雪男のモロ
雪男のモロは、山奥の小さな洞窟に住んでいました。
生まれたときからずっとそうです。
昔は父親も一緒に住んでいたのですが、モロが父親の身長に追いつく頃、朝起きると父親は冷たく、硬くなっていました。
そして一度柔らかくなって、また硬くなった後、変な臭いがするようになったので、モロは父親を洞窟の奥に埋めました。
それからずっと、モロは一人です。
一人でもモロは立派に生きていくことが出来ました。
イノシシやシカを捕まえるやり方も知っていましたし、石や木で食器を作るのも得意でした。
ですが、美味しいイノシシのスープを作っても、きれいな石の器を作っても、褒めてくれる人はいません。
モロは、いつも寂しい思いをしていました。
大雪が降って、その後で嘘みたいな陽気が続いたある日。
洞窟の外で大きな音がしました。
雪崩です。
モロは雪崩が収まった頃合いを見計らって外に出ました。
斜面をずんずん下って、雪崩れた雪が溜まる場所まで歩いていきます。
なぜなら、間抜けな動物が雪に埋まっていることがあるからです。
今日はなにが埋まっているのか、モロはわくわくしながら大きな手で雪を掻き分けました。
指先に何かがあたり、モロはそれを掴むと勢いよく引き上げました。
出てきたのは、小さな人間の女の子でした。
父親から人間は食べてはいけないと教えられていたので、モロは女の子を連れて帰ると、冷え切った体を抱きしめて、自分の体温で温めてあげました。
女の子は意識を取り戻しましたが、どうやら雪に飲み込まれた時にやられたらしく、目が見えなくなっていました。
目が見えず、言葉も通じない女の子の世話をするのはとても大変でしたが、自分の作った温かいスープを美味しそうに飲む女の子を見ていると、なんだかモロも温かい気持ちになりました。
いつのまにかモロは、女の子のことが好きになっていたのです。
それから毎日、モロは一生懸命に女の子の世話をしました。
温かいスープを与え、ふかふかの毛皮を与えました。
女の子の目が早く良くなるように、怪我によく効く薬草も摘んできました。
モロのおかげで、女の子はみるみる回復していきました。
そしてある日、女の子の目が開いたのです。
モロは喜びました。
自分の持ってきた薬草が、女の子の目を治したのだと、大きな手を叩いて喜びました。
ですが────
女の子は、見えるようになったばかりの目を大きく見開くと、叫び声を上げました。
そして、そこらにあるものを手当たり次第にモロに向かって投げつけてきたのです。
石の器が、木の皿が、モロにあたって、床に落ちて砕けました。
でも、そんなことは気になりませんでした。
もう少しだけ、一緒に居てほしい。
怖いことは何も無いから。
嫌がることはしないから。
あと少しだけ、一緒に居てほしい。
モロは言葉を知らないので、それを少女に伝えることは出来ませんでした。
だから、モロは少女を優しく抱きしめました。
モロが抱きしめると、少女はさらに激しく暴れだしました。
どうすればいいのか分からなくなって、モロは少しだけ腕に力を込めました。
女の子は、おとなしくなりました。
ですが、もうスープを食べることも出来なくなっていました。
モロの父親と同じように、冷たく、硬くなってしまったのです。
モロはとても悲しくなって、父親の横に大きな穴を掘ると、女の子を抱いたままその穴に横たわりました。
そしてモロも、父親や女の子と同じように、動くことをやめたのでした。
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