第1話 いらない家電は買うな!

「さて、風斗ふうと、新入りは私の部屋の掃除からだ! ほうきを持てー!」

「あかね先輩、ほうきはどこに?」

「あれ、無かったかな。そうだ、最近ロボット掃除機を買ったんだ! ロミオ、おいで!」

「ロミオって誰ですか?」

「え? 掃除機の名前だよ?」


 あぁ、とんでもない変人を先輩に持ってしまった。ロボット掃除機に男の名前をつけるなんて。


「風斗はどこに住んでるんだ?」

「職員寮ですよ」


 エノシュアターの職員は、Aフロアに住居を持つ。あかね先輩はマンション住まいだが、僕はまだまだ新米なので家賃のいらない寮に住んでいる。


「そうか、ならば家電を買いに行くかー?」

「いや、寮なので必要なものはもうそろってますよ」

「そ、そうなのか? 家電要らないのか?」

「家電好きなんですか、先輩?」

「話せば長くなるのじゃが……」


 急に始まったあかね先輩の昔話をまとめるとこうだ。先輩は死ぬ前から機械の設計に興味があり、大学は工学部を目指していたらしい。ところが事故で死んでしまい夢を果たせず。死後も機械の勉強を続けているそうだ。


「仕方ないですね、家電見に行きましょうか」

「おお! そう来なくては!」


 目をキラキラ輝かせて喜ぶあかね先輩は、まだ18歳であった。


 ◆◇


 まだ死んだことのない人たちは、死後の世界にはお花畑が広がっていると思っているだろう。だがそれは嘘だ。元の世界となにも変わらない。


「この世界にもEDISONあるんですね」

「ここに来れば家電は何でも揃うぞ!」


 自動ドアが開くと、そこには……大画面のテレビ、宝石が付いた冷蔵庫、ロボット型のマッサージチェア。


「ちょっと豪華すぎませんか!?」

「ここはAフロアだからな! 私のおすすめの家電を紹介しよう、自動米炒め機だ!」

「ロボットアームまでついてる! どんな機能があるんですか?」

「炒飯を作る」

「え、それと?」

「焼き飯を作る」

「それ同じですよね?」

「いいや、君は何もわかってない! 卵を先に炒めるのが——」


 ということで、炒飯を作る機械を買ってもらった。この世界ではたくさんの国の通貨が使用されていて日本円も使えるようだ。


「いよいよ明日は仕事だ! 風斗、持ち物は準備したか?」

「えっ、何かいるんですか?」

「しおりを読んでないのか?」

「いや、遠足じゃないのでしおりなんて無いですよ」

「制服とケータイ、あとは武器かな」

「あのー、武器って何ですか? そんな危ない仕事とは聞いてませんよ」

「まぁ、私の場合はこの美貌が武器かしら」


 あながち嘘ではないから突っ込めない。

 彼女の赤い髪に空が染まり始めた午後六時であった。

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