第10話 ほう、お久しぶりですな。では近況報告といきますか。

 ふと目が覚めると、そこは以前見たことのある風景だった。周りが真っ白のひたすら長い廊下だ。前世で死んだときに来た場所のはず、ということは、、、。



「ありゃ、また死にましたか。まあ、全く苦しくなかったし、マーブルにも出会えたから前世よりもいい人生でしたね。って、マーブル? 何で君もここに?」



 マーブルは私の姿を確認すると、もの凄い勢いで飛びついてきた。不安だったのね。もちろんしっかりと抱きかかえる。マーブルを抱きかかえると安心したのか喉を鳴らしていた。これは嬉しい誤算だ。このままもふもふを堪能することにしますか。



「こらこら、勝手に死んだとか決めつけるでないぞ。丁度いい機会じゃったからここに来てもらった、ということじゃ。」



「呼び出しですかい。ところで、丁度いい機会とは?」



「うむ。近況を聞こうと思っておったのよ。それで、どうせならじっくり話を聞こうと思ってここに呼んだのじゃ。」



「なるほど。では、どこから話しましょうかね。」



「、、、、お主、死んだかどうかについては頓着無いのか。普通はホッとしたり驚いたりと何らかのリアクションがあると思うのじゃが。まあよいわ。できれば最初から話してもらおうかの。時間は止めてあるから何時間かかっても大丈夫じゃぞい。とういわけで、立ったままというのも何じゃから座るとよい。」



 いや、頓着無いとかそういったものではなく、ただそうなったから受け入れただけだから。そこまで人生達観できない。とはいえ、折角当人が話を聞きたがっているのだ。マーブルも一緒に呼んでくれたのだ。マーブルにも聞かせるように、出会ってからの心境などをアマさんに文句を交えて話すとしますか。



 というわけで、いきなり出てきたふかふかな絨毯に座ってマーブルを隣に置いた。それからこの地に降り立ったところから、ねぐらを作ったこと、初めての戦い、マーブルとの出会い、ポーラ・マーシィとの出会いと修行、ムラを形成していたゴブリン達との出会いで、今はそのゴブリン達のムラで泊まっていることなどを話した。



「なるほどのう、苦労したようなしてないような。ところでこの猫じゃが、この猫はデモニックヘルキャットという種族で災厄認定されておるのじゃが、この猫はそういった災いを振りまくオーラが全く見えないのじゃが、お主、一体何をしたのじゃ?」



「先ほども話したように、何も特別なことはしておりませんよ。普通にねぐらの湧き水を水術で温めた状態でかけて、汚れを取り除いた結果そうなっただけで。そもそも水術と格闘術しかないのに浄化なんてできるわけないでしょう。マーブルが自分からそうなってくれただけのことだと思いますよ。」



 そう、私は傷を治しただけなのだ。実際湧き水で傷がしっかり治るかどうかわからなかったし、マーブルの種族がわかったのは治療後に鑑定したから判明したのであって、マーブルが瀕死の状態だったときは猫かどうかすらわからなかったのだ。



「なるほどのう。」



「わからないものは、わからないものです。暇なときに確認してみてはどうですかね。時間はたっぷりあるのでしょう?」



「こら、自分で面倒だと思ったことをこっちに丸投げするでない。」



「ところで、本当にアマデウスさんはポーラ・マーシィさんをご存じないので? あんなに凄いのに。」



「本当に知らんかったわい。そこまでの強さを持っているのなら、神々の間でも有名のはずじゃが、はて。」



「神々? 神様は複数おられるのですか?」



「たくさんおるぞい。ワシなんかはまだ下っ端じゃが、この世界を管理している神の一柱じゃ。お主の世界の神とはちとつながりがあってのう。」



「なるほど。ひょっとして、アマデウスさんって、前世の私の世界に以前いらっしゃったのではないですか?」



「お主、ひょっとして以前のワシのこと知っておるのか?」



「私の知っている通りならば。私に限らずあの世界ではかなり有名な方でしたよ。知っている通りならば。」



「そこまで連呼しなくともよい。恐らくお主の知っている通りのアマデウスじゃ。まあ、そのことはよかろう。以前はどうあれ、今はワシはこちらの世界の神の一柱じゃからの。」



「そうですね。とはいえ、どういう形であれ、そんな偉大な方とこうして話ができるとは光栄です。以後話す機会がありましたら、是非そちらの話しもお願いしますね。もの凄い興味がありますから。」



「そうか、いずれ話す機会があったら話すといたそう。それはそうと、こちらの神々の世界は複雑で説明するのが面倒じゃわい。たくさんおる、とだけ覚えてくれればよいぞ。これから出会うかも知れぬし、全く無関係に終わるかも知れぬし、会ったらその都度覚えておけばよかろう。」



「なるほど、そういうことならばそうしておきます。」



「そういえば、お主、今ゴブリン族の集落におると言っていたよな。で、ゴブリンの言葉がわからないと。」



「そうなんですよ。長のカムドさんはなぜか人の言葉が話せたので、会話はできたのですが、他のゴブリン達とは全く話しができなかったので、できたら話せるようになりたいと。あの集落のゴブリン達は今までのゴブリン達とは何か違っていたので。」



「そういうことか、ゴブリンは実は種族がたくさんあってのう、あのゴブリン達はフォレストゴブリンという種族で、ゴブリンとしては珍しく攻撃的では無いのじゃ。目立たぬよう生活しておっての、ああやって集落を作って生活をしておる。基本は森で採取した植物を食べているが肉も食べるぞい。」



「それは、昨日の宴会で承知しております。」



「そうか。お主は密かにワシに会話能力を欲しておったの。」



「そうですね、ただ、こちらの我が儘みたいなものですし、ただの無い物ねだりといったところでしょうかね。頂けるならもちろん頂きたいですが。」



「そうじゃな。実はお主にあといくつか技能を与えようと思っておった。まとめて与えてもよかったのじゃが、少しずつの方がいいかと思って最初は2つにしておいたのじゃが。」



「そうですね。最初はあの2つだけでよかったと思います。2つだけでなければ、水術をああいった形で使おうとしなかったでしょうし。それに、新たに技能をもらえるなら小分けにしてくれた方が、後で本当に欲しい技能がもらえそうですし。」



「なるほど。確かに水術がああいった形で使えるとは考えてもみなかったわい。お主がそういうのであれば、こちらとしても問題ないぞい。では、他種族との会話能力を授けようぞ。これもかなりヤバイ技能じゃから隠蔽しておいた方がいいぞ。後はその都度与えるとするかの。」



「そうしていただけると助かります。」



「よし、お主はこれであのゴブリン達と会話ができるようになったぞい。ただし、お主の飼い猫については、種族変化があったみたいで、これは無理じゃった。できるようになったら、会話できるようにするが、どうするかの?」



「マーブルについては、今の状態でも大丈夫です。むしろこの方が意思伝達の手段を考えたりできるので楽しいです。逆に、マーブルは私の言っていることを理解できていると思いますので。」



「そうか。では、この猫との会話についてはこのままとしておこう。」



「そうしてください。」



 アマデウスさんは一人でさみしかったのか、ここぞとばかりにいろいろな話しや愚痴を言ってきた。知らんがな。いくら時間があるとは言え長すぎじゃい。



 超長話が終わって、さっき寝ていた場所に戻る。本当に時間が止まっていたらしく周りは真っ暗だった。マーブルは私の隣で眠っていた。さて、私も改めて眠るとしますか。肉体的だけでなくさっきの出来事のせいで精神的にも限界が来ていた。マーブルにおやすみと声を掛けて改めて睡魔の誘いに素直に応じた。

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