恋のカサブランカ

 私の姉は『赤いカサブランカ』と呼ばれていた。とても魅力的で、男を虜にするすべを心得ている女性だ。


 だが、姉の恋は決して長続きしない。それも、別れ話を切り出すのは決まって男だった。


 私は姉に聞いてみた。


「何で姉さんと付き合う男は、すぐに離れていってしまうんだろう。付き合う前はあんなに姉さんに夢中だったのに」


 姉は自嘲気味に笑うと、


「愛と恋とは違うものなのよ」


 と言った。


 私にはその違いがよく分からなかった。


 そんな私の思いを見抜いたのか、


「男を引き寄せるのが恋。そのまま引き止めておくのが愛なのよ」


 と姉は言った。


 やはり、私にはよくわからない。 


 だが、姉がなぜ赤いカサブランカと呼ばれるのか、少しだけ理解できた気がした。


 カサブランカは、美しく、甘い匂いを放つ花だ。


 誰もがその花に魅了されるが、枯れて萎れるまで愛でようという男はいない。


 そういうことなのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る