13話 初めての依頼
ランク試験を受ける前に、ギルマスから冒険者のランクについてレクチャーされた。
冒険者にはランクというものがある。
簡単に言うと冒険者の実力の格付けだ。
基本的にS~Gに格付けされ、それによって受けられる依頼が決まってくる。
格付けの目的として、自分の実力の可視化とか、モチベーションの向上とか色々あるみたいだけど、最大の目的は、弱い冒険者が無謀な依頼を受けて、命を散らすのを防ぐためみたい。
だから、基本的に低ランクの依頼は誰でも受けられるけど、死ぬ危険性が格段に上がるBランク以上の依頼になると、その依頼のランクの1つ下未満の冒険者は受けられないそうだ。
つまり、Bランクの依頼ならDランク、Aランクの依頼ならCランク未満の冒険者は依頼を受けられない。
ただ、例外としてパーティ制度というものがあり、パーティとしてのランクが条件を満たしていれば、例え自分のランクが低くても、上のランクの依頼が受けられる。
こちらは僧侶や支援系の魔法を使う魔法使い等、非戦闘系の冒険者の救済措置が最大の目的らしい。
格付けは戦闘能力の高さで判断されるから、非戦闘系の冒険者でランクB以上の人は、ほとんどいないらしい。
……そういえば、シグのランク私知らないな。
いい機会だし聞いてみよう。
『シグのランクはいくつですか?』
「あー……それはお前がもう少しランクが上がってから、だな。」
……ん?
ランク上がったら教えるって何?
ランク上がったら何かあるの?
もしかして……そもそも私に教える気ないな!?
なんか、私はシグに自分の事を色々話したのに、シグは私に自分の事、全然話してくれないよね!?
なんかずるい!
シグだけ私の弱みを握ってる気がする!
減るものじゃないし、教えてくれてもいいのに!!
まぁ……私の方が弱いから文句は言えないけど……
で、漸くランク試験の話になるんだけど、
ランクC以下の試験は、各ギルド毎に定めた方法で行われるそうだ。
モドラの町のランク認定試験は、実際にそのランクの依頼を達成できるかどうか、によって判断される。
具体的には、依頼に付いていく、その依頼の適正ランク以上の冒険者1人と、その冒険者が魔道具で撮影した映像を見るギルマスが審判となり、2人がその依頼をこなせたと判断すれば、その依頼のランクに認定されるそうだ。
ちなみに私のランク試験の冒険者の方の審判役はシグがしてくれるらしい。
·····え、いいのかな?
もっと無関係な人がしないと駄目なんじゃ……
「いーのいーの、Cまでのランク分けは適当でいいからCまでは各ギルドで上げられる訳だし。ま、その代わり、任命責任はギルド本部じゃなくてギルマスにあるが……それに、シグが喜々として連れてきた奴がCで落ち着くとは思えねぇ。」
尋ねるとギルマスはあっけらかんと答えてくれた。
なんか、案外適当なんだなぁ。
まぁ、シグが審判をしてくれた方が、変に警戒しなくて助かるけど。
と言うことで、私は今受けられる最高ランクのCランクの認定試験を受ける事にした。
ギルマスもあぁ言ってたしね。
適正ランクCの依頼は2つあった。
凶暴な猪の討伐と人攫いの調査。
勿論、選んだのは前者だ。
依頼を選んだ時、ギルマスは予想が外れた、みたいな顔をしていた。
ギルマス曰く、人攫いの調査の方が楽らしい。
えーっと……この人は何を言ってるんだろう?
人攫いの調査とか……人とすれ違うだけでも怖いのに、情報収集なんて絶対無理だよ?
別に不思議じゃないよ??
猪なんかより人間の方が怖いのに、分かってないなぁ……
ギルマスの話を聞いた後、依頼を達成する為に、私はシグとモドラの町を出た。
依頼書によると、凶暴なイノシシはこの町を囲う森に出るそうだ。
何処かで怪我をしたのか、左の牙が大きくかけているのが特徴らしい。
出現する時間帯は日中。
……私達がここに来る時は遭遇しなかったけど。
ギルドで聞いた情報によると、その猪は商人の荷車を襲っていて、困っているのだそう。
「そうだ。お前、魔法が使えないってことは……魔法に関することは全然知らないんじゃないか?」
商人達の通行ルートを見張っていると、唐突にシグが尋ねてきた。
私は首を横に振った。
魔法の事もお母さんに教えてもらったからね。
「ホントか?……魔力0なのは分かってるが、魔法が使えなくても、知識は持っておいた方が良いぞ?」
でもシグは疑いの目で見てくる。
しっ……失礼な!知識は持ってるよ!
魔法は体内の魔力を用いて発動する術の事だ。
火、水、風、土、光、闇の6種類の魔法を基礎として、その組み合わせで様々な魔法が生み出される。
6種類の魔法は魔力があれば全部使えるんじゃなくて、どれが使えるかは完全に才能に左右されるそうだ。
1つしか使えなかったり、逆に全部使えたり……
でも、魔法の材料になる魔力は、個人差はあるものの、魔法を酷使すると容量が上がるのだそう。
……元々無い人にはどうしようもないけど。
私はその辺りの知識をメモに書いて、シグに分かってるとアピールした。
シグはため息をついた。
「そういう基礎的な事じゃなくて、実際に戦いで役立つ事だよ。」
戦いで役立つ事……相性かな?
火は水に弱くて、水は風に弱くて、みたいな?
それをメモに書くと、シグはますます微妙な顔をした。
「……あのな?魔力が無いって事は、魔法が使えないだけじゃなく、魔法に対して抵抗できる力もないって事だ。」
私は固まった。
…………それは知らなかった。
お母さんも、公爵邸の先生も教えてくれなかったし。
じゃあ、もし敵に魔法使われたら私、一巻の終わりじゃん!
「だから、お前は束縛や幻覚の魔法を食らえば100%自力で魔法を解けない。まぁ、束縛系は力技でなんとかなる場合もあるが……基本的に、食らえば1発でお陀仏だ。」
そこまで言われたら、それぐらい分かるよぉ!!
なら私って案外まだ弱かったのかも·····
あの山で村の人を沢山追い払ってたから、ちょっと自惚れてたなぁ……
「審査する身だからあんまり口出し出来ないが……魔法、警戒しとけよ?情報だと単に猪って書いてあっただけだが、このランク帯の依頼って事は、魔物の可能性が……」
その時だった。
地面から振動が伝わる。
私は音の方を見て、両手にダガーを構えた。
視線の先から……赤いイノシシが姿を現した。
大きさは普通の猪の2、3倍ぐらいある。
そして、左の牙が右の牙の長さの半分しかない。
……うん、普通の猪じゃなかった。
シグの言う通り、魔物だ。
だから、魔法云々って言ってたのか。
これもお母さんに教えて貰ったんだけど、人間は自分以外の存在を動物と魔物に分けているそうだ。
簡単に言うと、知性と魔力のない生物を動物、それ以外を魔物としているみたい。
で、魔物の中で知性のないものを魔獣、知性のあるものを魔族と呼んでいるそうだ。
因みに、この知性、というのは人間の言葉を理解できるかで判断しているらしい。
で、今回の猪は……恐らく魔獣。
あの山には動物はいたけど、魔物はほとんど居なかったからなぁ……
出たとして、自然発生したトレントとかスライムぐらい。
ぶっちゃけ猪どころか鹿より弱かった。
なのに急に猪の魔獣かぁ……いけるかな?
猪は私達を見つけると、こちらに向かって猛突進してきた。
私はそれを左に飛んで軽く避ける。
猪は私の後ろの大木にぶつかった。
大木は衝撃に耐えきれず、ミシミシと音を立てて折れた。
パワーもスピードもあるけど、行動は普通の猪と変わらない。
魔法も使ってくる様子はない。
良かった。対処法は普通と同じで良さそうだ。
猪はゆっくり方向転換をし、再び私に向かって突っ込んでくる。
私は再び、同じ様な動きでそれを避けると、猪の胴体に右手のダガーを突き刺した。
こうやって刃を差し込めば、自分の突進するスピードで勝手に切れてくれる。
あとは頑張って踏ん張る!だけ!
私は姿勢を出来るだけ低くし、左手を右手にそえた。
イノシシは直進しながら悲鳴をあげる。
進行方向の岩にぶつかる頃には、胴体から大量の血を吹き出していた。
……あれ?結構簡単に切れたなぁ。
いつもはうまく切れなくて、ナイフを刺して終わりになることが多いのに。
それに、思ったよりだいぶ深くまで刃が通った。
普通の猪の方が皮が硬かったような……
あぁ、違う。武器が良い武器になったからだ。
自作ナイフより全然使いやすい。
横一線に切られ、大量に血を流した猪は、巨体を横に倒し、息を引き取った。
なんか、あっさり終わっちゃった。
私は木陰で一連の戦闘を見学していたシグの元に行き、メモ帳を見せる。
『Cランクになれそうですか?』
「まぁ……これなら文句ないだろうな。やっぱお前、強いわ。」
やったぁ!これで最弱から解放される!
Cランクなら、カードを見せても大丈夫だ!多分!
よし、ランク認定試験大丈夫ってお墨付きをもらったし、猪を血抜きしよ!
私はイノシシの首を切った。
これだけ大きい猪なら何日食べられるだろ……?
干し肉だけでバックがいっぱいになりそうだ……
「あ、そうそう。依頼達成の証拠に、猪はギルドに献上しろよ?」
え、そんな制度あるの?
ギルマス、説明してくれなかったよ!?
『全部ですか!!?』
「あ、いや……普通なら請求されるのは牙とか皮とかだな。」
『肉はどうですか!!?』
「肉は保存効かねぇし、あんまり献上は請求されないな。値段も安いし……」
え!つまり皮と牙だけでいいの!?
シグ曰く、猪の肉は高値で売れないらしい。
え、うっそぉ!あんなに美味しいのに!
やった!今日は買ってもらった鍋で猪鍋作るぞー!
ギルドに戻る頃には日が沈みかけていた。
シグはギルマスに試験について結果報告をし、この成果なら、間違いなくCランクに認定出来るとギルマスが嬉しそうにしていた。
新しいカードが貰えるのは明日の昼頃になるようだ。
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