12話 ギルドに来ました

ギルドは先程の商店街より街の外れにあった。

他の建物と同じくレンガ造りだったけど、思ったよりこじんまりとした建物だった。

私は警戒しながら、シグの後について中に入る。

建物の中は酒場の様な場所が広がっていた。

しかし人気は無く、居るのはカウンターの奥で書類を見ている男性だけだ。

·····もしかしてあの人がシグの言ってたギルドマスターなのだろうか。


「ギルマス、帰った。」


シグが声をかけると、その男性は顔を上げた。

あ、やっぱりそうか。

ギルマスと呼ばれた男性は、ボサついた茶髪を後ろで縛った40代位の痩せ型の男性だった。

無精髭が生えていて、ギルドマスターなんて偉そうな肩書きにしては、だらし無さそうだと感じた。


「おっ、シグ坊にしては随分遅かったな?」

「もう22なんだからその呼び方いい加減やめろ。あと·····色々あったんだよ。」

「色々なぁ·····で、そのお嬢ちゃんが例の·····」


台詞が止まる。

ギルマスは·····私を見て表情が強ばった。

え、何何何!?

私は早速新品のダガーを構えようとしたが、シグに片腕を抑えられた。

なんで!?だってあの人、敵かもしれない!

私は抑えられていないもう片方の手で、

抑えているシグの手をポカポカと殴った。


「落ち着けキャルロット、何もねぇって。ギルマスもどうしたんだよ、そんな顔して·····」

「だって、よ·····お前·····それ·····そいつ……!」


ギルマスはわなわなと震える指で、私を指す。

なんなんだこの人!

!

ギルマスは荒ぶる私と、依然として変化のないシグの反応を見て、諦めたかのように大きく肩を落とした。


「·····そう言や、てめぇ、雷魔法だけだがガッツリ上級魔法使えるし、魔力保有量もアホ程高いくせにだったな。」

「うるせぇ。何回目だよ、この会話。」


レーカン?何の事だろう?

落ち着いてきた私は首を傾げると、ギルマスが手を差し出してきた。


「警戒させて悪かったな嬢ちゃん。モドラのギルドマスターをやってるゼーレ・カラドフだ。よろしくな。」


ギルマスは私に貼り付けた様な笑顔を向ける。

さっきまで変な顔で私の事見てた人と、どうして簡単に握手なんて出来ようか!

私はシグの背後に隠れた。

現時点、この場所ではここが1番だ!

、ね!!

シグは私を見てため息をつくと、ギルマスの方を見た。


「こいつ、人間不信で簡単に人と握手出来ねぇんだ。」

「へぇ、そりゃ難儀だな·····つか、てめぇ、コミュ障のくせに、よくそんな嬢ちゃん連れてこれたな?」

「…………俺もなんでコイツが連いてきてくれたのか謎だ。」


シグは肩を竦める。

え、謎って何!?

シグさ、1ヶ月近く、ウザイぐらい私に来い来いってアピールしてたじゃん!

流石にあれだけ言われたら、断るにしても色々考えるよ!?

それで葛藤した挙句、付いてきたのに!!

え、誘ってた自覚無いの!?無いの!!?


「あと、言っとくがアンタ、さっきのでコイツの危険人物リストに登録されたからな?」

「えぇ〜!こんな可愛い嬢ちゃんに嫌われるなんて、オジサン泣いちゃう。」


ギルマスはえんえんと泣き真似をする。

なんだか·····ふわふわしてて掴みどころが無いというか·····よく分からない人だ。

シグと話している感じでは、悪い人ではなさそう……だけどなぁ。

…………って、またかっ!!

だから!他人をそう簡単に大丈夫って判断しちゃダメだって!


「それより、ギルマス暇だろ?暇ならコイツの冒険者登録をしてくれ。」

「お!なんだ、嬢ちゃんウチで冒険者してくれんのか!」

「違ぇよ。俺が連れてく。」

「え·····この幼気な少女を?てめぇの依頼に?」

「悪いか?」

「いや、お前がそう言うなら大丈夫なんだろうが·····まぁ、?」

「分かってる。」


ん?今なんか的な発言が聞こえた様な·····

そ、そんな危ない所に行くの……?

大丈夫·····だよね·····?

私が硬直している間に、ギルマスは整理していたヨレヨレの書類·····ではなく新品の書類とペンをカウンターに出現させた。

何も無いところから。

多分、マジックバックと同じ系統の魔法だ。


「よし、じゃあ早速登録するか。嬢ちゃん、名前と年齢だけ教えてくれ。」


あ、登録ってそれだけの情報で出来るんだ。

えっと……流石に苗字を書いたらびっくりされるかな。

私はメモ帳にペンを走らせた。


『キャルロットです。歳は11です。』

「あー·····普通に喋ってくれねぇか?声帯認証·····って言っても分からんか。それもかねてるもんで。」


苗字を書かなくても何も言われなかった。

よく分からないけど、あんまり重要じゃないのかな?

それより……せーたいにんしょー·····?

よく分からないけど、とにかく声は出せない。

私は首を横に振った。


『私は喋る事が出来ません。』

「·····本当か?シグ坊。」

「あぁ、声帯そのものが壊れてるらしい。」

「精神的な問題じゃなくて、声帯そのものが?そんな奇妙な事·····」

「オッサン?余計な詮索はするなよ?」

「はいはい·····声が出せないなら虹彩認証にするか。嬢ちゃん、この水晶を見てくれ。」


次にギルマスは白くて丸い水晶を出現させた。

こーさいにんしょー……また分からない言葉が出てきた。

私は言われるがまま、その水晶を見た。

そして、数秒後に『虹彩登録完了こーさい?とうろくかんりょう』の文字が水晶に出現した。

ついでに魔力測定も行うらしく、そのまま水晶を見続ける。

見るだけで魔力って測れるんだ。

武器屋で測った時は水晶に手を置くタイプだったんだけど·····

まぁ、どっちみち魔力0だから、関係ないか。

暫くすると、水晶は予想通り『魔力量:0』と表示した。

しかし、ギルマスは首を傾げる。

そして水晶に何か操作をしていたが、相変わらず表示されるのは『魔力量:0』だった。

もしかして、ちゃんと測れてないと思ってるのかな?


「いや〜、すまんな嬢ちゃん。この魔道具壊れちまってるみたいだ。近くの武器屋で測ってきてもらえるか?」

『武器屋で計測した時も0だったので、それで合ってると思います。その魔道具は壊れてないです。』

「んんんん〜??」


ギルマスは威圧的な笑顔を向けてきた。

またか!?何だこの人は!?怖い!

私はまた避難場所シグの後ろに隠れる。


「嬢ちゃ〜ん、魔力あるだろぉ?なん〜で隠すのかなぁ〜??」

「いや、コイツが魔力0なのは本当だぞ?武器屋で俺も見てたし、実際魔法を使ってるところも見た事ないし。つか、魔力が無い人間は別に珍しくないだろ。」

「確かに生まれつき魔力が無い人間は、千人とか1万人に1人の確率だからには珍しくは無い!珍しくは無いんだが·····その嬢ちゃんに限っては·····」

「さっきから何なんだよギルマス。コイツに何かあるのか?もっと分かるようにはっきり言えよ。」

「俺も言いたいのは山々なんだが……」


台詞を切って、ギルマスは青い顔で私を見た。

……え、何?


「……言ったら間違いなく嬢ちゃんに殺される。」


殺される?人聞きの悪い。

いくら憎くても殺しまではしないよ!

お母さんを殺した人間と同じになりたくないし……

だからやってもだけ!


『私はギルマスさんを殺しません。』

「なら、手を出すなってめ·····」


ギルマスは、また言葉を止める。

そして、動揺した様な顔になった。


「もしかして·····嬢ちゃん自身も、見えてねぇのか?」


見えてない?何が?

私は首を傾げた。

それを見てギルマスはカウンターに顔を伏せる。


「オジサン、もう、訳がわからないよ·····」

「俺らからすれば、アンタの情緒が不安定なだけに見えるけどな?」

「いやいや·····絶対におかしい。魔力0なんて有り得ねぇ。ましてや、?……でも、嬢ちゃんは嘘ついてねぇって俺の長年の勘が言ってる。」


そりゃそうだよ!嘘つく必要ないし!

ギルマスの言ってる事は全然分からないけど、私、この人から見たらどんな事になってるんだろう。

これだけ言われたら、なんか、怖くなってきた。


「なんかあるな、こりゃあ。何事も無く普通に過ごしてりゃ、こうはならないだろ……とりあえず、師匠に紹介状を·····」

「先に言っとくが、俺は絶対、あのジジィのとこに行かねぇからな?」

「ん?じゃあ宛先は【道化師】の方が良かったか?」

「なんでそうなるんだよ!?アイツが嫌だからあのジジィのとこにも行けねぇんだろうが!」


なんて会話をしていると、先程の水晶から緑色のカードが飛び出した。

それをギルマスは取り出し、私に差し出した。


「とりあえず、これで冒険者登録は完了だ。で、これが冒険者である事の証明証だ。」


ギルマスに言われて、私は緑色のカードを受け取った。

私はカードとシグを交互に見た。

·····あれ?シグの持ってるカードと違う·····!

水晶で出来たカードじゃない!


「冒険者のランクによってカードは違うんだ。お前はさっき登録したばかりだから、最低ランクのG級冒険者の緑カードだ。」


と、察したシグが説明してくれた。

成程、ランクによってカードの種類が違うんだ。

ん?じゃあ、この緑色カードは1番弱い冒険者の証って事?

……ヤバいヤバいヤバい!

こんなの見せたら絶対襲われるって!!

私弱いですって言いふらしてる様なもんじゃん!?

暫くはシグみたいにカード見せびらかせないよ!!

何とかして、カードを見せたら皆が逃げ出すぐらいのランクにならなきゃ!


「ついでにランク認定試験受けとくか?ここではCまでしか上げられないが。」


タイミングの良いギルマスの言葉に、私は大きく何回も頷いた。

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