14話 約束と違う!

次の日の午後。

私はシグと一緒にギルドに顔を出した。

しかし、今日は昨日と違い、ギルドにいたのはギルマスだけではなかった。

ギルドのカウンターの前に知らない3人組が座っていた。


「でさ、こいつが魔力枯渇なんて間抜けしてよ?戦闘中に倒れちまって……」

「まっ、間抜けとは失礼ね!?私がゴブリンの半分を倒してあげたのよ!?」

「まぁまぁ、無事大怪我も無く依頼達成出来たんすから、その辺りはもうどーでもいいじゃないっすか。」

「「フィオは黙ってろ(て)」」

「はいっす……」


3人組は何か言い争っているようだ。

依頼達成、とか言ってるから、このギルドを利用している冒険者だと思うけど……

3人組の座っているカウンターの奥では、ギルマスがその言い合いを見て楽しそうにしていた。

が、漸く私達の視線に気づいたのか、こちらに目を向けた。


「おっ、すまんすまん。カード取りに来たんだな?」


ギルマスの言葉に私は頷いた。

ギルマスは少し待つように私に伝えると、昨日の白くて丸い水晶を用いて、カードの発行手続きをし始めた。

……あれ、なんだか凄く静かになった気が。

私は3人組に視線を移す。

3人組は私を見て固まっていた。

……嫌な予感がしたので、避難場所シグの後ろに隠れた。


「「あああーーっ!!!」」

「あれ!?山にいた子供じゃないっすか!!」


3人組のうち、言い争っていた2人は席を立ち、私を指さす。

仲裁していた1人はオーバーリアクションはしていないものの、目を開けて驚いていた。

あれ……思ってた反応と違う。

てっきり、昨日のギルマスみたいに、何なんだお前!みたいな反応が来るかと思ってけど……

山にいた子供って言われてるから、私、この人達と会った事があるのかな?


「こいつら、俺がお前の所に来る少し前ぐらいに、お前にボコボコにされたらしい。」


困惑していると、シグが小声で私に教えてくれた。

うん、何となくそうかなーとは思ってたけど、やっぱりそうなんだ。

山にいた時に痛い目に合わせた人なんて沢山いるから、この人たちの事は全然覚えてないなぁ。

……まぁ、この人達が私に害を及ぼそうとしてたのを隠してる可能性が十分あるから、痛い目に合わせた事は絶対謝らないけどね!

実際、私を殺せ!みたいな依頼があったみたいだしね!


「で、なんで、その子供がここにいんだよ?」

「あぁ、それは……」


ギルマスは水晶の操作をしながら、私が盗賊じゃない事と、冒険者になった事を説明してくれた。

それを聞いた3人は、安心した様な顔をし、ついでに私に自己紹介をしてくれた。

軽めの防具を身にまとった、茶髪の筋肉質の青年がカイゼル。

白い三角帽子を被っている、ウェーブのかかった長い金髪の女性がルネ。

大きめのメイスを背負い、くせっ毛の白髪を持った糸目の青年がフィリオ。

3人はモドラの町を拠点に活動しているCランクパーティだそうだ。


「君はなんて言う名前なんすか?」


3人組の自己紹介が終わり、フィリオさんが私の事を尋ねてきた。

……本当は嫌だったけど、ここで私が自己紹介を拒否した方が面倒臭い事になりそうだったので、私もメモ帳を用いて渋々名前を教えた。


「へぇ〜っ!貴方、キャルロットちゃんって言うの?可愛い名前ね〜!えっ、ちょっと待って!良く見たら顔もか~わ〜い〜い〜っ!」


ルネさんがグイグイとこちらに来てたので、私は顔をシグの後ろに隠す。


「あら?恥ずかしがり屋さんなのかな?そのお兄さんは危ないですよ〜。離れた方がいいですよ〜。」

「残念だが、嬢ちゃんはシグ坊が拾ってきたからな。シグ坊には懐いてるぞ?」

「え……うっそぉ!?シグさんにぃ?」

「…………」


ルネさんはシグを信じられないって顔で見た。

対してシグはなんだか……少し嫌そうな顔をしている。

昨日と比べて口数も少ない気が……

もしかして、この3人とシグはあんまり仲良くないのかなぁ?


「いやぁ、シグ坊が連れてきただけあって、この嬢ちゃん、かーなーりー逸材だぜ?なんてったって、登録初日にランクCの依頼を達成しちまったからな!って事で、待たせたな。これがカードだ。無くすなよ?」


私はギルマスから、水晶から出てきたカードを受け取った。

Cランクのカードは銅で出来たカードだった。

と、いう事は……


『Bランクに上がったら銀のカードになるんですか?』

「あぁ、Bが銀、Aが金、Sが白金だ。ま、Sランクの冒険者はこの世界に5人しか居ねぇから、嬢ちゃんでも流石に難しいかもなぁ。」


あぁ、やっぱ、騎士の勲章と一緒なんだ。

金の勲章が1番凄くて銅の勲章が一番下だもんね。

冒険者なら白金が1番上なんだ。

……あれ?

じゃあシグが持ってた水晶のカードって、何?

聞こうと思ったら、フィリオさんに声をかけられた。


「シグさんが連れてきたって事は……キャルロットさんはシグさんとパーティ登録したんすか?」


パーティ登録……あぁ、昨日説明して貰ったやつね。

登録については詳しくは説明してもらってないけど、私の知らない内にシグは何かしてたのかな?

確認のため、私はシグを見る。

シグはあからさまに私から視線を逸らした。

……どうやらパーティ登録はまだしてないらしい。

この反応的にする気も無さそうだ。

えっ、なんで?

どうせ一緒に行動するんだから、登録すればいいじゃん。

駄目な理由がよく分からないけど……もしかして、ギルマスが昨日説明してないだけで、何かデメリットがあるのかな……?

なんて考えていると、カイゼルさんが私の前でしゃがみ、顔を近づけてきた。


「なぁチビ!パーティ登録してねぇなら、折角だし、俺らとこの依頼受けねぇか?Cランクになったんだし、問題ねぇだろ?」

「お、カイにしてはいい事言うじゃーん!」


カイゼルさんは手に持っていた依頼書を私に見せた。

私は渋々それを見る。

それは、昨日の人攫いの調査の依頼書だった。

いや……受けないよ?

こんな今日会ったばっかりの人と。

まぁ、厳密には2度目らしいんだけど、痛い目に合わせた仕返しに、何されるか分かんないし。

しかもそれ、昨日私が嫌だって言った方の依頼だし。


「ちょっと待て、そいつは……」


私が困ってるのを察知してくれたのか、シグが割って入ろうとする。

しかし、ギルマスに肩を叩かれ静止する。


「おっと、シグ坊はこっち頼むわ。」


ギルマスは依頼書らしき紙切れをシグに渡した。


「……何のつもりだ?」

「何のつもりもねーよ。単にお前宛ての緊急の依頼があったから、ギルマスとして提供しただけ。」


シグは不機嫌そうな顔を崩さないまま、ギルマスから依頼書を受け取り、目を通す。

私はその依頼書をこっそりと下から透かして見る。

内容までは分からなかったけど、依頼のランクはAらしい。

私のランクじゃ受けれない依頼だ。


「これの何処が緊急なんだよ。」

「依頼主が緊急って言うんだから緊急なんだろうよ?ほら、嬢ちゃんは俺が見ておくから、さっさと行ってこい。」


私はブンブンと激しく首を横に振って意思表示する。

だって、私が留守番って事は、情緒不安定のギルマスと痛い目に合わせた3人組とここに残るって事じゃん。

無理無理。殺されちゃうよ私。

それに、別にシグ1人で行かなくても、ほら、私がシグとパーティ登録すればいい話だよね?

それで、パーティとしてBランクの認定試験を受ければ……

あ、違う。無理だ。

B以上のランク認定試験は、近場でも王都に行かなきゃ受けられないんだ。

ん?でも、依頼に直接関わらないようにすれば、別にシグについて行ってもいいんじゃ……


「コイツが依頼を受けられなくても連れてく。昨日言ったよな?コイツは人間不信だ。初対面の奴らと組ませるのはまだ早ぇ。」

「そうかぁ、それなら仕方ないかぁ……因みにこの依頼、【道化師】も参加するんだけどなぁ〜。」


それを聞いた途端、シグの顔が青ざめた。

【道化師】って……昨日、シグが会いたくないって言ってた人じゃなかったっけ?

この反応を見るに……ヤバい人なのかな?

ま、まぁ、いざとなったら、避難場所シグの後ろに隠れられるし……

大丈夫、大丈夫。ついていけるよ。

シグは数秒無言になったかと思うと、サッと私に向き合った。


「悪い。辛いと思うが、少しの間だけここで待っててくれ。3日後……いや、明後日には帰ってくる。」


シグは私にそう言うと、颯爽とギルドを出ていった。

ギルドの中に私を置いて。

……えっ?

ちょっ……ええええ!?!?

待って!シグ待ってよ!!置いてかないでよ!!

私はシグを追いかけようとして、慌ててギルドの扉を開けた。

しかし、そこにシグの影はもう無かった。


「お邪魔虫もいなくなったしぃ、これで心置き無く誘えるわ!ね、キャルロットちゃ〜ん!」


打ちひしがれていると、ルネさんが後ろから急に私を抱きしめようとしてきた。

うわぁぁぁ!?!?

私は両手でルネさんを突き放し、思わず近くのテーブルの下に隠れた。

即席で思いついた第2の避難場所だ。

にしても、きょ……距離の!詰め方!!早すぎ!!!

もしかして……こうやってニコニコして油断させておいて、後で酷い目に合わせる作戦だったりして!

うわぁ!!やっぱ怖い!!!


「うーん、人間不信とは言ってたっすけど、ここまでとは……重症っすね。」

「それはシグさんが怖かったからなんじゃないの?もぉ、なんでよぉ。出ておいで?キャルロットちゃ〜ん。」

「あの人じゃなくて、てめーの顔が怖いんじゃねーの?」

「はぁああ!?」


そんな感じでカイゼルさんとルネさんはまた喧嘩し始めた。

……もうずっと喧嘩しといて、私の事を忘れて何処かに行ってくれないかなぁ。

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