第14話 マジでシャレにならないのかよ…

 鈴華が実家に戻ってから十日間が経つ。


 一応、今日の夜に帰ってくる予定だ。


 本当だったら、一人で静かに溜め込んだラノベを読むつもりだったのに…


「今日も来ちゃいました、センパイ♪」


 ここにいるヤツのせいで全てが台無しだ。


「ああ、もうお前の顔は見飽きた。まさか毎日来るなんて予想外だった…」


 二日連続で来た時は『また来やがった』としか思わなかったのだが、それが三日、四日続き、さすがに嫌な予感がした…案の定、それは今的中したわけだが…


「それほどでもぉ~ないですけどぉ~てへへ」


「もう、ツッコミもしねぇよ…」


 そんなことで一々いちいちツッコんでたららちが明かない。

 

 はっきり言って時間の無駄だ。


「でも、それじゃセンパイの存在意義がなくなっちゃうじゃないですか…」


「俺の存在意義とはッ!?」


 またツッコんでしまった。


 俺は今、いくらハーレムでイケメンな主人公でも、ツッコミ担当だけはなりたくないと心の底から思った。


「じゃあ、何して遊びますか」


「そのセリフも何回聞いたことか…てかどうせお前、何か持ってきたんだろ」


 最初はマリモカートをやっていたが、さすがに長くは持たなかった。そして残念なことに、俺は一緒に遊ぶような友はいなかったため、一人用のゲームしか持っていない、そのためコイツが色々持ってきていた。


「もちろん♪ 今日持ってきたのはコレ!」


 すると、「ジャン!」という掛け声と共に、何かが机に叩きつけられた。


「……トランプか、ババ抜きでもするのか?」


「いいえ、ポーカーフェイスしましょう!」


「いや、ポーカーフェイスしてどうする…それじゃあただのに睨み合いだろ」


「私は別に構いませんけど?」


「ハイハイ、でどうするんだ? 俺ポーカーのルール知らないけど…」


「私もです!」


「言うと思ったよッ!」


 何なんこいつ、色々とツッコミたいけど、とりあえずムカつくから…


「あの…センパイ? そのヤバそうなフィストは一体…ちょ、まっ、やめーーーーッ!」


 そして、そのあと結局ババ抜きになった。


━━━※━━━


 まさか、ここまで追い詰められるとは考えていなかった。


「あれぇ~センパイ、引かないんてすかぁ?」

 

 ぐっ…どっちを引けばいいんだ・・・クソッ! 一か八かだ!


「これだぁぁぁあああっ!!」


━━━『ジョーカー』━━━


「はい、あーがり♪」


「……………負け、た…」


 俺がジョーカーを引き、呆気あっけなく負けた。


「センパイ弱すぎですよ、笑えないレベルで」


「うっせぇ」


 十回中全て負け、愛奈の提案でジョーカーのわからないジジ抜きに変えたが、それも完敗。俺はどうも、トランプの女神には好かれていないようだ。そして、その結果が不服だった俺は、また挑んでいるわけだが…


「なあ、一体俺のどこが駄目だった?」


「えーと、表情ポーカーフェイス自体はよかったんですけど、目の動き方やカードの持ち方が不自然だったので、そこを上手く出来れば良くなると思います♪」


 おいおい、こいつ俺の目の動きとかで見てたのかよ…俺が弱すぎるんじゃなくてこいつが強すぎるだけなのでは?


「いつの間にか暗くなりましたね」


 外を見てみると、確かに暗くなりはじめてきていた。


「ほんとだ…もう日が沈みそうだな…そろそろ帰ってくれ」


「えー今日は早いじゃないですかぁ~」


「鈴華が帰ってくるんだよ、お前がいたら色々と面倒なことになる」


「そう…ですか…それじゃしかたないですね…」


・・・? こいつにしてはやけに素直だな?


「…あの、先輩」


「・・・ん? なんだ?」


 すると、愛奈がいつもの小馬鹿にするような喋り方ではなく、真剣な口調で言った。


「先輩は、やっぱり鈴華先輩のことが好きなんですか…」


「・・・ッ!」


 予想外の言葉に俺は言葉を失った。そしてその時、俺はある言葉を思い出した。


『私と付き合ってくださいッ!!』


 わからない、今の俺には…答えられない…


「そ、それは…」


 わからない、本当に…俺には…


「・・・先輩…」


 俺には・・・・・・・・っ!


 すると、何かの衝撃と共にベッドに倒れ込んだ。気付くと、俺は愛奈にマウントを取られた状態になっていた。


「何のつもりだ…」


「答えてください…好きなんですか…」


 なぜそこまで知りたがるんだ。


「何でお前はそんな俺に執着するんだ…?」


 すると、愛奈は黙り込み、ギリギリ聞こえるくらいの小さな声で呟いた。


「やっぱり、覚えてないですよね…」


 その声は震えていて、とても弱々しかった。


 覚えてないとは何のことだろうか…俺は昔、愛奈に会ったことがあるのか?


「ガタンッ!」


「「・・・ッ!」」


 すると、扉の方から何かが落ちる音がした。びっくりした俺たちは、扉の方に目を向けた。

そこには、見たことのあるバックが落ちていた。


「り、鈴…華…」


そのバックは鈴華の物だった。そして、そこには鈴華がいた。


「流星…さん…これはどういう…」


 その時、俺は気がついた。俺は愛奈にマウントを取られたままだったことに…


「り、鈴華これにはわけが…」


「言い訳ですか…」


「い、いや、ちが…っ!」


「もういいですッ!」


「……ッ! 鈴華!」

 

 いきなり飛び出して行った鈴華を、俺は急いで止めようとしたものの、既に遅く、鈴華は家を出て行ってしまった。


 追いかけた方がいいのだろうか? とも思ったが、足が動かなかった。


「あの…先輩━━━」


 すると、愛奈が話しかけてきた。しかし、俺はショックのあまり、相手をする気が起きなかった。


「今日はもう、帰ってくれ…」


「……はい…」


 俺はそのあと何も出来ず、布団に入ったままだった。


 そしてその日、鈴華は帰って来なかった。

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