第15話 まさかの家出!(前編)

「はぁ~買い物疲れた~」


 お母さんから頼まれたおつかいという名のパシリを終えた私は、重い食材たちを持ち、家に帰ろうとしていた。


「・・・あれ? あそこにいるのって…」


 すると、見覚えのある人が反対側の道を歩いているのが見えた。


「おーい! 鈴華ちゃーん!」


「・・・! ひかりさん!?」


 私は、鈴華ちゃんのいるところまで走って行った。顔が良く見えるところまで近づくと、あることに気がついた。


「あれ? どうしたの? そんなに悲しそうな顔して……もしかして、星に何かされた?」


 すると、何かを思い出したのか、黙り込んでしまった。星は一体何をやらかしたのか…


「何か悩んでるなら話し聞くけど…」


「・・・流星さんは…私のことが嫌いなのでしょうか…」


 すると、鈴華ちゃんが、そんなことを言い始めた。


「それは無いんじゃないかな?」


「・・・そうでしょうか?」


「確かに、星は性格悪くて、バカで鈍感で最低なところもあるけど…人が悲しむことや傷つくことは絶対しない奴だから」


 そう、星は困っている人がいれば助けるし、。私はそれを知っている。だから私は星のことを━━━


「そういえば、どうしていきなりそんなこと言ったの?」


 なんとなく流れ的にスルーしてしまったが、そこが一番気になるところ。


「えっと、実は━━━」


━━━※━━━


「はぁ~なるほどね、だからそんなに落ち込んでた訳ね」


「・・・はい…」


 確かに、怒りたくもなる。久しぶりに戻ったら星が女に押し倒されていた…しかも、その女は愛奈…


 でも、予想はしてたけど、まさか本当に鈴華ちゃんが星のことを好きになるとは…


「ごめん!」


「な、なんでひかりさんが謝るんですか!?」


「実は私、愛奈に星の家教えてって言われたから教えちゃったんだよね、愛奈には後で厳しく言っておくから」


「あ、はい、ありがとうございます…でも、ひかりさんが悪いわけでは…」


「ううん、私がもとでこんなことになったから…そういえば、これからどうするの?」


 こんな状況で戻るなんて、絶対嫌だろうし、気まずいはず…


「どうしましょう、このまま外にずっといるわけにもいきませんし…」


「なら今日はうちに泊まっていきなよ、丁度買い物して、食材も沢山あるし」 


「い、いや、大丈夫ですよそんな!?」


「何が大丈夫なのよ、女の子を夜中に出歩かせるなんて出来るわけないでしょ」


 何より星も心配するだろうし。


「わかりました。ではお言葉に甘えて」


━━━※━━━


「ただいまーお母さん」


「お、お邪魔します…」


「おかえりーひかり、言ったもの買ってきてくれたー?」


 家に着き、玄関を開けて入るとお母さんがいた。すると、鈴華ちゃんを見て言った。


「・・・あれ? その子どうしたの? ひかりの友達?」


「うん、今日うちで泊まってくから」


「え!?めっちゃ嬉しいー!」


 ここに泊まっていくことを知ると、跳び跳ねて喜び始めた。


「あの…ひかりさん、私の思っていた反応と違うのですが…」


「お母さん、若い女の子が大好きなの…大丈夫、安全は保証するから」


「は、はあ…?」


 お母さんなら問題は無い、無いのだが…


「とりあえず私の部屋に行こ!」


「わかりました」

 

━━━※━━━


「ここが私の部屋!」


「広くてキレイなお部屋ですね」


「ほんと? 結構物が置いてあってごちゃごちゃしてると思うんだけど」


「ごちゃごちゃなんてしてないですよ、可愛らしいお人形がたくさんあって女の子らしいです」


「そ、そこまで言われると照れるな~」


 確か昔、私が風邪かぜで休んだときに、一度だけ星がうちに来てくれたことがあった。その時星に「お前のくせに結構可愛らしい部屋だな」って言われたっけ……ムカついて追い出したけど。


「あっ、鈴華ちゃん、私やることあるからここでくつろいでて」


「は、はい」


 部屋から出た私は鈴華ちゃんの聞こえないところでスマホを取り出した。そして、あるところに電話をかけた。


『・・・はい…もしもし…』


「あ、もしもし星? 私だけど」


 電話に出た星の声からは生気がまったく感じられなかった。


『ひかりか…悪いが今は話したい気分じゃないんだ…また今度にしてくれ…』


「はぁ~何バカなこと言ってんの? 安心して、鈴華ちゃんなら私のうちにいるから」


『そ、そうなのか!』


 それを聞いて安心したのか、声に生気が戻った。


『・・・すまんひかり、お願いがあんだけど、少しの間お前の家に居させてやってくれないか…』


「別にいいけど、私もそうしようと思ってたところだし。それより星は大丈夫なの?」


『あ、ああ…多分…』


 この感じからして、絶対に大丈夫ではないだろう。


「とりあえず今日はゆっくり休みなよ、別に星が全部悪いわけじゃないから」


『俺が全部悪いわけじゃない…か……いや、俺がちゃんと答えていれていれば、こんなことにはならなかった…』


「答えていれていればって何が?」


『実は、鈴華に告白されたんだよ』


「え!?」


 私は素で驚いた。あまりの衝撃で取り乱しそうになったが、どうにか自分を落ち着かせた。


「で…何て言ったの?」


『答えられなかったんだ…』


「な、何で?」


『怖かったんだよ、俺の日常が失われるんじゃないかって…情けないよな…』


 なるほど、なんとなくだけど言いたいことはわかった。


「やっぱバカでしょ、てか大バカ。気づいてないの? 鈴華ちゃんが来てまだ少ししか経ってないけど、鈴華ちゃんって存在が星の日常には欠かせない存在になってるんだよ。そうじゃなければ、星がこんなに落ち込むわけないじゃん!」


『・・・ッ!』


 本当に…それに気づけないなんて、鈍感もいいとこだ…でも、ここまで考えてくれるなんて、羨ましいな、私じゃ考えてもくれないのに…


「それじゃ、鈴華ちゃん待たせてるから私はこれで」


『ああ、ありがとな、ひかり』


 電話を切った私は、部屋に向かった。不意にもその時、私は頬を緩めてしまった。



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