第9話 また、何か起こすのかよ…

授業が終わり挨拶をすると、鈴華は席に一度座る事もなく、軽快な足取りでやって来た。


「流星さん、お昼ご飯を食べに行きましょう!」


 聞き慣れつつあるフレーズを聞くと、何も考えていないこの脳内から、(やっと昼か、)という思考だけが浮かび上がってきた。


 こうして、毎日のように俺の席に来てくれるのはとても嬉しいのだが、その都度俺には男子からのおアツい殺気を頂いていた。


「・・・とは言っても最近は落ち着いてきてるよなぁー」


「何がですか?」


「いや、なんでもない」


 きっとはたから見ると俺たちは、仲の良いリア充カップルに見えてるに違いない!

・・・これが優越感か…


「鈴華って女友達いるのか?」


「いきなりどうしたんですか? も、もちろんいるに決まってるじゃないですか」


「そうか、なら良かった。で? 誰とだ?」


「ひ…ひかりさん…」


 だよなぁー、言うと思った。


「他にはいないだろ」


「うっ…そうですけど、何で今そんな話を?」


「いや、だって毎日俺と昼飯食べたりして、他の奴らとほとんど交流が無いしな、ちょっと心配だっただけだ」


「そうですか、ありがとうございます。でも、私は今が一番楽しいので大丈夫です!」


 そう言うと、鈴華は笑顔で俺を見てきた。そのあまりの可愛さに俺は目をそらした。


「それでは、いつもの所に行きましょうか」


「その前に寄らなきゃならない場所がある」


「そうでしたね、ではまずそっちに行きましょうか」


 そう言い向かった先は三年生の教室だった。教室を見渡すと、窓辺で読書をしている先輩がいた。窓から差し込む光が丁度よく先輩を照らしていて、それを見た俺と鈴華は本来の目的を忘れてしまうくらいその光景に見惚みとれてしまった。


 先輩は、俺たちに気付く気配がなかったため、勇気を振り絞り他の先輩に呼んでもらうことにした。


「どうしたんだい? 二人とも」


「実は、斯々然々かくかくしかじかで…」


 そして先輩に経緯を伝えた。


「・・・なるほど、つまりこれからは一緒にお昼を過ごすと、でも迷惑じゃないかい?」


「仕方ないじゃないですか、先生に言われたんですから、本当はいい迷惑ですよ」


 先生におどされてるからな…


「星くんは本当にハッキリとものを言うね…」


━━━※━━━


 そして、鈴華と先輩は何やら楽しそうな会話をしている中、少し後ろから一人でトボトボと歩いていた。


「はぁ~、何か暇だな…   ぐふッ!!」


 すると、俺の腰にとてつもない衝撃が走った。


「流星さん!?」「星くん!?」


 鈴華と先輩もびっくりしたのか、慌てて後ろを振り向いた。でもまあ、こんなことするクソガキなど一人しかいないがな…


「セ・ン・パ・イ♪ お久しぶりです!」


「イテテ…おいお前…早くどけよ………」


 俺に抱きついて乗っかっているため、俺はうつ伏せの状態から立ち上がれずにいた。


「てか、何しに来たんだよ」


「決まってるじゃないですか、鈴華先輩だけセンパイと一緒にお昼食べてズルいので私も一緒に食べにきました♪」


「そうだったんですか、それなら私は全然かまいませんよ?」


「流石鈴華先輩は優しいです! センパイも見習ってください!」


「うっせえ、お前以外には優しいからな」


 そんな何のためにもならない会話をしていると、先輩が固まっていた。


「あれ………? 先輩どうしたんですか?」


「ほ、ほほ星くんがッ!? 鈴華くんだけでなくほほほ他の女の子まで!? ど…どういうことだいッ!?」


「先輩! 落ち着いてください!」


 愛奈をどうにか引き剥がし、先輩を落ち着かせて、とりあえずいつものベンチに座った。しかし、その光景は異様なもので、男一人が女子三人に挟まれているという、普通なら喜ぶべき状態だった。ちなみに右から、先輩、俺、愛奈、鈴華の順だ。しかし、この状態で喜べる奴をみてみたいくらいには喜べない状態であった。


「で、星くんこの子は?」


「えっと、コイツは一年の取巻 愛奈です。ひかりの幼なじみです」


「なるほど、ひかりくんの… 初めまして、私は雨美 麗衣香だ。よろしく」


「・・・」


「おい、何やってんだよお前、黙ってないで何か言えよ。先輩に失礼だろ……って、どうした!?」


 すると、あの誰にでも話しかけることができる愛奈が俺の後ろに隠れたのだ。


「本当にどうしたんだお前? 頭でも打ったのか? それとも先輩を知らないとか?」


 愛奈はまだ先輩に会ったこと無かったから、知らないのかもな。


「知らないわけないじゃないですか… 中学生でも知ってるくらいの有名人ですよ?」


「そんなに有名なのかよ…」


「まあね、それにしても、愛奈くんは私を嫌っているのかな?」


「はい」


「即答かよッ!?」


 一体、コイツは何故なにゆえに先輩を嫌っているんだ?


「理由……を聞いていいかな?」


「ああ、俺も知りたい」


「だって! この人が来たことで私の存在が薄れてるんですッ!!」 


・・・は?


「今まで私が注目の的だったのに! 最近はセンパイにも近づけなかったし…」


「な、何だかわからないが悪い事をしたね。すまない」


「いや、先輩が謝る必要これっぽっちも無いんだが………てか、お前は何がしたいんだ」


「先輩に文句を言いたいです。先輩、これからはセンパイに近づかないでもらっていいですか?」


 愛奈のその言葉からはとても冷たいものを感じた。


「なに言ってんだよお前な、仕方ないだろ、先生に言われたんだから」 


「じゃあわかりました。なら先輩、私と勝負しませんか?」


「何の勝負だい?」


「センパイを賭けた勝負です」


「何でそうなるんだよッ!?」


「ちなみに、勝負の、内容は?」


「内容は今度の土日に、一人ずつセンパイとデートします。そしてどちらの方が楽しかったかをセンパイに決めてもらって、負けた方がセンパイから離れる。ということでどうですか?」


「なるほど………いいだろう!」


「いや、勝手に決めんなよッ!?」


「なら私も参加したいです!」


 すると鈴華は、状況を把握してないかのようき嬉々として言った。


「鈴華先輩はダメです!」


「何でですかッ!?」


「だって鈴華先輩が参加したら、認めたくないですけど、絶対に鈴華先輩が勝ちますので」


 まあ、そりゃそうだろうな。


「では、今週の土日にしましょう。土曜日が私、日曜日が先輩でどうですか」


「うん、いいだろう」


 すると、二人はにらみ合ってバチバチと火花を散らしていた。


━━━こうして、また俺は厄介な事に巻き込まれるのだった。

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