第13話 俺に休みはないのかよ…

「すみません流星さん、いきなりなんて言ってしまって…」


「いや、鈴華が決めたんだから仕方ない…」


 そうだ、これは仕方がないんだ…


「私が決めたと言うか、お母さんが無理やり決めたようなものですけどね」


・・・確かにそうだな…


「でもまあ、それだけ鈴華のことが心配なんだろ、俺なんてなかば置いてかれたようなもんだから羨ましいな」


「そんなことないですよ、いい人じゃないですか、私がこの家で暮らしてもいいって言ってくれたんてすよ? でもまさか十日間もここを離れないといけないなんて…」


 というのも、鈴華は母親に夏休みだから報告ついでに戻って来なさいと言われたため、十日間、実家に帰ることになったらしい。


 そして鈴華曰く、母親はとても過保護らしい。よく男子が一人暮らししている家を了解したもんだ。まあどうせうちのバカ親が親バカに何か良からぬことを垂れ流したのだろう。


「もともと一人だったから、全然大丈夫だぞ」


「それもそうですね、それでは行ってきますね、流星さん」


「ああ、気をつけて行ってこいよ」


 鈴華を玄関で見送ったあと俺はリビングに行き、ソファーに座った。


「どーしたもんかな…」


 鈴華に告白された日以降、考えさせてくれとは言ったものの、家では気まずくて話題に出さないまま居心地の悪い空間が続いていた。


「ピンポーン」


・・・ん? 郵便か? 


「ピンポーン、ピンピンポーン、ピンピンピンピンピピピピピピピピンポーン!」


 怖えーよ!?なんでそんなに鳴らすの!?


 俺は恐る恐る、インターホンの画面を覗き込んだ。


「どちらさまでしょうか?」


『あっ、流星センパイいるじゃないですかぁ~居るんなら早く出てくださいよ』ブチッ━━━


 とても腹が立ったのでつい切ってしまった。しかし、外で騒がれるたら近所から変に見られてしまいそうなので仕方なく家に入れることにした。


 そういえば、コイツとはレストランで奢らされた以来、会っていない…


「もー、センパイ遅いですよ対応が…」


「仕方ないだろ…てか、どうして家の場所をお前が知ってるんだよ」


「ひかりお姉ちゃんに聞いたんですよ♪ あと鈴華先輩と同棲してることも」


 ひかりのヤツ、ペラペラと教えやがって。


「それで何の用だ? 鈴華なら当分帰ってこないから家には俺しかいないぞ」


「用ってわけではないんですけど暇なのできました♪」


 わざわざ家なんて来なくても、学園カースト上位で顔面偏差値上位で陽キャでリア充なコイツなら、遊ぶ相手なんていくらでもいるとおもうんだがな・・・


・・・別に皮肉ってるわけじゃないぞ?


「来たはいいが、別に面白いことはないぞここには」


「あっ、いいんだ…てか面白いものがないって、センパイがもう面白いじゃないですか」


 なんでだろう、言葉にしっかりと悪意を感じる。ちょっとした言葉が人を傷つけるんだよ? ちょっとじゃないけど…


「センパイの部屋に行きましょうよ!」


「はぁ~、なんでだよめんどくさい…」


「いいじゃないですかぁー! ベッドの下くらいしか見ませんからー!」


「一番アカンはッ! てか何もかくしてないからな…」


 コイツ、俺を何だと思ってんだ…言っとくけど本当に何もないからな?


「嘘だぁ~、絶対にあるでしょエロ本」


 さらっと何言ってんだ、お前これでも美少女だろ…


「センパイ今、失礼なこと考えたでしょー」


「よくお分かりで」


「隠す気ゼロッ!?」


 隠さないで何が悪い?正直者で良いじゃないか、たまには俺もストレス発散させないとな。


「センパイ顔に出てますよ、完璧に悪役顔ですよ・・・それよりも早く部屋に行きましょうよぉ…ってことで先に行ってますね♪」


「ちょッ! 勝手に行くな!」


 すると愛奈が、勝手に二階に上がって行った。


「早く追わないとどうなることか…」


━━━※━━━


「センパイの部屋はここですか?」


 愛奈を追いかけると、階段から一番近い扉の前にいた。


「なるほどぉ~キミはこの俺がトイレに住み着くゴキブリか何かだと思ってるのかぁ~」


「センパイってば嘘に決まってるじゃないですかぁ~、なのでとりあえずその手に持った凶器をおろして下さいお願いします!」


 ポカッ!


 という空洞音が鳴り響いた。脳みそあるのか? と考えていると、愛奈が動き始めた。


「いったあーーーーいッ! センパイ!スリッパで叩かないでくださいよぉ!」


 お前が悪いんだぞ、だって扉のところに英語で「TOILET」って書いてあるし、ちょっとだけお灸を据えただけだ。


「もぉ~この部屋ですかぁー?」


「いや、そこは鈴華の部屋だ。俺の部屋はあそこだ」


「失礼しまーす!」


「はやッ!」


 愛奈は何の躊躇ためらいもなく一直線に俺の部屋に入って行った。


「早速ベッドの下を見るのはやめろ…」


「良いじゃないですか・・・・・パンドラの箱みたいで!」


「一体俺のベッドの下に何があるんだよ…」


 意味のわからんヤツだ、まったく…


「センパイの部屋…オタクってますね!」


「なんだよ『オタクってる』って、初耳だぞ」


 そう言えばこの間、鈴華にも同じようなことを言われたな…


「俺ってそんなにオタクっぽいか?」


「オタクっぽいって言うか、完全にオタクですよ…」


「どこが?」


「どこが?って…フィギュアが置いてある時点でかなりのオタクですよ? あとはタペストリー置けばかなりヤバイです…部屋も暗いし」


「別に俺はただ好きだから置いてるだけだぞ? あと、最後のは偏見過ぎるだろ!?」


 コイツはオタクのことを何だと思ってるんだ? あと俺ってオタクなのか? ただ好きなラノベを買って、好きなラノベのキャラクターのフィギュアを買ってるだけだぞ?


「ここまで無自覚なオタク、始めて見ました」


「だってオタクって言うのは、趣味に命をかけて本気で向き合って全力でやる、リスペクト出来る人のことを言うんじゃないのか?」


「センパイの中のオタクは凄いですね…ちなみにセンパイは違うんですか?」


「俺はそんな大層なもんじゃないぞ、せめてラノベ全巻読破してからだ」


「そ、そうですか」


 当たり前だろ、オタク名乗るなんておこがましすぎる、俺程度が。


「何しますか、ゲームとか?」


「帰れよ」


「えーと、ここらへんかなぁ~・・・あっ、あった!」


「勝手に他人ひとのモン漁ってんじゃねーよ!」


 華麗にスルーされたことは置いとこう…


「でもほとんどギャルゲーですね…」


「ラノベ関連のしかないぞ」


「そんなことはどうだっていいんですよ、どうしましょう…あっ、まともそうなのあった!」


 そう言って取り出したのは、俺が小学生の時に買ったマリモカートだった。当時は凄くハマっていたが、今思うと、マリモがショッピングカートに乗ってレースするゲームって、ぶっ飛んでるな…それだけでなくそのマリモは、レベルを上げると色や服装やショッピングカートを変えられる要素もある。


「これなら二人で対戦できますね♪」


 確かに、予備のリモコンがあるからそれなら出来るが…


「はぁ、もう好きにしろ…」


愛奈を追い出すのを諦めた俺は、仕方なくマリモカートをやるのだった。

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