第6話

 光が止み、道満が目を開けるとそこは地底都市のような場所だった。

周りは石でできた建造物だらけである。しかしここはダンジョン。建造物だけなはずもなく、そこら中から何かの呻き声やただならぬ気配を感じる。恐らく、ここはモンスターの巣窟となっているのだろう。

 いつどこから敵が襲ってくるかわからない緊張感みなぎるこの状況で道満は獰猛な笑みを浮かべていた。


「ハハッ!最高じゃねぇか!すでに俺に向かって殺気を飛ばしてきやがる。

強くになるには必要な要素が揃ってるなぁ!」


 恩恵に目覚めたことで強化された身体能力と感覚が捉えた敵の気配が未だ見ぬ闘争を想像させて道満は興奮しっぱなしだ。


『あははは、喜んでもらえて何よりだよ。ここでなら君のその溢れんばかりの欲望を余すことなく満たしてくれるだろう。そうそう君たち全人類共通のある恩恵を与えたよ』


「なんだそれ」


『恩恵の名は{鑑定}。能力はモンスターの名前、等級がわかるようになる優れものさ』


「等級?なんだそれ」


『等級はねモンスターの強さをランク付けしたものさ。ランクは下から順に、

下級、中級、上級、超級、災害級、伝説級、神話級だよ。

超級までのモンスターなら鍛錬を重ねた人間一人で相手できるけど

災害級からは文字通り次元が変わるから気を付けてね。

道満くんがさっき倒したのが中級のブラッドハウンドだね。

ブラッドハウンドを倒した君なら上級を相手にできると思って

上級モンスターが跋扈するフロアに連れてきてあげたよ♪』


「そうか、今の俺じゃあ上級が限界ってことか」


 自分の今の立ち位置を知り、道満は悔しそうに自分の拳を見つめる。

それもそのはず、彼があれほどの死闘を繰り広げた相手は下から二番目の

強さしかなかったのだから。


『そんなに落ち込まないでください。強くなりたいのであれば等級の高い

モンスターをいっぱい倒してください。倒したモンスターの量と質がそのままあなたの力になります』


 神は落ち込む道満をまるで愛し子を見るような目で見つめ助言を与える。


「わかってらぁ。

つーか、いつかはテメェのことも殺してみせる。首洗って待ってろ」


『ふふふふ、それは楽しみですねぇ。

おーっと、そろそろこの世界への干渉も切らないといけません。

その前に道満さん、ダンジョンを出たくなったら一番下まで行くか、

どこかにあるセーフゾーンの転移ポータルからどうぞ。

でも、揺るぎない強さが欲しいならダンジョンの頂を目指すことを

おすすめします。そこであなたを待つ存在を倒せば、あなたは一歩

私に近づき世界が狂った理由の一端が知れるかもしれませんよ』


「世界が狂った理由だと?」


『知れるといいですね。

それじゃぁ、頑張ってくださいね椎名道満さん…いや、鬼灯ほおずき道満さん』


「?!?!おい待て!!なんで、その名前を?!答えろ!!おい!!」


 道満の呼びかけに応える声はない。


(なんであいつが俺の前の名字を知ってやがるんだ???

くそが!!わかんねぇ!!!)


 神の最後の言葉に戸惑いを隠せない道満。

だが、ここはダンジョン。そんな道満の気持ちを汲んで待ってくれるほど優しくはない。


「ギギッ!!」「グギッ!」「ギッギッ!」


 緑色の肌をした小鬼の集団が道満を囲む。

とりあえず、道満は鑑定をしていく。


(ゴブリン?なんで下級モンスターがここにいやがる。ん?ちょっと待てよ

あの後ろにいるやつ)


 ゴブリン達の後ろから並々ならぬ気配を感じた道満はもう一度鑑定を発動する。


{ゴブリンジェネラル 上級}


「そうゆうことか」


 上級モンスターであるゴブリンジェネラルがゴブリン達をあたかも軍のようの

率いていたのだ。


「カハッ、たかがモンスターごときが偉そうに人間ごっこしてんじゃねぇよ」


 道満はおもわぬ強敵の登場に笑みが溢れてしまう。


加速アクセラレーション1《アインス》」


 すぐさま道満は恩恵を発動させ、二倍加速する。

恩恵を発動させた道満の体はほんわりと青い光を帯びている。


「グガガッ」


 ゴブリンジェネラルがゴブリン達に何かを命令するとゴブリン達が道満に向かって進軍してきた。ゴブリンジェネラルの顔には道満を見下した嘲笑の笑みがあった。


「かわいそうによ、今までまともなやつとやりあってこなかったんだろうなぁ

カハッ!!教えてやるよ、本当の強者ってやつを!!!!!」


 獰猛な笑みを浮かべた道満がゴブリン達に強化されたスピードで向かっていく。

 道満のスピードにゴブリン達の目は追いついておらず、道満は一瞬で一体目のゴブリンの側面へと肉薄していた。


「ギギッ?!」


 ゴブリンからすれば緩急のついた目にも止まらぬ速さで回り込まれたため、反応が間に合っておらず急に現れたように見えるだろう。


(まず一体目)


「ビュンッ!」


 道満はゴブリンにできたわずかな隙を見逃さず、倍速のジャブを寸分違わずゴブリンの顎に叩き込む。

 速度が増加すればもちろん衝撃も増加する。恩恵によって凶器と化したジャブはゴブリンの意識を刈り取るに収まらず、グシャっという音を立てゴブリンの顔の下半分を吹き飛ばし、命を絶った。

 しかし、ゴブリンは一体だけではない。


「「「「ギギィーッ!!」」」」


 数十体のゴブリンが一斉に道満に襲いかかってくる。


「遅い」


 しかし、恩恵が強化しているのは物理速度だけではない、動体視力も然りだ。

強化された道満からはゴブリン達がスローモーションで襲いかかってくるように見えており、それら全てにジャブのカウンターをたたき込んでいく。


「ビュッビュッビュッビュッビュッ」


『グギャッ?!』『ギャッ?!』『ギィッ?!』


 ゴブリン達からしたらあらゆる方向から仕掛けた自分たちの攻撃をのらりくらりと交わしていき、すれ違った瞬間同胞の頭が吹き飛ばされる。まさに、悪夢だろう。

 道満の歩いた道にはゴブリンの死体の山ができている。


「よう、あとはオメェだけだな」


『グルル』


 ゴブリンジェネラルは部下達を一瞬で死体に変えた道満を警戒しているようだ。


「そうだ、それでいい。お前が今、相手にしているのは強者だ。

この世は弱肉強食。弱者は食われ、強者の糧になるだけだ。

さぁ、お前はどっちだ??」


 ゴブリンジェネラルは目の前の生物が理解できなかった。

理解できないものに恐怖を抱く。

生物として当たり前の本能だ。

問題はその恐怖とどう向き合うか。

ゴブリンジェネラルは逃げた。あろうことか敵に背を向けたのだ。

この瞬間、ゴブリンジェネラルは弱者に成り下がった。

 それと同時に道満の顔から笑みが消えた。


「2《ツヴァイ》」


 ギアをもう一段階上げる。すると、道満の体の光が緑色の変わる。

道満は少し体勢を低くし、力強く一歩を踏み出した。一歩でゴブリンジェネラルとの距離を詰めるとゴブリンジェネラルに飛びかかる。


「弱者に興味はない。シネ」


 そのまま、ゴブリンジェネラルのこめかみに左フックを放つ。

四倍速になった利腕で放たれたフックは先ほどのジャブとは比べものにならない威力でゴブリンジェネラルの頭を木っ端微塵にした。


「もっとだ、もっと心踊る戦いが欲しい。

上に行けば俺の望む相手がいるのか?

ハッ!イイじゃねぇか、上り詰めてやるよ、天辺まで」


 そして、道満は上への道を探しに歩き出す。

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