第9話 ほう、襲撃イベントですな、人じゃないけど。

 テシテシ。


 テシテシ。


 いつも、朝はこうしてプニプニの肉球で起こしてくれる。もちろん、朝ご飯の催促の意味もある。



「おはよう、マーブル。」


「ミャー。」



 一人で起きることもできるが、折角ならこのプニプニで起こしてもらいたいじゃん。というわけで、自分の方が早起きできるときでも早起きせずにマーブルに起こしてもらう。最高の目覚めだ。



 最近はマーシィ道場に通うことが多かったので、食料は減る一方だけど、食料庫はまだ半分くらいしか減っていない。食材も多いものからできるだけ食べるようにしているため種類は結構あるので、何を食べたいかマーブルに選んでもらっている。今日のリクエストはオーク肉だった。朝は個人的にはサッパリといきたいので水術で低温調理だ。多少時間はかかるが、マーブルはできあがるのを待っててくれる。いい猫だ。



 今日はどうしようかと考えながら、美味しそうにオーク肉を食べているマーブルを見てふと思った。


 マーブルがいてくれるおかげで、方向音痴気味の私は安全にねぐらに帰ることができている。それがさらに転送魔法を使えるようになったおかげで距離的に無理が利く。今までは帰りの時間も考慮しながらの探索だったから探索範囲はそれほど広くなかったと思う。これからは多少日が暮れても遠くまで探索ができるようになった。



 というわけで、地図も方角もわからないから適当に直線的に攻めることにした。とりあえず方角はマーシィ像と逆の方角にしてみますか。地図もコンパスもなく、道なき道を進む。方向がずれると肩に乗っているマーブルが、テシテシと叩いた後方向をカワイイ前足で教えてくれる。ただ進むのはつまらないので、水術でも使用可能になった気配探知を使いながらどちらが早く見つけるかマーブルと勝負する。最初の方はマーブルの圧勝だったが次第に私の方が早く探知できるときも出てきた。



 とはいえ獲物となるような気配は感じず、リスや子ネズミなどの小さめな動物や食べられそうな木の実などだった。あ、木の実といえばマーブルってスパイシーなものって苦手だったっけ。ということは、わざとか。いずれは逆に圧勝してやる、と意気込みながらお互いに探知勝負を続ける。



「フーッ!」とマーブルが何かを探知したようだ。流石だなと感心しながらこちらもすぐに探知に成功する。それにしても、数が異様だ。30、いや40以上だ。何かの集落だろうか。ここから私たちは警戒しながら進んでいく。



 進めば進むほど探知できる数は増えていき、60弱になったところで数は増えなくなった。いや、逆に数が減っている。ということは何かしらの戦闘が行われているようだ。とはいえ結構進んだけど探知できた対象がまだ見えてこない、ってことはどのくらいの距離を探知できるようになったのか。水術もすごいがマーブルはもっと凄い。流石私の猫。



 500メートル進んだ先にようやく見えてきた。集落だ。まだ遠目でしか確認できていないがやはり戦闘状態だ。これは、オークとゴブリン? ゴブリンの集落をオークが襲っているようだ。とはいえ、このゴブリン達、以前戦ったゴブリンと何か違う。ただ集団が集まっている集落ではなく、建物なども加工されている。



 よし、ゴブリン達を助けましょうか。何よりオークは美味しい肉なのだ。たくさんあるとはいえ、肉は多い方がいい。



 改めて探知するとオークは30体くらいだ。これくらいなら大丈夫かな。



「ゴブリンに加勢し、お肉を手に入れます。マーブル準備はいいですか?」



 マーブルに確認を取る。マーブルは「ミャッ!」と了解してくれた。



「マーブルはあの一方的に攻撃しているオークを攻撃。私は本体っぽいところに突っ込みます。」


「ミャッ!」


「では、バーニィ起動、突撃ぃ!」


「ニャー!」



 肩から勢いよく飛び出したマーブルは「フーッ」と鳴いて魔法を繰り出す。一方的に襲っていたオーク2体を一瞬にして仕留める。その一方で、私は偉そうに控えている集団に向かって行く。久々にぶっ放しますよ。



「バンカーショット!!」



 威力は上がっていると思うので一体につき一発ずつのつもりでとりあえず10発放つ。不意打ちに近い攻撃だったため全弾命中したが、仕留められたのは7体だけだった。3体は腕に当たり仕留めるには至らなかったが、戦闘能力は大幅に減っただろう。ゴブリンの集落に向いていた視線がこちらに向く。と同時にやや混乱状態だ。あれだけ爆発すりゃ当然か。もちろんこの気を逃さず控えの集団に突っ込む。



「グオオオオオオオオッ。」


「ギャオオオオオオオッ。」


「グギャアアアアアアッ。」



 集団のあちこちで叫び声が飛んだ。いろんな種類の吠え方があるんだと感心しつつ攻撃を仕掛けていく。



「バーニィバンカーッ。」



 胴体部分は大事な食料なので、頭部めがけて打ち込んでいく。狩りのときは四分の一位の爆発量で十分だったので同じようにしたら、思った以上に吹き飛んだのでさらに半分の八分の一の量で爆発させる。爆破といっても水蒸気なので焦げた臭いはしない。6体位を仕留めると残りのオークがこちらを攻撃してきたが、はっきりいって全く問題なかったというより逆に物足りなかった。マーシィの修行の成果でスキルもかなり上がりましたし。マーシィ恐るべし。



 ボスらしき者も攻撃に参加してきたが、こいつを倒してしまうと残りが逃げてしまいそうなので、こいつは一番最後に倒すようにした。ボス以外の連中を倒して一対一の状況に持ってくる。折角なので格闘術をいろいろと試そうと思う。その前に鑑定しておくか。アマさんお願いしますね。



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『オークリーダー』・・・オークの部隊長クラスじゃな。オークには6つの階級があって、こやつは上から3番目じゃ。大体50人を率いる存在じゃ。この階級くらいから魔法を使える者も出てくるぞい。こやつらからそこそこいい武器や防具が手に入るかもしれないの。今のお主なら楽勝じゃろ。肉も美味いそうじゃからいつかはワシも食べてみたいのう。


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 ・・・・いつものステータスじゃないんかい。それに肉食いたいって。アナタこちらに来るんですかい? まあ、来たら歓迎しますけど。



 じゃなかった。今は戦闘中だっけ。攻撃は結構単調だから仕留めるのはたやすいかな。とりあえず攻撃させておいて指示を出せないようにしつつ周りを確認してみましょうか。それよりもマーブルは無事ですかね。問題ないとは思いますが怪我などしてないでしょうね。指示しておいて何だけどお父さんは心配です。



 攻撃をかわしながら集落に目を向けると残りは2体くらいでマーブルを攻撃しているが小さい上に素早い動きでオーク達はいたずらに武器を振り回している感じだ。マーブルも余裕で躱している。これなら大丈夫かな。では、私はボスを倒すとしますか。



 オークリーダーとの戦いは一方的だった。弱すぎて話にならなかった。格闘術スキル極は伊達じゃ無かったのね。オークリーダーが力任せに武器を振るう。なかなかいい武器持ってんじゃん。すぐにオークの側面に回り込み裏投げのような形で相手を投げる。折角のタイマンですからね。今のうちに投げられるだけ投げますよ。相手が大きいからある程度は制限されるけど。仕留めるために投げているので角度は一番えげつない角度で投げる。首の頸椎に一番負担がかかるように落とす。オークはピクリとも動かなくなる。地面は柔らかいから耐えられるかなあと思ったけど甘かった。



 あっさりだったので幾分かテンションが下がりながらとどめを刺そうとナイフを取り出そうとすると、よろよろしながら起きてきた。よっしゃー、投げは危ないからこれからいろいろ試すぜ。っと思っていたらオークリーダーがいきなり話しかけてきた。



「ニ、ニンゲンヨ、ナ、ナゼ ワレラ ノ ジャマ ヲ スルノカ?」


「簡単な話ですよ。おたくらの肉が欲しかったのですよ。おいしいですからねぇ。」



 人の言葉を話せるとはやるなぁ。と思いながら正直に答えた。



「ソ、ソレダケ ノ リユウ デ ワレラ ヲ テキ ニ マワスノカ。」


「おたくらも食料を求めてこの集落を襲ったのでしょう。理由は同じだと思いますがね。」


「ワ、ワレ ヲ タオシテモ アトデ ホンタイガ オマエラノ トコロニ クル。」


「え、まだお肉があるのですか? ど、どこにいるのですか? 早速倒しに行かないと。」


「オ、オマエ、、、。」


「君たち相手では少し物足りないと感じていました。すばらしい情報感謝します。お礼としてこれ以上苦しまないようにします。お肉は大事にいただきますので、安心して召されてください。」



 もう彼に用は無いのでさっさと仕留めようと、さっさと仕掛ける。



「マ、マテ。イヤ、マッテクダサイ。」


「そう言った相手に、あなたたちはどういった行動をとりましたかね。自分がこうなることを覚悟しての行動ですよね?」



 どうせ、降伏してもすぐに裏切るだろうし、こっちの知ったことじゃない。というわけで、バンカーであっさりととどめを刺した。周りを見てみると、マーブルも残りのオークを仕留めていた。オークが全滅したのを確認した後、私の姿を見つけて肩に飛び乗ってきた。「ニャーン。」と甘えるような声で鳴いたので、かわいさの余り周りの目も忘れてモフモフしてしまった。



「あ、あの。」



 集落の長らしきゴブリンがこちらに声を掛ける。



「あ、これは失礼しました。って、人の言葉がわかるのですか?」


「え、ええ、少しばかりですが。」


「他国の言葉を覚えるのですら難しいのに、ここまで見事に別種族の言葉を使えるとは、誠にすばらしいことだと思います。」



 素直に感心した。先ほどのオークも凄いなと思っていたけど、ここまで綺麗に話せるというのはさらに凄いと思う。私では無理です。アマさんに頼んでみるかな、異種族の言語を。無理そうだけど。



「我らの集落を助けていただいてありがとうございます。私は長のカムドと申します。」


「カムドさんですか、すばらしい名前だと思います。っと自己紹介が遅れました。私はアイスと申します。肩に乗っている猫はマーブルといいます。以後お見知りおきを。先ほども申しましたように、私たちはお肉を求めてオークを攻撃しました。お礼を言われるようなことは全くしておりませんので、お気になさらず。」


「いえいえ、理由はどうであれ助けていただいたのは事実。本当に感謝しております。幸いにも死傷者はおりませんでした。重傷者はおりますが、この程度の被害で済みましたので感謝してもしたりません。」


「ほう、死者は出なかったのですね。それは何よりです。」



「ところで、アイスさん達はどうしてこのような辺鄙なところに? ここに人が来たのは初めてです。」



 す、すげえ。人が来ないのに人の言葉がわかるのか。この方もバケモンですな。と思いながら転生したことは話せないからそこら辺は適当にごまかしつつ理由を語った。



「そうですか、それは大変でしたな。特に急ぎで無ければここに何日か滞在してもらえませんか。お礼というには足りないかもしれませんが、宿泊と食事の用意をさせていただきます。それと、私たちの知っている範囲でよろしければ、知りたい情報を提供します。」


「それは、ありがたいです。お言葉に甘えて何日かご厄介になります。それと食事ですが、ここにオーク達の肉がたくさんあります。非常に美味しいのでここにいるみんなで食べましょう。」


「助けていただいた上に、そこまでしていただけるとは、これでは受けた御恩をお返しできません。」


「何日かいさせてもらえるだけでも、お礼としては十分だと思っています。さらにこの辺の情報までいただけるとは、こちらこそオーク肉だけでは申し訳が立ちません。」



 あれやこれやあった後、結局はこれでチャラにした。偶然助けた形になっただけですしね。



 夕飯は集落総出でお祭り騒ぎだった。ゴブリンの言葉わからないけど。嬉しそうなのは十二分に伝わった。私になついた子もいた。ゴブリンとはいえかわいかった。ごめんね、マーブル。でもマーブルが一番だよ。このゴブリンの集落の食事は木の実が中心だったが結構おいしかった。こちらで出したオーク肉は好評だった。提供した甲斐があったというものです。カムドさんと話すのも楽しかったができればこの集落のみんなと話をしてみたかった。言葉の壁って結構大きいんだと思った。生前はそんなこと思ったこと無いけど。マーブルに関しては最初こそゴブリン達がビビって近寄ってこなかったが、慣れてくるとたちまち周りからなでられまくりだった。かわいいから当然だと思う反面、独占できないからちょっと悔しかった。それを察したのかマーブルが私の肩に乗って首を傾けた。か、かわいすぎる。も、萌え死にそうだ。



 こうして、楽しい夜はふけていき、カムドさんが家の空き部屋を提供してくれたので、そこで寝ることになったが、風呂や洗濯はしておきたいのでマーブルに頼んで魔方陣を作ってもらい、ねぐらに戻って風呂と洗濯を済ませてからこちらに戻って寝ることにした。一角ウサギの毛皮布団もよかったけど、この世界の寝床って興味あるじゃん。しかもしっかりした布団ぽかったから、布団で寝たいじゃん。ということで、布団に入るとあっという間に睡魔に襲われ抵抗するまもなく眠ってしまいそうになるが、最後の気力を振り絞ってマーブルにお休みの挨拶をしたところで力尽きた。

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