第4話

『早くおいでよ、君をずっと待ってるんだ。椎名道満くん』


(誰だ?ここは?夢の中か?)


『君の運命は今日始まる。どんな結末を迎えるかは君次第さ。

どうか僕を楽しませておくれ。君の両親のようにね』


(父さんと母さんを知ってるのか!?どういうことなんだ!!!!

おい!!待ってくれ!!待て!おい…)


「待て!!!!!」


「うわぁ!!びっくりした!!」


「ハァハァ、ゆ、由香里か」


「お、おはよう、お母さんが今日は修学旅行だから早く起きなさいって。

てか、なんかうなされてたけど大丈夫?」


「あぁ、大丈夫。すぐ行く」


「わかった!じゃね!!」


 そう言って由香里は道満の部屋から出て行った。


(一体、誰だったんだあの声は。どこかで聞いたことがある気が…

ダメだ、考えてもわからない。今日は修学旅行だし、早くしねぇと)


 考えることをやめた道満はリビングへと向かう。


「おはよう、道満。時間が押してるから早くしなさい。

あ、あとそれからお土産が……」


 いつものように騒々しい平和な朝が過ぎて行った。


「それじゃあいってきます!ほら!道満にぃ早く行くよ!」


「わかったわかった。じゃあ、いってきます」


「「いってらしゃい!!」」


 





「おはよう!!道満!!由香里ちゃん!!」


「おはようございます。道満さん、由香里ちゃん」


「おはよう。二人とも」


「おはよう!!翔太くん!!由那ちゃん!!」


 東京行きの新幹線乗り場で翔太と由那と集合し、引率の先生からの注意事項を聞き、道満達は新幹線に乗った。

 行き道の新幹線の中でトランプをして時間を潰したりしていて久しぶりに楽しい時間を過ごしていた道満達だがもうすぐ目的地に着くということで荷物をまとめていた。


「ヤベェよ!!ヤベェよ!!まじで東京に来たぞ!!ビルが高ぇ」


「道満にぃ!!見てみて!!すごいよ!!なんかよくわかんないけどすごいよ!!」


「全く、二人とも騒ぎすぎですよ。ふふっ」


 新幹線を降りて翔太と由香里が都会を見て、周りの目を気にせずにはしゃいでいる。それを見て呆れる由那だが心なしか楽しそうにしている。


「ふふふっ、楽しいですね。こんな日々がずっと続けばいいのに。

ね?道満さん」


「ふっ、あぁそうだな」


(確かにこんな日々があっても悪くはないかもな。…俺でも幸せになれるかもな)


 確かにそこにある幸せを見て道満は幸せになれるかもしれないという淡い希望を抱いていた。彼の灰色だった世界に少しずつ鮮やかな色が塗られていった。


『あははははははははははははははhhhhhhhhhhh』『ドドドドド』


 しかし、世界はそれを許すほど優しくはない。いつの時代も人々が幸せを願っても世界は常に非情さを覗かせていた。


『ヤァ地球のみんな。久しぶり神だよ♪今日はね何をしに来たかというとねぇ〜

カウントダウン終了のお知らせでぇす♡

なんのカウントダウンかって?決まってるじゃん!!!

__________________________________

__________________________________________________人類滅亡だよ。

本当におめでたいねぇ君ら、なんの危機感も持たないんだから。普通さ、あんな意味不明な建造物が出現したらさもっと警戒するでしょ。

だから、気づいた時には手遅れになる。』


『ぎゃああああああ!!』『な、なんだよ、このバケモンども!!』『う、腕がぁあああ!』『いやぁあ!目を覚ましてぇ!!!』


 周りでたくさんの悲鳴が鳴り響く。


「な、なんだよ、こいつら」


 道満達が見たのは恐ろしいこの世のものとは思えない怪物の集団だった。

その怪物達は目に付く人間達を食い殺していった。凄惨な光景である。

あっという間に死体の山が出来上がり、まさに死屍累々であった。


「う、うあぁぁ!!!な、なんだこいつ!」


 翔太の悲鳴が上がり、目を向けるとそこには肉がただれた黒い狼がいた。


「翔太ぁあ!」


「道満?!」


 気付いたら道満は走り出し、翔太に手を伸ばしていた。

翔太のすぐ前では狼が大きく口を開いていた。まるで、それは捕食行動に見えた。


「翔太!!来い!捕まれ!!」


 道満は翔太に声をかける。

 しかし、道満を見た翔太の目には諦めの色が浮かんでいた。そして、うっすらと笑みを浮かべ、何かを喋った。周りがうるさく聞こえなかったが口の動きで何を言っているか道満にはわかった。


『バクン!』


 一瞬だった。一瞬で翔太の命は消え去った。右上半身を食いちぎられ、見えている胃の中からはまだ消化されていない食べ物が溢れていた。


「イィやぁあああああああああああ!!!!」


「え、嘘。え?翔太?し、しょう、た?」


 由香里は恐怖のあまり叫び出した。由那はいまだに信じられないのか、翔太の死体を見つめながら涙を流している。

 この瞬間、道満の景色から塗られかけていた鮮やかな色が砕け散った。

そして、彼の見る景色は白黒になっていた。


「あ`あああああああああああ、翔太ぁああああああ!!!!!!

勝手に諦めてんじゃねえよ!!なんでだよぉ、なぁ、なんだよ

『来るな』じゃねぇだろうがよぉぉぉぉぉ、どうしてだよ、

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!!!!!!!

どうして!!こんなに悲しいはずなのに!!!!!!!!!!!!!!!!!!

なんで涙が出ねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」


『いやぁ、みんなどうかな?僕からのサプライズは。ちゃーーんと絶望してもらえたかな?絶望は人を強くするからね。さぁ!絶望シロ!ニクメ!ウラメ!イカレ!ジブンノヨワサニ!!!!!!

でも、弱いだけじゃダメだ。すでに地獄の蓋は開いた。

だから、君たちに対抗手段を与える。

君たちの奥深くにある願望。それらを潜在能力として与えよう。

これは武器だ!!自分だけの!何が目覚めるかは自分次第だ!!

その武器を手に取って立ち向かえ!!!!

そして、抗え!!!!!!踊れ!!!!!!

僕を楽しま「ウルセェ!!!!!!」え????』


「さっきからぺちゃくちゃウルセェんだよ。殺してやる。オメェもこの化け物どもも。わからせてやるよ…。どっちが捕食者かをな」


「ど、道満さん??」


 道満が翔太を食い殺した狼と相対する。由那は道満の異変に困惑する。


「行くぞぉぉぉぉ!犬っころぉぉぉぉ!!」


「ガァルルルルル、ガァァァ!!」


 道満は吠えると同時に狼に向かって駆け出す。その速さは常人のそれを軽く

凌駕している。しかし、狼もアホではない。まっすぐ突っ込んできた道満の右側に回り込み、翔太の時と同様に噛み殺そうと噛み付くがそこに道満はいない。

狼は周りを見渡し、道満を探すがどこにもいない。すると、狼に影が差す。


「シュウ〜〜」


 上を向くと道満が息を吐き出し、空中で攻撃態勢に入っていた。

繰り出すは右のストレート。しかし、ただのストレートではない、肩からの回転を利用したコークスクリューという技だ。


「うぉらぁあああああああ!!」


 ベギッという音を立てながら回転のかかったストレートが狼の顔に刺さる。


「キャインっ!!!」


 しかし、今の一撃では怯ませることしかできず仕留めるには至らなかった。


「くそがっ!普通は今ので終わりだぞ!」


 確かに常人ならば今の一撃で沈むが相手は化け物。常識は通用しない。


「道満にぃ!!!後ろ!!!」


 由香里の声を聞き、急いで後ろを振り返ると狼がとてつも無いスピードで突進してきていた。


「なっ?!?!」


 急いでガードをするがもろに衝撃を浴びてしまう。


「がはっ!!!速すぎる!!」


 狼はスピードで道満を翻弄し、隙あらば爪による斬撃を浴びせてくる。


「ハァハァ、グッくそ、速すぎる!!」


 斬撃を浴び続け、道満はボロボロで満身創痍だ。


「ど、道満さん…」


 由那の心配そうな声が聞こえる。


(くそっ!スピードで負けてるあいつに勝つにはうまいことカウンターを当てるしかねぇ。それでも、俺のジャブの速さじゃかすらせることもできねぇ)


「ガルっ!!」


 勝つ方法を模索している道満を再び斬撃が襲う。


「うっ!くそぉ!!やるしかねぇ!!!」


「シュッ、シュッ、シュッ」


 必死にカウンタージャブを放つがかすらせることすらできない。

道満は傷が増えていく一方だ。


 シュッ


(もっと早く!!)


 シュッ


(もっとだ!!!)


 シュッ


(もっともっと速く!!!!誰も反応できねぇくらい速く!!!!)


「限界くらい何度だって超えてやらぁぁぁぁ!!」


____________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________ビュン!!!!!!!!


「ギャフン…」


 ドサリと音を立てて狼が地に伏せた。そして、光の粒子となって消えていった。







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