虫めがね

 ぼくはいつも虫めがねを持っている。


 晴れの日も曇りの日も、虫めがねを持って外に出かける。


 晴れの日は太陽の光を集めて紙を焦がして遊んだり、アリを追いかけてじっくり観察したりする。

 

 曇りの日は花を拡大して見てみたり、葉っぱの裏についている虫を眺めたりしている。


 問題は雨の日だ。


 雨が降っている日には、虫めがねが活躍したことがない。


 今日はあいにくの雨だ。


 家の中は畳の裏まで調べつくしてしまったので、もう見るものがなにもない。


 ぼくは寝転がりながら、虫めがねでぼんやりと天井を眺めていた。


 ぜんぜん面白くない。


 退屈になったぼくは、外を見てみた。


 しとしとと降っている雨の粒を観察しようと思ったけれど、速すぎて虫めがねで追いかけることはできなかった。


 顔から少し離したほうが見やすいかと思って、ぼくは虫めがねを遠ざけた。


 すると、きゅうに景色が逆さまになった。


 知らなかった。


 虫めがねを目から離して見てみると、世界は逆さまになるのだ。


 空は下にあった。


 地面は上にあった。


 そして雨は、下から上に降っていた。


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