カナコちゃん

 うちの学校の七不思議って知ってる?

 意外と、みんな知らないのよね。

 私も、最近になってから聞いたんだけど……


 知りたい?

 後悔しない?


 そう、じゃあ教えてあげる。






 まず一つ目は、無口なカナコちゃんのお話。


 昔、二年三組にカナコちゃんって女の子がいたんだって。


 とても明るくて元気な子で、クラスの人気者だったらしいわ。


 頭も良くて、運動も出来て、先生からも可愛がられていたそうよ。


 でもね、ある日カナコちゃんのお家が火事で焼けてしまって、お父さんが死んでしまったの。


 それで、カナコちゃんはアパートに引っ越して、お母さんと二人暮らしをすることになったんだけど、カナコちゃんのお母さんが、お父さんの代わりに働き始めたのね。


 それが、水商売だったの。


 水商売って分かる?

 女の人がきれいな格好をして、男の人にお酒をついであげるお仕事よ。


 カナコちゃんのお母さんは美人だったから、たちまちお店で人気が出て、お金をいっぱいもらえるようになったんだけど、お家に知らない男の人がたくさんくるようになったんだって。


 カナコちゃんは、それが嫌で嫌でたまらなかったみたいなの。


 日が経つごとに顔が険しくなって、どんどん無口になっていったそうよ。


 それで、カナコちゃんが別人みたいな顔になって、まったく誰とも話さなくなった頃。


 もう一度、火事が起こったの。


 アパートは全焼して、十人以上も人が死んだらしいわ。


 火元はカナコちゃんのお母さんの部屋で、そのとき一緒にいた男の人の吸っていた煙草が原因だったそうよ。


 その火事で、お母さんは男の人と一緒に焼け死んでしまったんだけど、カナコちゃんは無事だったわ。


 それで、カナコちゃんは親戚の家に引き取られることになって、転校してしまったんだけど、転校したとたん、昔みたいに明るいカナコちゃんに戻ったみたいなの。


 不思議よね。


 お父さんに続いて、お母さんまで死んでしまったのに。


 でも実際に、カナコちゃんは何事もなかったように、もとの明るくて元気なカナコちゃんに戻ったらしいわ。


 でもそう……すこしだけ、変わってしまった所もあるみたいだけど……


 たまにとても無口になって、沈み込んでいるときがあったそうよ。


 そして、カナコちゃんが無口になってから何日か経つと、決まってどこかで火事が起きたらしいわ。


 …………


 えっ、うちの学校の七不思議じゃないのかって?


 そうよね。


 うちの学校の話をしていたんだったわね。


 最近、火事が多いと思わない?


 どうも、不審火らしいわね。


 放火じゃないかって言われてるけど……


 …………


 ……ねぇ、知ってる?


 新しく入った事務のおばさん。


 そうそう、あの、いつもニコニコしてて感じのいい人。


 たまに、機嫌の悪いときもあるみたいだけど。


 あの人、カナコさんっていうのよ。


 …………


 ……あら、どこに行くの?


 他の七不思議のお話は、もういいの?


 そう。


 ふふふ、残念だわ。


 まだあと、六つも残ってるのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る