15話 なんでこんな目に

シグにギルドに置いていかれてしまった。

まさかの展開だ。

あれだけ勧誘したくせに、酷くない??酷いよね!?

こんな早く別行動をさせられるなんて……

シグはここで待ってろって言ってたけど……やっぱ、あの家に帰ろうかな。


まぁ、どちらにしろ、何か、この状況を打破できるような作戦を考えないと……

そう思っていると、私達の様子に流石に見かねたのか、ギルマスが私の隠れている避難場所テーブルの下を覗き込んできた。


「大丈夫か?嬢ちゃん。」


これの何処が大丈夫に見えるんだろうか。

私は机の柱に隠れつつ、右手にダガーを持ち、それをギルマスに向ける。

その様子を見て、ギルマスはやれやれと肩を竦めた。


「嬢ちゃんは他人に対して警戒しすぎだ。シグも緊急の依頼が入った事だし、この機会に他人に慣れてみたらどうだ?」


私は首をブンブンと横に振った。

慣れなくて良いって!

慣れた結果、酷い目に会うんだよ!?

この世界って本当、怖いんだからね!?


「と、言ってもなぁ……全く警戒するな、とは言わねぇが、流石にずっと気を張りっぱなしじゃ持たないだろう?シグ坊も人付き合いが苦手だったが、嬢ちゃんぐらいの歳の頃には上手いことやってたぜ?」


いや、シグは強いから例外だって。

確かに常に警戒しとかないといけないのはしんどいけどさぁ……


「まぁ、人が怖いのは分からんでもないが……まぁ、慣れたら何とかなるさ。ほら、危険に飛び込むことで分かることもあるってヤツだ。」


私は再び首を横に振る。

いやいやいや、危険に飛び込むって……

痛い目に遭うじゃん。嫌だよ、そんなの。

それで死んだら元も子も無……


「よいしょ。」


……警戒を解いたつもりは無かった。

でも、いつの間にか、私の体はギルマスにスッと持ち上げられていた。

え、この人、今、何をしたの?

なんで持ち上げられたの??

私の目には、ギルマスが私を避難場所から出す予備動作が全く見えなかった。

いや……無かった?

私が唖然としている間に、ギルマスは私を3人組の前に下ろした。


「お、ギルマスナイス!」

「もう逃げられないわよ……?」


さっきまで喧嘩してたのに、ここぞとばかりにカイゼルさんとルネさんが意気投合して私に詰め寄ってくる。

前方の3人組、後方のギルマス……

危険を感じた私はダガーを構えようとした。

が、ベルトに固定してある筈のダガーが鞘ごと、しかも、2本とも無くなっていた。

私はギルマスの方を向く。

ギルマスは両手に私のダガーを持って、ニッコリと笑った。

やっぱりそうか!!

私は飛び跳ねて、ギルマスからダガーを取り返そうとした。

しかし、手が届くか、と言ったところで、ギルマスの手からダガーが消えた。

恐らく、今のも魔法でどこかに収納したんだろう。


「依頼が終わったら返してやるから。ほら、仲良く行ってきな。」


この……薄情者!やっぱりこの人は敵だ!!

この状況から逃げる事は可能だろうけど、それを取られたら話は別だ。

だってそれ、シグのお金で買ったものなんだよ!?

それを無下にする訳にはいかないじゃんか!!

そんなわけで、私は観念して、3人組と依頼を受ける事になった。

ニコニコと笑って私たちを見送るギルマスが、恨めしく見えた。




今回の依頼の具体的な内容については、歩きながら3人が教えてくれた。

最近、この町で女性や子供が数人、行方不明になっているそうだ。

そして、その内の何人かが奴隷市場で見つかった事から、人身売買を目的とした人攫いが出現しているのではないか、と噂されているらしい。

なので、その真偽を確かめるために、怪しい人物を見たか、もしくは、行方不明の人を最近見かけたか、等の情報を、町の人に聞いて集める、というのが今回の依頼内容だ。

期間は3日間。

その間に集めた情報をギルマスに報告したら依頼達成とみなされる。

……猪退治に比べると、時間はかかるものの、労力はそんなにかからなさそうだ。


「キャルロットちゃんは私達の後ろに着いてくるだけでいいからね〜。」


ルネさんはそう言うと私の頭を撫でてこようとしたので、サッと避けた。

が、ルネさんは諦めず、後ろから抱きついてきた。

なので、しゃがんでそれも避ける。

……人間に飼われている小動物の気持ちが何となく分かった。


3人組がまず向かったのは、この町で1番大きいレストランだった。

カイゼルさんが木製の扉を押し開けると、鈍い鐘の音が響いた。

私は3人の後から恐る恐るレストランの中に入る。

レストランの中にはピカピカの椅子とテーブルが沢山敷き詰められていた。

でも、思ったより人はいなかった。

もうお昼をだいぶ回ったからだろうか。


「あぁ、君たちか。いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」


私が警戒して辺りを見回している間に、鐘の音に気づいたのか、厨房の方から、店主らしき中年の男性が顔を出した。

店主さんの反応的に、どうやら、店主さんと3人組は顔見知りのようだ。


「お久しぶりっす。今、ギルドの依頼で最近起こっている行方不明事件について情報収集を行ってるんすけど……親父さん、何か知らないっすか?」


フィリオさんがそう訪ねると、あぁ、それならと、店主さんと3人組は雑談を混じえながら、色々と話し始めた。

ルネさんの言う通り、聞き込みは3人組が全てやってくれるようだ。

まぁ、人と接触しないようにしてくれるのはありがたいけど……これ、私がついてくる意味ある?

念の為、3人組が聞いた情報を私のメモ帳に書き残す事にした。

店主さんがお客さんから仕入れた情報によると、やっぱり、夕方から夜に1人で出かけた女性や子供が行方不明になっているらしい。

しかし、この町の門番の人は行方不明の人達がこの町から出ていったのを見ていないそうだ。

と、なると、行方不明の人々はまだこの町にいるのか、それとも門番の知らない隠し通路があって、そこから町の外に出ているのか、という事になるけど……奴隷市場で見つかったって言うのだから、この二択なら後者の方だろう。

まぁ、そもそも人攫いが門番の人とグルで、門番の人が嘘をついている可能性も充分……というか、めちゃくちゃあり得ると思うけどね。


「そう言えば、その子は誰だい?」


なんて考えていると、急に店主さんが私の方へと話題を振ってきた。

ぞくり、と、背すじが凍るような感覚に襲われる。

思わず私は店主さんと距離を取った。


「悪ぃなおやっさん、アイツ、極度の人見知りみたいでよ。」

「最近冒険者になった子なんすよ。こんな小さいのに凄いっすよねぇ。」

「へぇ、じゃあ、君達の新しいパーティメンバーかい?」

「それが、違うのよねぇ〜。入って欲しいんだけどねぇ〜。」


私はルネさんの熱視線を浴びる。

絶対嫌です。お断りさせていただきます。


次に向かったのは、私が服を買った洋服屋だ。

……なんでこう、嫌な思い出のある所ばっかりピンポイントで寄るんだろう。

ルネさんが言うには、この店はルネさんの友人が経営している店で、この町で1番人気の洋服屋らしい。

店に入ると、私の身なりを整えてくれた店員さんがいた。


「エルマ、久しぶり〜!」

「あっ!ルネ、帰ってきてたの!?超会いたかった〜!」


ルネさんと店主さんは抱き合った。

店員さん、私が買い物に来た時より、1.5倍ぐらいテンションが高い気がする。


「カイとフィリオも居るってことは……今日は仕事で来たの?」

「そうそう!人攫いについて情報収集をしてて〜……」


そんな感じでルネさんは情報収集を行い始めた。

しかし、


「人攫いね……あっ!ルネ達の連れてるその子!昨日この店に来てたよ?」


直ぐに話は脱線した。


「あ、やっぱり!着てる服をここで見た事あるなーって思ってたのよね!」

「流石ルネ!で、私、この子がとっても可愛いいから、一目惚れしちゃって〜。」

「分かる〜!」

「おすすめの服を売ろうと思ったんだけど、塩対応されちゃって〜。」


だから私の話題をするな!情報収集をしろ!

あと、あんなドレスは着ない!動きづらい!


結局、ここでも、レストランの時と同じような事と、常連さんが何人か来なくなったって事ぐらいしか情報が出てこなかった。

帰り際に店員さんに、


「キャルちゃんまた来てね〜!うちはエステもお洋服直しも受け付けてるからね〜!」


と、言われた。

あの人……私の事をカモだと思ってるな!?

もう絶対に来ないからね!




その後、何件か店を回ったりして聞き込みをしたが、どこも似たような情報しか出てこなかった。

聞き込みが終わる頃には、日が暮れ始めていた。


「今日はこの辺りで解散にするっすか?」


フィリオさんがそう言うと、皆頷いた。

よし、漸く解散だ。

私は早々と宿に戻ろうとした。

しかし、


「あれ、キャルロットちゃん、まさか1人で帰るつもりっすか?」

「おいおい、チビがこんな時間に1人でいたら、人攫いに攫われちまうぜ?」


という感じで、フィリオさんとカイゼルさんに止められてしまった。

……あぁ、そっか。

普通に私が攫われる可能性もあるのか。

なら、万が一襲われたら大変だから、念の為、3人組に送ってもらおうかな。

……役に立つかは分からないけど。


「そうよね!危ないわよね!だから、お姉さん達がキャルちゃんを宿まで送ってあげちゃう!」


ルネさんがどさくさに紛れて、またまた私を抱きしめようとする。

私は……避けなかった。

気を許したわけじゃないけど……なんかもう、振りほどくのも面倒臭くなってきた。

今の状況を考えると、シグは意外と気を使ってくれてたんだって実感する。

それに、半日この人達と行動してみて、一応、この人達から悪意は感じないし、何かされてもこの3人なら難なく対処できると思う。

だから、まぁ……このままでいっか。


「お〜?漸く懐いてくれた?」


ルネさんが笑顔で私の顔を覗き込む。

懐いてない。

私の勘が万が一があっても対処出来そうだって判断したのと、諦めただけだって。

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