第14話 ほう、宴会ですか。でも私酒飲めませんが。
戦闘終了後、私たちは殿として一番最後に戻ることにした。殿組には、ハインツさん率いる近接部隊の一部とエルヴィンさん率いる飛び道具部隊の一部が一緒だ。帰りの道中は特にこれといった襲撃などはなく周りにも敵意のある気配はなかった。戦闘後の疲れもあったのでゆったりとした足取りで帰って行った。
ムラ(以前は集落と呼んでいたが、ゴブリン達がムラと言っていたのでそれに合わせよう。)に到着すると、居残り組や先に戻っていた者達が出迎えてくれた。ムラの広場にはいろいろな料理や飲み物がすでに準備されていた。殿組は各々の家に戻り、体を拭いたり着替えをしたりして体をある程度キレイにした後で広場に向かうことになっている。私たちはムラでの家に入ってすぐに転送魔法でねぐらに移動していつもの風呂と洗濯をして着替えてからムラに戻って、何事もなかったかのように広場に顔を出した。私を見つけたカムドさんが案内してくれた。
「おお、アイスさんはこちらです。マーブル殿も一緒に。」
「ありがとうございます。しかし、私がこんなにいい席でよろしいのですか?」
「何をおっしゃいます。アイスさんはお客人であり、このムラを救った英雄でもあるのです。この場所でなくて、どの場所にご案内したらいいのでしょう。」
「そこまでいわれてしまうと恐縮してしまいますが、断ると失礼になるでしょうから、お言葉に甘えてこちらに座らせていただきます。」
「そうしてください。」
席は長のカムドさんの隣だった。マーブルはその隣にあった。本当にいいのかなあ、私がこんな上座で。
全員がそれぞれの場所に座ると、カムドさんは酒の入った杯を持って立ち上がった。
「皆の者、今日は本当に頑張ってくれた。皆の頑張りのおかげでオークどもの襲撃からムラを守り切ることができた。その中でも、まずエーリッヒ。」
「はっ。」
エーリッヒさんが静かに立ち上がり、カムドさんのところに向かう。
「おまえは、前回もそうじゃったが、今回も見事に部隊を率いてオークどもの襲撃を見事に撃退した。褒美として、今回のオーク肉で一番美味しい部位と、この酒をとらす。」
「ははっ、ありがたく頂戴します。」
そうカムドさんが言うと、周りから笑い声が起こった。エーリッヒさんも嬉しそうだ。
「よし、その酒を持って席に戻るがいい。次に、ハインツ。」
「おうっ。」
「おまえは、前回でもオーク相手に一歩も引かず戦い抜き、今回ではオークキングを討ち取るまでに成長した。それをたたえて、エーリッヒと同じく一番美味しいオーク肉の部位と、この酒をとらす。」
「おおっ、美味い肉と酒か。みんなごめんな。俺らばっかり美味しい思いして。」
ハインツさんは、周りにそう言って周りのみんなは大笑いだった。
「戻ってよし。酒を忘れるなよ。」
「やべぇ、一番大事なものを忘れるところだったぜ。」
このやりとりで、さらに周りが大爆笑だった。
「よし、次はエルヴィンじゃ。こっちに来るがいい。」
「おうっ。」
「おまえは、前回に引き続き今回も遠距離からオークを仕留め続けていたな。倒した数は前回は1位で今回は3位と大活躍だった。よって、以下略。」
「おい、ずいぶん適当だな長。同じようにしっかりと言ってくれよ。」
カムドさんは案外お茶目なのかもしれない。いきなりそう言ってくるとは思わなかった。周りも爆笑していた、当のエルヴィンさんもそれに慣れているのか苦笑いだった。
「では、これを受け取ったら戻ってくれ。長くなると飯が冷めてしまうからのう。」
エルヴィンさんが苦笑いしながら戻ると、今までにこやかだったカムドさんが、いきなりまじめな表情になり、それに気づいたゴブリンのみんなもまじめな表情に変わった。
「さて、今回の襲撃は、オークエンペラーが大勢のオークどもを率いてい。しかもそのオークエンペラーも通常ではなく異常種のやばいやつだった。今までの我らではこのムラは間違いなく滅ぼされていたはずだ。それほどの危機にも関わらず重傷者こそ出てしまったが、幸いにも死者は出なかった。それを成してくれた恩人に何か差し上げたいと思う。皆の者、いかがかな。」
その問いに対して周りのゴブリン達はとたんに、
「当たり前だ!」
「我らの恩人に感謝を!」
「今お礼せず、いつお礼するんだ!」
周りから歓声が飛んだ。
「ということで、アイスさん、マーブル殿。立ってみんなに顔をみせてやってください。」
いきなり振られてビックリしたあと、周りが「顔を見せろ-!!」とはやし立てる。これだけ言われたら立つほかはない。ということで、本音は疲れがやばいので正直座ったままでいたかったが立ち上がって一礼すると歓声はさらに大きくなった。これはちょっと嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちだ。
「では、アイスさん。今回の件でムラからお礼をしたいと思います。何か欲しいものはありますか。」
一考したあと、こう答えた。
「いただけるのなら、このムラでの家が欲しいです。」
「家なら、ワシの家の一室を自由に使ってかまいませんが。」
「いえ、客人としてではなく住人としての家が欲しいのです。」
「それは、かまいませんが、人族の集落には行かないのですか?」
「もちろん、人族のムラや街なども行く予定ですが、度々こちらにも戻る予定です。ここは非常に居心地がいいので。」
「おお、こちらに戻ってきてくれますか。住人となるのなら、大歓迎しますよ。それ以外に欲しいものはありますか。」
「いえ、家をいただけるなら、それ以上のものはありません。家で十分すぎるほどです。」
「そうですか。それでは、お好きな場所を指定してください。いつでも準備いたします。」
「ありがとうございます。明日以降、みんなと話し合いながら決めたいと思います。」
「わかりました。では、皆の者、今日はたくさん食べて飲んでくれ。乾杯!!」
「乾杯!!」
カムドさんの音頭で宴会が始まった。たくさんのごちそうが、あちこちにあって、どれから食べようかかなり迷ったが、折角だから一通り頂くことに決め、角から少しずつ取っていった。
最初は決まった場所にいたゴブリン達はそれぞれ思い思いの場所に移動し、宴会を楽しんでいた。私は食べるのに夢中だったので、いろいろな場所を動き回っていた。マーブルは最初こそ席に用意された皿を使って食べていたが、私が立つと肩に飛び乗った。横着だなぁ。そのせいもあり、私は自分の分を取りながら、マーブルが気に入ったものも取って一緒に食べていた。しっかりと食べたいものを指して、テシテシと叩いて催促してくる。可愛くてたまらない。
一通り食べておなかが一杯になってきたので、自分の席に戻って飲み物を堪能する。私は酒が飲めないので、果実のジュースや水がメインだ。たまにこちらに来て話しかけてくれるゴブリン達もいて話しも盛り上がった。特に聞かれたのはプラチナオークをどうやって倒したのかということだ。ハインツさんがそのことに関して大げさに言っていたらしく、一瞬で頭を吹き飛ばしただの、相手の攻撃をものともせずに弾き返していただのという話になっていたらしく、訂正するのが大変だった。通常のオークならともかく、プラチナオークみたいな化け物相手にそこまでできません。
ゴブリン達は私が酒を飲めないことを知っているので、酒をついでくることはなかったのは嬉しかった。アルハラだめ、絶対。ある程度落ち着いてきたので、今度は私がいろんな場所に行って話しに行くことにした。マーブルは定位置のごとく私の肩に乗りっぱなしだからもちろん同行です。重傷のゴブリンも食べ物はある程度ノドに通るらしく、そこそこ食べていた。これなら大丈夫かなと安心した。
ビックリすることに、マーシィ像に酒とオーク肉が供えられていた。強くなったお礼だそうだ。食べられるかどうかはわからないけど、マーシィさんも喜んでいることだろう。マーシィ像の近くに3人のゴブリンがいた。エーリッヒさん、ハインツさん、エルヴィンさん達3隊長だ。エルヴィンさんが私の姿を見つけると、手招きしてきた。折角なのでお誘いを受けることにした。
「おおっ、アイスさん来たか。」
「こっちは酒しかないから、飲み物は自分で持って来いよ。まあ、酒が飲みたいなら杯だけでいいぞ。」
「飲み物は大丈夫です。このように用意しております。」
「ミャー。」
「ははっ、マーブル殿も準備万端か。さあ、こっちに座ってくれ。」
「では、遠慮なく。」
私達は前回や今回の戦いについての総評や獲物の調理法やマーシィ像についてや、これからのことなどいろいろと話した。そんな中、エルヴィンさんが、いきなりこんな事を聞いてきた。
「アイスさん、あんたは恐らく転生者だと思うが、どうかね?」
いきなりそういった事を聞かれたが、ここでは別に知られたところで特に問題はなさそうだったので、素直に答えることにした。
「はい、転生者です。ということは、エルヴィンさんも?」
「そうだ。俺だけでなく、ここにいるエーリッヒやハインツも転生者だ。」
「ほう、なるほど。ところで転生前のお三方は西洋のジーク○○という感じの国ですよね?」
「ああ、そうだ。よくわかったな。」
エーリッヒさんが少し驚いた顔でそう答えた。
「そりゃ、わかりますよ。お三方いずれも超有名人ですからね。」
「そうなのか? アイスさん、アンタはどこの国の出身かな?」
「私は貴方たちの国の同盟国出身です。サムライといえばわかりますかね。」
「おお、そうか。で、アンタはいつの時代の人間かな?」
「私はエーリッヒさんが亡くなった頃に生まれました。」
「ほう、私が以前誰だったかがわかるのかな?」
「ええ、貴方は裏拳の戦術の方ですよね。で、ハインツさんは鉄の箱の戦術の方。そしてエルヴィンさんは砂漠の戦場で名を馳せた方だと思います。正解ですかね。」
「多分、それで合っていると思う。で、裏拳というのは何かな?」
「私の国では裏拳というのですが、どこかの国の言葉でバックハンドブローといったかな。」
「なるほどな。」
「それで、いつ気づいたのかな?」
「まず前回の襲撃で、オークとゴブリンでは戦力差が圧倒的に違うのにあそこまで持ちこたえていた、ということは作戦が優れていたということ、その後で名前が判明したときに納得してしまったのが切っ掛けです。で、今回の襲撃でハインツさんが突撃したときに言った『パンツァーフォー』ですね。これでほぼ確信しました。いろんな意味で納得です。」
3人の正体が判明した理由を説明した後、3人は大爆笑だった。
「そんなんでわかるのかよ。」
「それだけお三方が凄かった、ということですよ。」
「でも、今はゴブリンだけどな。」
その後、私達は転生前の話題で盛り上がった。私は戦争を経験していなかったので、3人にそれぞれその経験や戦術や駆け引きなどを教えてもらうことになった。この3人の化け物にいろいろ教わるなんて何て贅沢で光栄な事なんだろうと思った。代わりに私が生きていた時代の話しをすることになった。もちろん、ゲームでどれだけチートな扱いを受けていたか、某アイドルとのからみでネタキャラとして出番が多かったことなども話した。
そういった楽しいことはとにかく時間が過ぎるのが早い。夜も明けてきて起きて話しを続けていたのが私達4人だけだった。マーブルはとっくに寝ていたみたいだ。器用だな、うちの猫は。
結局寝ないまま朝が来てしまったが、3人は何事もなかったかのように通常の生活に戻っていった。私はそんな生活は無理なので、カムドさんのところで間借りしている部屋に戻って寝ることにした。マーブルは一旦目が覚めたみたいだが、寝床に着くと定位置で再び寝だした。
「おやすみ、マーブル。」
「ミャッ。」
いつもの挨拶を済ませると、すぐに眠りに落ちた。
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