第20話 これで終わりになるのかよ…

 気づくと、今日の授業がすべて終わろうとしていた。


 授業の内容も自分が何をしてたかも覚えていない。


 覚えていることは、おっつーと鈴華が遅れてきて、先生に怒られてたくらいだ。一体あの二人は何をしに行っていたのだろう。そのあと、クラスでは二人は付き合ってるみたいな噂が立っていた。………バカか…


 学校が終わり、クラスの奴らは部活やら下校をして校内にはほとんど人はいなくなった。教室では俺と鈴華だけが残っていた。


 そして俺は覚悟を決め、鈴華に話しかけた。


「鈴華、ちょっといいか……」


「はい…」


 鈴華の声は小さくて震えていた。


「話があるんだ。ここじゃあなんだし…少し移動しないか?」


「わかりました…」


 そう言い俺たちが向かったのは学校から少し離れた展望台。ここはほとんど人の利用は無く、話すには丁度いい場所だ。


「鈴華に伝えないといけないことがある」


「はい、でも私からでいいですか」


「……ああ、わかった」


 そう言うと、鈴華は話し始めた。


「実は私、この学校に来るまではクラスの皆と上手くいってなかったんです。もともと人見知りで、だから孤立していたんです、と言うより皆、私の前からいなくなっていった」


 そんなことがあったのか…


「いなくなっていったってことは、昔はいたってことか?」


「・・・はい、でもいつの間にかみんないなくなってました。でも一人の女の子だけは一緒にいてくれました。でもその子も中学に入る前に親の都合で転校しました」


 そうだったのか…


「それからはずっと一人、だからこの学校に転校して来たんです。この学校に来て実は凄くびっくりしたんですよ」


「びっくりした?」


「はい、皆仲良くて楽しそうで賑やかで、同じ学校でも、こんなに違うんだと思いました」


 賑やかっていうかアイツらの場合ただの動物園だけどな…


「でも、この中で一際ひときわ目立っているグループがあったんです」


 目立ってる?


「流星さんたちです」


「俺たち? 一番目立たないと思うんだが」


「流星さんたちが一番楽しそうに見えたんです。なんていいますか、信じ合っているっていいますか、気をつかってないっていいますか」


 なるほどな、その感覚はなんとなくだがわかる気がする。確かにあの二人といると落ち着いて居心地がいい。ついつい色々しゃべっていまう。


「まさか流星さんだとは思わなかったので、知った時は驚きました」


 知った時、とは俺たちが家の前で初めて会った時のことだろう。


「実を言うと………一目惚れしたんです」


「・・・え、そ、そうなの?」


「はい、クラスで初めて見たときから」


 マジでか、確かに気になってたんだ、いつ鈴華は俺のことが好きになったのか。まさか最初からだとは… 


「一緒に暮らしてからは見た目だけじゃなくて友達思いで優しくてかっこいいことを知りました」


 そ、そこまで言われると、背中の当たりがこそばゆくなってくる…


「だ、だからその…私は、流星さんのことが━━━」


「待った!」


 俺はそこで鈴華の言葉をさえぎった。


「俺の話しも聞いてくれないか?」


「・・・は、はい。わかりました」


 俺は深呼吸をし、呼吸を整えた。


「まず、この間のことを謝らせてほしい。本当にごめん… あれは俺の不注意が起こしたことだ。愛奈は悪くない」


「いいえ、あの時は私も早とちりしてしまったので、ごめんなさい」


「別に鈴華が謝る必要はない。俺が悪かった。それだけだから」


 鈴華にしっかり謝れた。それだけでかなり気が楽になった。でも、ここからだ。


「・・・鈴華」


 鈴華は無言で俺を見た。きっと、察したのだろう。


「あの時の返事、していいか…」


「・・・はい」


 心臓の音が身体中に響き渡る。ここまで来ておいて、まだ自分がビビってるのがわかる。ほんと、情けない。


 俺はもう一度深呼吸をして、胸の辺りを少し叩いた。


「あの時、鈴華に告白されて、俺はとても嬉しかった。でも、その分怖くもあった。もしかしたら、この今の生活が失われてしまうかもしれない。そう思った」


「・・・流星さん…」


「でも、今考えると俺って本当に馬鹿だなって思う。笑っちゃうくらいだ」


「そ、そうなんですか?」


 俺はつい笑ってしまった。それを見た鈴華は動揺を隠せずにいた。


「だってそうだろ、失うって、何も持ってない俺が失うも何もないし、おっつーやひかりだって、俺を見捨てる理由も無いしな。そんなんで見捨てられてたらとっくに見捨てられてる。何より、アイツらはそういう奴らじゃない」


 そう、なんで俺はこんな単純なことがわからなかったんだろう。馬鹿にも程がある。


「それで鈴華が家から出ていった時に気づいたんだ。まだ家に来てそんなに経ってないのに、もう俺の生活の中には、鈴華という存在が、当たり前のようになってることに」


「りゅ、流星さん…」


 鈴華はもう泣く寸前らしく、涙をどうにか抑えている。


 そして俺は、最後の言葉を振り絞った。


「だから俺と…付き合ってください!」


「・・・ッ! はいッ」


 その瞬間、鈴華は俺の胸に飛び込んだ。俺は鈴華をそっと抱きしめ、鈴華は涙を抑えきれずに泣きじゃくった。


 その時吹いた風はとても温もりを感じた。

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