だーれだ
だーれだ。
声が聞こえた。
お父さんじゃない。
お母さんでもない。
ぼくは、蔵の中にいる。いたずらをして、お父さんに閉じ込められてしまったのだ。
だーれだ。
聞いたことのない声だ。
おとなの人の声じゃない。
友だちの声でもない。
蔵の中には、ぼく一人だけ。
きみはだれ?
ぼくは尋ねてみた。
さて、だれでしょう。
声は、聞き返してきた。
全然わからない。
ぼくときみは、会った事があるの?
また、ぼくは尋ねてみた。
あるよ。
声は、答えてくれた。
どうやら、ヒントはくれるみたいだ。
きみは、蔵の中に住んでいるの?
そうだよ。
いつから、ここに住んでいるの?
きみが、小学校に入学した頃くらいかな。
ぼくは小学四年生だから、四年前から住んでいるようだ。
きみの名前は、なんていうの?
さて、なんでしょう。
また、ふりだしに戻ってしまった。
名前や正体は、教えてくれないらしい。
きみはいつも、なにをしているの?
窓から、外を眺めているよ。
ずっと?
そうさ。ぼくは、動けないからね。
立ったり、歩いたりできないの? それって、退屈じゃない?
少しね。でも、ここからは、きみの部屋がよく見える。きみは、部屋にこもってゲームばかりしているね? 毎日毎日同じ事ばかりして、きみこそ退屈しないのかい?
どうやら、梯子を上った、蔵の二階にいるようだ。
蔵の二階の窓からは、ぼくの部屋がよく見える。
同じじゃないよ。色んなゲームがあるんだ。
ぼくは、声の質問に答えた。
ふうん。きみは、昔はよく公園に出かけて、友だちと一緒に遊んでいたよね。でも今は、一人で部屋で遊んでる。寂しくはないのかい。
寂しくなんてないよ。部屋にいたって、遠くの友だちと一緒に遊べるからね。
隣にいないのに?
そうだよ。
ふうん。不思議なことも、あるもんだ。
声は、なんだか感心したように、そう言った。
きみの方が、よっぽど不思議だよ。
ぼくは声には出さず、そう、思った。
きみは、ぼくの事をずいぶん知っているみたいだね。
知っているよ。
どうして?
昔は、よく、一緒に遊んだからね。
きみは、ぼくの友だちだったの?
そうだよ。
ぼくときみは、どんな事をして遊んだの?
そうだなあ。きみが、ぼくに色々な話を聞かせたり、きみが、ぼくを連れて散歩に出かけたり、きみが、ぼくを投げたりかじったり。
ぼくは、そんな事を君にしたの?
そうだよ。
なんだか、信じられないような話だった。ぼくには、友だちをかじったり、投げ飛ばしたりして遊んだ記憶はない。
きみは? きみは、ぼくに何かしなかったの?
ぼくばかり悪さをしているようで、なんだかいたたまれなくて、聞いてみた。
…………
答えは、なかった。
ぼくは蔵の二階に駆け上がった。
箱がいっぱいあるばかりで、誰もいない。
あっ、
ぼくは、窓際の箱の上にあるものを見つけ、駆け寄った。
そこにはポツンとひとつだけ、ずっと昔に大好きだった、恐竜のおもちゃが置いてあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます