2章 捨てられ少女とモドラの町

11話 買い物します

シグについて行くと決めて、まず、モドラと言う町に向かう事になった。

そこで冒険者の登録をしてもらうみたい。

冒険者の登録証を持ってないと、国や町の移動に証明証がいるらしく、何かと面倒くさいらしい。

私が町の中を通るのが嫌だと伝えると、シグは人通りが少ないルートで町の関所まで案内してくれた。

まぁ、そのおかげで普通なら3日で到着するところが、5日ぐらい時間がかかったんだけど。

あ、因みに移動手段は徒歩だ。

馬車みたいに他人と密閉空間にいるなんて、怖くて無理。

まだ動物とか魔物を迎え撃ってる方がマシ。

多分、馬とかに乗れるようになったらもっと移動が楽なんだろうけど、その辺りは体格的にまだ早いらしい。

シグが言うには、足の長さが足りないようだ。

·····なんか不服だ。


モドラの町の関所に着くと、関所の前に立派な鎧を着た門番の人が立っていた。

門番の人は最初、私たちを見て、怪訝そうな顔をしていたけど、シグが冒険者のカードを見せると、ギョッとした顔をし、すぐ道を開けてくれた。

モドラの町は、クォエラの町のような木材の家ではなく、レンガ造りの建物が主体だった。

クォエラの町と比べると、服も何となく良いものを着ている気がするし、町の人達も楽しそうな顔をしている気がする。


でも·····やっぱ怖い。

この町で私たちは客人だからか、周りからの視線が刺さる。

私は周りへの警戒心が最大限高まった状態でシグについて行く。

そのままギルドに向かう·····かと思いきや、何故か人通りの多い商店街に連れていかれた。

この近くにギルドがあるの?と聞くと、シグは否定した。

え?じゃあなんでこんな戦場に向かってるの?

死んじゃうよ?馬鹿なの??

うん、無理。絶対無理。

私は首が取れるんじゃないかってぐらい横に振って意思表示をしたが、


「そんな格好のお前をギルドに連れてきたら、俺がギルマスに怒られるわ!」


と、突っ込まれた。

私は自分の着ている薄汚れたワンピースを見る。

·····確かにこの街でこんなボロボロの服じゃ、悪目立ちするなぁ。

他人の視線を集めないためにも、周りと同じ様な服を着ないといけないか·····

と、言うことで、渋々こんな常に警戒心MAXでいないといけない場所で、新しく服とか武器とかを買って貰うことになった。


まず向かったのは服屋だ。

服屋には貴族の服に比べたら劣るけど、平民が着るにはちょっと高価そうな服が並んでいた。

·····もしかして、モドラの人達からしたら、これぐらいが普通なのかな?

服屋の店員さんは私達を見つけると、ニコニコと愛想笑いで接客しようとしていた。

シグはここでもカードを見せる。

後から聞いた話なんだけど、冒険者のカードはお財布代わりになるみたい。

お金を持っていなくても、カードを見せたら、ギルドの自分の口座からお金を勝手に下ろしてくれるんだって。

カードを見ると、店員の人は関所の人と同様に、ギョッとした顔になった。


「コイツの身なりを整えてやってくれ。あと、良さげな服を見繕ってくれ。」


シグに言われて、店員さんは焦ったように頷くと、私を地下に連れて行こうとした。

……え、地下?服屋で地下って何?

私がこういうのに疎いだけかもしれないけど……服屋にないよね?地下って。

警戒して私は店員さんから距離を取った。


「何で逃げるんだよ。店の人が困ってるだろ?」

『怖いです』


私のメモを見て、店員さんがショックを受けたような顔をして崩れ落ちた。

シグ、メモと店員さんを見て爆笑。


「普通、商売でやってるんだから、変な事はしねぇよ。それに、俺の連れだし……な?」


シグが店員さんを見ると、店員さんはうんうんと泣きそうな顔で頷く。

·····と言うか、震えてる?


『分かりました。』


こんな所に長い間いるのも危ないので、仕方なく、素直に言うことを聞いておいた。

……これで何かあったら帰ろう。


私は店員さんに連れられて、やっと地下に来た。

地下には……シャワールームがあった。

入る前に、店員さんに髪を整えてもらう。

その店員さんの持つハサミが首に向けられたらどうしようかと思って、終始ビクビクしてた。

·····でも、髪は石のナイフで適当に切ってたから、整えてもらうのはちょっとありがたいとも思った。

店員さん曰く、普段はこんなサービスはしないけど、私だけ特別らしい。

·····もしかして、それぐらい髪型が酷かったって事かな?

女子としてちょっとショックだ。

髪を切り終わると、店員さんに服を脱がされ、お花の匂いがする石鹸で体を洗われる。

ハサミよりはマシだけど……やっぱ怖い·····

実はこの石鹸は魔法の石鹸で、暫くしたら体が溶けちゃうかもしれない·····!

でも、そんな事は起こらなかった。

なんか·····拍子抜けだ。


その後、地上に戻り、服を見繕ってもらった。

店員さんは私を着せ替え人形みたいに、あーだこーだと着せては脱がせを繰り返している。

地下の事と言い·····まるで貴族に戻ったみたいだ。

地下にいた時間と同じぐらいの時間を使い·····最終的に豪華なドレスみたいな服を着せられた。

·····ん?私、冒険者になるんだよね?

これ、動きにくくない?

しかし、店員さんはやり切った!みたいな顔をしている。

·····私はドレスを脱ぎ捨てた。

店員さんはあーお客様〜みたいな事を言っていたけど知らない。

お母さんに教えて貰った……

これは……ぼったくりってやつだ!

私が何も知らないと思って、高い服を売りに来たんだ!

やっぱ、他人に選ばれるのは怖い!

服ぐらい自分で選ぶよ!


で、数分試行錯誤して決めた。

白を基調として、裾に茶色の刺繍が入ったワンピース(フード付き)に青いズボン。

靴は歩きやすそうな茶色いブーツを選んだ。

·····うん、我ながら似合ってる。


「悪くないんじゃないか?動きやすそうだし。」


シグからもOKが出た。

この格好、何よりポイントは私の顔がすっかり隠れるフードだ。

ほら、こうやって被ると、他人から私の顔が見られる事が無いし、色んな視線から身を守れる。

特に、シグからの監視を·····


「おい、何で顔隠してんだよ。」

「··········」

「そのフード、切り落とすか?」


シグが意地の悪そうに笑って、心無い発言をする。

私は慌ててフードを脱いだ。

この悪魔!


次に向かったのは武器屋だ。

店の中には、いかにも職人!って感じの厳つい顔をした男性がいた。

が、ここでもシグがカードを見せると、職人さんは腰が抜けそうになっていた。

そして、貴族相手のような扱いをされる私。

·····シグってもしかして貴族だったとか?

·····そんなわけないか。

職人さんは私の腕の長さや魔力、筋力を測って·····うーんと唸った。

どうやら私には魔力が無いらしい。

少ない、じゃなくて、全くの0だ。

だから、あれだけ練習しても魔法が使えないわけだ。

でも、なんか筋力がそこそこあったみたいで、大きめの斧みたいな武器を持たされた。

·····ん?私、軽いのが良いって言ったよね?

これ、動きにくくない?

しかし、職人さんは満足したような顔で頷いてる。

·····私は斧を投げて壁に突き刺した。


こんな大きいの持ち運べるか!

分かった!これもぼったくりだ!きっとそうだ!!

自分で選ぶよ武器ぐらい!


数分試行錯誤して、右手用と左手用のダガーを買ってもらった。

素材は·····詳しくないからよく分からない。

柄は茶色でシンプルな感じだった。

ついでにダガーをぶら下げておくためのベルトも買ってもらった。


「·····地下に武器を試せる場所があるから、馴染むかどうか、1回手合わせしてみるか?」


調子に乗ったのか、シグはそんな事を言い出した。

また地下か!

今は地下にお店が広がってるんだなぁ……

まぁ、それは置いといて、シグと手合わせかぁ。

あの時は石のナイフだったから負けたけど、ちゃんとした武器を持ってる今なら、そう簡単に負けないからね!

そして10分後·····普通に負けた。

うん……普通に私の実力不足でした·····

あの時と違って、武器が壊れなかっただけマシか……


最後に道具屋に向かって、マジックバックとかテントとか、冒険者に必要な道具を買ってもらって、買い物は終了した。

·····かなり色んなものを買ったけど、シグに全部お金を出してもらった。

そもそも私がお金持ってなかったし。

お金·····大丈夫、なのかな。

今更だけど、ちょっと罪悪感がある。


『お金、いつか返します。』


シグは私のメモを見ると、一瞬きょとんとした顔をして、笑った。


「お前、そんな事気にするのな?これは、俺からお前への投資みたいなものだから、返さなくて大丈夫だからな。」


投資·····?

顔から血の気がさぁっと引いた。

もしかして、お金の代わりに酷いことさせられる?

だって、この事を盾にされたら断れないもんね……

うわうわうわ!そういう事か!この策士め!!


「……今、金返さなかったら、俺に逆らえなくなる〜とか考えただろ?そんな事しねぇよ、お前は俺の相棒だからな!」


うわぁぁあああ!!なんでバレた!?

で、嬉しそうな顔して頭を撫でようとしてくる。

反射的に払った。隙あらばかっ!!!

前からうすうす思ってたけど……シグってメモ帳に書かなくても、私の考えてる事分かってるよね!?

今回みたいななんで分かった!?ってパターンは何回もあったし、意識がそういう事に無いタイミングで頭を撫でようとしてくるし……

絶対、何かそういう魔法を使ってるんだ……きっとそうだ……!


そんな事をもんもんと考えながら、いよいよギルドへ足を運んだ。

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