第3話

 学校に到着し、道満は自分の教室の前で立ち止まる。教室の中ではクラスメイト達が会話しているのが聞こえる。


『ガラガラ』『シーン…』


 しかし、道満が教室の中へ入った瞬間に寸刻前の喧騒が嘘のように静まってしまった。その光景を見て、道満は少し苦笑いをしつつ一番後ろの窓側の自分の席に座る。

 

「よう!番長!!いつものことながらビビられてんな!!」


「うるさい、翔太しょうた


「おいおい、小学校からの付き合いの幼馴染であるこの石動いするぎ翔太を無下にするのはどうかと思うぜ」


 道満が座った瞬間に翔太が喋りかけてきたことで張り詰めていた空気が霧散し、先ほどまでの喧騒が戻る。


「その通りですよ道満さん。翔太さんのおかげで道満さんに不快な目が向かなかったのは翔太さんのおかげなんですよ、一応」


「こら、由那ゆな。一応は余計だ」


「あら、そんなつまらないこといちいち気にしてはるんですかぁ?

ええですやん、うちら幼馴染でっしゃろ?」


「けっ、これだから土御門のお嬢様は…

てかお前、本性出すとき方言出るのやめろよ」


 道満の二人目の幼馴染は京都一の大財閥、土御門家の一人娘だ。


「ところで道満さん、明日からの修学旅行の行動班はお決まりで?」


「いや、まだだ」


「やっぱり。そう思って先生のほうには私と道満さんとこちらの猿で登録しておいたので」


「誰が猿じゃああああ!!!

てか、何勝手に決めてんだよ、まぁそれでいいけどよ」


「ハァ、わかった。ありがとう。」


「ハイ♪」


『キーンコーンカーンコーン』


 話が終わったところで丁度、授業開始のチャイムが鳴ったので二人は席に戻っていった。








『キーンコーンカーンコーン』


 長い長い学校の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「終わったぁ!!疲れたぜー。なぁ、道満ぁ帰りにどっかに寄ってかね?」


「悪りぃな、このあとちょっとな」


「おいおい、もしかしてボクシングか?」


「まぁな」


「止めとけよ、あそこはお前を苦しめるだけだ。忘れたわけじゃねぇだろ、あいつらがお前にした仕打ち」


「確かにそうだな、でも止めるわけにはいかねぇんだ」


「ちっ、そうかよ。でも、なんかあったら言えよ」


「あぁ、じゃあな」


「おう!」


 翔太と別れた道満はそのまま学校にある練習場へと向かう。


「まだ、誰も来てねぇな。よし。」


 練習場に着いたがそこにはまだ誰もいなかったが道満からしたらそれは好都合だった。誰かいればいつものように目線を向けられ練習に集中できなくなってしまうからだ。


「シュッシュッ、シュシュッ、フッフッ、シュッ」


 練習場にサンドバックを殴る音が規則正しく激しく鳴り響く。


「プフッ、まだそんな無駄なことをしてたのか?元エースさん?」


 音が鳴り止むと同時に誰かが道満に話しかける。しかし、その声からは友好の感情は感じられず、感じられるのは嘲りのみだった。


須藤すどう…」


「そんなことしても無駄だろうに。

だって、もう二度と試合には出られないんだからねぇ?

本当に無様だね、昔は将来のチャンピオンだなんてもてはやされた挙句に

切り捨てられるなんてね、同情するよ。確か、過剰防衛だっけ?

悪漢に襲われてた女性を助けるためとはいえ、犯人を殺してしまったんだ。

まぁ、仕方ないよねぇ。その強さが仇になるなんて笑えちゃうよ」


「よく喋るやつだな、話はそれだけか?なら、帰らせてもらう。」


 須藤からの煽りの言葉に顔色一つ変えることなく帰る準備に取り掛かった。


「ハァ、君のそういうところが気に入らなかったんだ。

二度とここに顔を見せるな……が」


「言われなくても」


 お互い顔を合わせることなく道満は練習場から出て行った。






(面と向かって人殺しと言われたのは初めてだったな。でも、何故だろうな。

意外と


 自分の心境に驚きを感じながら道満は校門を出た。


「ひどい言われようでしたね、道満さん」


「由那か、待っていたのか」


「えぇ、心配だったので」


「由那。幼馴染だからといってわざわざ俺のことを気にかける必要はない。

人殺しの俺といたらお前にも迷惑がかかる」


「そんなことおっしゃらないで下さい!自分のことを卑下なさらないで下さい。

私がどれだけ…、どれだけあなたのことを…」


「なんだ?」


「いえ、なんでも…(なんでこんな鈍感なんですかねぇ)

さぁ帰りましょう?道満さん」


「あぁ」


(まぁ、今はこのままでいいです。この日々が続けばそれで。

道満さん、私はあなたをお慕いしております)







「ただいま」


「あら?おかえりなさい。もうあんたが帰ってくるのが遅いから

あんたの分の準備も済ませちゃったわよ?由香里と一緒に」


「そっか、ありがと。由香里は?」


「由香里はもう寝ちゃったわよ」


「そっか、俺ももう寝るよ」


「そう、おやすみなさい」


「おやすみ」






 大災害までのカウントダウンが始まった。











 

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