第8話

 道満がダンジョンで死闘を演じている頃、地上では道満と別れた由那と由香里が放心状態になっていた。しかし、今や地上は戦場と化している。そんな場所にいて、2人が狙われない道理はない。


『ギギィ』『ガルルルゥ』


 放心状態の2人を絶好の獲物だと理解したモンスター達は2人に照準を合わせる。

 今にも、モンスターたちが2人に襲い掛かろうとしたその時だった。


「火炎拳!!!!!」


 凄まじい熱量の炎がモンスター達を焼き払った。


「皆んな、戦え!!!!!

 戦う心を捨てるな!!!願いを持て!!!

 そうすれば恩恵が答えてくれる!!!

 立ち上がれぇぇぇ!!!!」


 現れたのは軍服を着た1人の壮年の男だった。だが、その気迫は、何百のモンスターにも劣らないすさまじいものだった。


「今は苦しいかもしれない。だが、必ず助けは来る!!!!!!!踏ん張るんだ!!!」


『うぉぉぉぉ!!』


 男の声を皮切りに周りの人々が次々と立ち上がり、モンスターへと向かっていった。


「2人とも怪我はないか???」


 男は由那と由香里に安否を尋ねる。


「だ、大丈夫です。あ、あなたは誰ですか?」


 由那が代表して、男に尋ねる。


「申し遅れました。自分は日本陸軍所属の加賀見 紅蓮少佐であります。」


「ぐ、軍の方ですか??!!」


『ぐ、軍の人なのか』『なら、もう安心だ』


「はい。もう大丈夫です。今、全国で軍によるモンスター掃討作戦が行われています。あなた方も早く、近くの避難所へ行ってください。」


 彼の素性を聞いた人々は、揃って安堵する。


「なんで…。なんでもっと早く来てくれなかったんですか!?!?あなたがもっと早く来れば、翔太君は死なずに済んだ。お兄ちゃんだって…!お兄ちゃんがダンジョンに行くことも無かった!!!」


「?!」


 由香里のあまりの希薄に、思わず加賀見は押されてしまった。


「由香里ちゃん、落ち着いて。…加賀見少佐、私たちは今日で大切な人を2人失いました。1人はモンスターに殺され、もう1人は…ダンジョンに行ってしまった。」


「な?!ダンジョンに?!」


 加賀見が驚くのも無理はなかった。なぜなら、現在ダンジョンは、軍によって立ち入りを規制しているのだ。


(ダンジョンの中は控えめに言って、地獄だ。そんなところに一人でだと?!そんなもの、命がいくつあっても足りない。)


「私たちは、あの時何もできなかった。全てを道満さんに背負わせてしまった。私たちが…弱いから、道満さんは1人で行ってしまった。私はそれがたまらなく悔しい。私たちは強くならないといけない。だから、避難所には行きません。義勇兵として軍の作戦に参加させてください。」


「何を言っているのかわかっているのか?

 これは戦争なんだぞ??人が死ぬんだ。

 そんな場所に一般人を連れて行けるわけがない。」


 由那の言い出したことに、加賀見は目を鋭くさせて、厳しい言葉をかける。しかし、これは加賀見の優しさでもあった。これ以上、2人に人の死を見て欲しくなかったのだ。


「私は土御門家の者です!!国の危機に何もせずにいることは、一族の恥です!!!」


(な?!?!土御門家の御令嬢だったのか!それに、この歳でこの風格、末恐ろしい。土御門家の方なら一般の避難所には連れて行くわけにはいかないな。一度、基地まで御同行してもらおうと。)


「これは失礼致しました。土御門家の方でしたか。であれば、話は別です。一度基地まで御同行いただけますか?」


「わかりました。由香里ちゃんも一緒で構いませんか?」


「構いません。」


「由香里ちゃん、行きましょう」


「うん」


(道満さん、あなたの考えは理解できません。間違っているとも思えませんし、間違っていないとも思いません。とにかく、今は強くなります。そして、いつか……)


(道満にぃ、なんで私を置いて行ったの?なんで…)


 由那と由香里はそれぞれの思いで、道満のいなくなった世界を生きていこうと一歩踏み出した。そんな、2人の想いに恩恵が応えようとしているのを2人は知らない。






……一方その頃、ダンジョンでは………


 「ハハハハハハハハァ!!!!!!

もっとだもっと!!強さが欲しいぃ!!!」


 道満は修羅道をさらに深みへと進んでいた。

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