リニア宇宙エレベータ

夕日ゆうや

第1話 リニアエレベータ

「あの計画は動いているのかね?」

「はい。つつがなく進んでおります」

 葉巻をふかしている男が優男の応えに微笑む。そのために税をあげたのだ。今日も裏の会合がある。

 政治家である男がだらしのない腹を揺らしながら、エレベータを降りていく。エレベータはワイヤーロープと箱と、ガイドレールなどで作られている普通のエレベータだ。通称〝昇降機〟だ。

 昇降機で降りていくと目の前にはリムジンが横付けしてある。

「どうだ」と問う政治家に耳打ちをする優男。

 今回の事業により野党だけでなく国民の反発を招きかねない。今後を憂いて死者がでる可能性もある。

 それだけのプロジェクトにも関わらず、賛同する者は多い。それだけ日本の未来を考えている証拠でもあるが、誰も口にはしない。


※※※


 企業の交渉役として並んでいる目の前でそれは映し出される。

「以上でリニアエレベータの説明を終わります。ご視聴ありがとうございました」

 深々とお辞儀をする。

 パチパチと鳴り響く拍手。

「それでこのエレベータの実用性は?」

「コストはどうなっているのですか?」

「旧来のエレベータで十分なのでは?」

 様々な否定的な意見が飛び交う。

 言い返す言葉もないとはこのこと。

「実際に実験してみないと、分からないのです。ですからその支援金をお願いしてます」

 プレゼンテーションをしたところでメリットの少ないリニアエレベータなど見向きもしないのだ。

「少なくとも観光地にはなります」

「君は企業をなめているのかね? これは売れるものじゃない」

「は、はい……」

 痛いところを突かれ、尻すぼみになってしまう。

「せめてメリットの提示ができないとな」

 はははと笑う交渉人。

 エネルギーの観点から見てもリニアエレベータは高コストになってしまう。理由は簡単で自転車のような歯車で動くのが効率がよいと知られている。

 またリニアエレベータは安全性も低い。

 唯一勝てるといえば、

「このリニアエレベータは馬力が違います。加速度も高く、すぐに目的地にたどり着きます」

「それなら従来のエレベータで十分では?」

 歯がみをする。

 その通りだ。その通りすぎる。利点なんてほとんどないのだ。


 ▼


「あーあ。これが完成すればカーボンナノチューブの研究や開発費がおりてくるというのに……」

 そのためには世間一般への普及が第一。身の回りにあると知れば、研究費も上がるというもの。

「飲み過ぎよ。少しは控えなさいな」

「へいへい。俺はどうせなにもできない人ですよ」

「できているじゃない。宇宙ケーブルカーやリニアエレベータはあなたのアイディアでしょ?」

「そりゃそうだけども。企業が動かなきゃ意味ないじゃん」

「それは……そうだけども」

 ばつの悪い顔になる明梨あかり

「リニアエレベータなんて単なるリニアモーターカーを縦にしただけだし。そこに電導性があるカーボンナノチューブを使うだけだし」

 リニアエレベータの構造は単純で、電磁場を応用した斥力と引力を利用した推進システムだ。

 各階層にはストッパーと呼ばれる板を挟んで止まれるようにするのだ。また緊急用にレールとレールの間にはブレーキになる滑車がある。

 そういった諸々のシステムにより高コストになってしまうのだ。主にエレベータの底にセットしてあるバッテリーが重く、値段も跳ね上がっている原因である。

「でも成功すれば宇宙ケーブルカーとしての一歩を踏む出せる」

「それも含めて説明すればいいじゃない」

「簡単に言ってくれるが、宇宙なんてすぐに思いつきはしないだろ」

 宇宙には限りない資源がある。それだけではなく、空間もある。

 悪天候に影響されない利点もあり、大型の太陽光発電をセットすれば、安定した電力供給が可能という可能性もある。

 だが一般的な人からしてみれば、宇宙というのはまだまだ遠い存在なのだ。

「宇宙なんて夢また夢なんだよ」

「それを夢にしてしまうのが颯太そうたくんの力だよ」

「そう言ってもらえるとやる気がでるけど」

 しかし、メリットの薄い青臭い理想しか言えないのが俺・石渡いしわたり颯太だ。

 その理想を応援するのが彼女・竹原たけはら明梨だ。

「そもそもなんで宇宙にこだわるの?」

「簡単なことだ」

 人口爆発、地球温暖化、資源の枯渇、エネルギーの枯渇、食糧問題。

 これらの問題を解決するには、一人あたりの消費資源を減らすしかない。資源や人口密度などを簡単に表すのなら、一人あたりを地球の面積あたりに換算できる。

 そうなると人口を減らすか、あるいは面積を増やすしかないのだ。

 一人っ子政策からみるに人口を減らすという案は失敗に終わっているのだ。

 エネルギーを減らし、前時代的な生活を送るにしても、病院などを利用している人々に多大な被害をもたらす。

「――となれば宇宙に新たな空間を開拓するしかないのだ」

「宇宙には資源があると?」

「衛星や隕石などの資源だけでなく、スペースコロニーによる空間の開拓が望める。そのさいには野菜工場やそれを餌とする家畜も、だ」

「なるほど。それで宇宙にこだわるのね」


 そうこれは宇宙へと飛び立つ下準備のお話なのだ。

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リニア宇宙エレベータ 夕日ゆうや @PT03wing

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