閑話 その1 出会ったときのマーブルの心境
我が輩は猫である。名はマーブルという。と、お約束的なことはおいておこう。
我が種族はデモニックヘルキャット。人からはもちろんのこと、他の生物からも恐れられる存在らしい。
とはいえ、成長しないと弱い。それを知ってか知らずか我らは成長前の状態であらゆる生物から討伐の対象となっているようだ。他の種族はどうなのか知らないが、我が種族は生まれた瞬間から放っておかれる。幸いにして生まれたときから意識やある程度の知識や知能はあると思う。そのため、どんな手段を使っても生き延びることを強要される。そういった生活環境なため、我が種族は他の種族と仲良くすることはもちろんなく、自分が生き延びるためには同胞でさえも敵という状況だ。
我も例外ではなく、生まれてから数ヶ月間は小動物を除いて猪や熊などの獰猛な大型動物はもちろんのこと、オークやゴブリンといった、成長後ではたいした驚異にならない存在にすら狙われた。
ある日を境に我の環境は一変した。ご主人に会えたことだ。
その日、我はゴブリンの群れに襲われていた。かなりの数がいたが10体くらいまでは何とか倒したが残りはまだ20体くらいいた。奴らはひるむことなく我を囲んで攻撃し続けた。傷も深く魔力も尽き果てて、もはやこれまでかと思ったときに一人の人間が現れた。ご主人だ。ご主人は我を取り囲んでいたゴブリン達をあっさりと一蹴したのだ。我ではご主人にかなわないと思った。
我を見たご主人は我に近づいてきた。そのときの我は瀕死の状態でご主人に対して威嚇をするのが精一杯だった。ご主人はそれにかまうことなく入れ物に入った水を我にかけてきた。
痛かったのは最初だけですぐに心地よい感じとなった。心が満たされていくのを感じた。何か我の体が小さくなったような気がしたが、そんなことはもうどうでもよかった。その後ご主人は我に何か術を施すと、ずぶ濡れ状態の体がスッキリサッパリとしていた。ご主人は我を抱きかかえようと手を伸ばしたが、我はもう抵抗する気は全くなくそのまま抱きかかえられ、そのままねぐらへと移動したらしい。らしいというのは、我はその時点で力尽きて眠っていたからだ。
ねぐらに戻ると、肉のいいにおいがしたので目が覚めると、ご主人は自分の分より先に我に肉をくれた。わざわざ我の食べやすいようにしてくれたのだ。味も生肉より美味かった。こんな美味い肉を食べたのは初めてだった。我はとにかく空腹だったので、食べられるだけ食べた。足りなかったのでおねだりしてみた。おねだりの仕草はなぜか知識にあった。ご主人は追加分を用意してくれた。満腹になった我を見たご主人は嬉しそうだった。
食事が終わると、我は水をかけられた。我個人的には水は嫌いではないし、何よりその水は温かく心地よかったのでそのまま身を任せていた。全身をくまなく洗われた気がしたが気にしない。耳は流石に洗わなかったらしい、ご主人、案外わかっているな。その後、ずぶ濡れの状態だったのにご主人が一瞬でサッパリとした状態にしてくれた。ご主人って何者なのだ?
その後、ご主人が我を鑑定してきた。まずい。種族がばれると殺される。と一瞬あせったが、ご主人の殺気や敵意は全く感じなかった。少し驚いた後に「なるほど、本当に子猫だったとは。しかし、デモニックヘルキャットって何かすごそうな種族ですな。まあ、猫でしかもかわいければ問題なし、それどころか魔物の種族ということは、私よりも長生きしてくれるということ。いいことです。」と言い、我がどのような存在かを全く気にしてなかった。それどころか長く一緒にいられると喜んでくれた。
命を救われた上に、こんなに安心できる空間を用意してくれたご主人に我は永遠の忠誠を誓っていた。きれいになったところで、売られたりされるかもという気持ちはほんの少しあったが、あの台詞だ。感動しないわけがない。どうやらご主人は我のこの姿を気に入っているみたいなので、これからはずっとこの姿でいることにしよう。
「猫ちゃん。君の名前を『マーブル』と名付けます。マーブル、これからよろしくね。」
ご主人からこの台詞を聞いたとき、我がデモニックヘルキャットという種族であることは心の底からどうでもよくなっていた。ご主人が設定してくれたマンチカンとして、これから楽しく生きていこうと思った。
「こちらこそ、よろしく、ご主人。」
こう、私も返事を返して一緒に眠った。
ちなみに言葉が通じているかどうかはわからない。
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