひょっとして転生者? ハインツさんもエルヴィンさんも? だとしたら、どれだけ大物と会っているんだよ。まあ、本人達に聞かないとわからないけど、戦い方とか見るとそんな気がしないでもない。嬉しいような、悲しいような。
作戦を確認したら早速出撃だ。何せ時間がない。戦闘班全員と一部の偵察班で出撃する。集落に残るのは戦闘班以外と出撃していない偵察班だ。とはいえ、戦闘班以外でもMBCは子供達以外は一通り受けており、通常のオークであれば戦える。残るゴブリン達に見送られて私たちは出撃した。
偵察班は先行してオーク達の行動を監視する。オーク達は1体の漏れもなく集団でまっすぐこちらを目指している。別働隊の存在も心配していたが、どうやら大丈夫のようだ。作戦では別働隊については全く計算に入れていない、というより別働隊に対応できる戦力がないので、切り捨てるしかなかった。本体に全力で対応しかできなかったので、逆に好都合だ。
私たち戦闘部隊がオーク達より早く戦場に到着した。とりあえずホッと一息つく。気を張り詰めっぱなしで戦う前から消耗していてはどうにもならない。先に到着しておけば心に余裕ができる。今のうちに体を休めておく。
しばらくして、斥候班の1人が報告に来た。あと1時間ほどでオーク達がこちらに来るとのこと。みんな、それぞれ配置につく。準備は大丈夫だ。さてと、到着を待つとしますかな。別働隊が心配だから念のため気配探知をしておくと、本体以外に気配はなかった。私の右肩という定位置にいるマーブルに聞いても本体以外の気配は感じてなさそうだった。オークのボスはかなり強そうだった。こんな遠くからでもオーラを感じる。
あと10分くらいのところで、集団の先頭が姿を現した。さて、おいでなすったな。こちらも戦闘準備を整える。
「バーニィ起動。」
「ミャッ。」
さあ、かかってこい、相手になってやる。
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