おにぎりの話
その日、ぼくは仲の良い二人の友達と一緒に、お弁当を食べる約束をしていた。
机をあわせて、みんなでいっせいにお弁当の包みを取り出す。
二人が取り出したのは普通のお弁当箱だったけど、ぼくのだけはなぜか布の袋にくるまれていた。
布の袋は結び目がかたくて、なかなか開くことが出来ない。
ぼくが手間取っている間に、二人はもうお弁当箱のふたを開けていた。
ひろし君のお弁当は、ごま塩ごはんに卵焼きとウインナー。
ゆうこちゃんのお弁当は、サンドイッチにポテトサラダにプチトマトだった。
二人とも、とても美味しそうなお弁当だ。
ぼくはやっと結び目がほどけたので、わくわくしながら袋を開いた。
中から出てきたのは、大きな銀色の丸い塊だった。
片手で持てないほど大きい。
ひろし君もゆうこちゃんも、目を丸くして、僕のお弁当を見ている。
いったい、なにが入っているんだろう?
ぼくは、ゆっくりと銀色の包みをはがしていく。
すると中から、大きな黒い塊が出てきた。おにぎりだ。
「すげー、ばくだんおにぎりだ」
「ボウリングの球みたいね」
二人が口々に感想を言う。
どこから噛り付けばいいのかも分からないようなおにぎりを前に、ぼくはなんだか恥ずかしくなって、心の中でお母さんに怒った。
(なんでこんなお弁当なんだよ!)
ひろし君のお弁当みたいにおかずは無いし、ゆうこちゃんのお弁当みたいにきれいな色でもない。
「はい、お弁当の時間ですよ。さあ、みんなで頂きまーす」
「いただきまーす」
先生の合図で、みんながいっせいにお弁当を食べ始めた。
ぼくも大きく口を開けて、何とかおにぎりに噛り付く。
……おいしい。
海苔の下には、ゆかりご飯が入っていた。でも、そのすぐ下にはまた海苔が見える。
そのまま深く食べていくと、今度は海苔の下からわかめご飯が出てきた。
ぼくはなんだか楽しくなってきて、どんどん掘り進んでいった。
わかめご飯の次は、おかかご飯。
おかかご飯の次は、鳥そぼろご飯。
丸いおにぎりは何層にもなっていて、食べ進むたびに違う味が待っていた。
「いーなー、お前のおにぎりおもしろいなー」
「いろんな味があって、美味しそうね」
二人が、ぼくのおにぎりをうらやましそうに見ていた。
クラスのみんなも、わざわざ立って僕のおにぎりを見に来ている。
(お母さん、さっきはごめんなさい。美味しいおにぎりを作ってくれてありがとう)
怒っていた気持ちは、すっかり消えてしまっていた。
むしゃむしゃと食べ進み、とうとうぼくはおにぎりの中心にたどり着いた。
そこには、僕の大好きなから揚げが入っていた。
それをつまんで取り出すと、それをおかずにして残ったおにぎりを全部食べた。
お腹はもうぱんぱんだ。
「こんど、おれも同じやつ作ってもらおー」
ひろし君がそう言うのに、ぼくは微笑むだけで精一杯だった。
苦しくて、とてもしゃべれそうに無い。
でも、
(ぼくも、また作ってもらおうと思ってたんだ)
頭の中で、そう答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます