6話 やっぱりろくな事は無い

まず朗報。

シグは野暮用で今朝、山を降りたよっしゃぁぁ!!

野暮用の内容は詳しくは知らない。

何かギルマスっていう、冒険者が依頼を受けるギルドの一番偉い人からの頼み事·····みたいに言ってたけど·····多分

シグにしては珍しく、たどたどしい喋り方をしてた。

ただ、悪意みたいなのは感じなかったな。

·····私の勘はあんまりアテにならないけど。

で、次に悲報。

これで解放されるかと思ったら、3日ぐらいでここに帰ってくるそうだ。

冒険者、暇か!


そんな訳で普段通りの日常が再びスタートした。

いつもより目覚めがスッキリしている·····気がする。

念の為、家を出る前に、扉を少しだけ開けて外を確認したが、ちゃんとシグは居なかった。

思わずニヤけてしまいそうになる。

今日は何もしても大丈夫!

人目を気にすることも無い!

ストレスフルな日々から解放されて、とてものびのびと生活できた。

いつもの畑仕事も鍛錬も捗っている気がする。

あぁ、自由って素晴らしいなぁ!

しかし、そんなこんなしている内に、あっという間に3日経ってしまった。

三連休最終日である今日は、もうそろそろシグが帰ってくるんじゃないかって、ビクビクしながら生活している。

シグの事だし、草むらから急にバッと出てきそう·····怖い·····

しかし、日中にシグが現れることは無かった。

逆に拍子抜けしてしまった。

よく分からないけど·····何か苦戦してるのかな?

ふふふ·····もうあと追加で3日ぐらい帰ってこなくても良いんだよ?


そして、その日の夕日が沈み始めている頃だった。

私は日課を終えて、晩御飯の材料を選んでいた。

すると、ドンドンドンと荒いノックが家の中に響く。

私はギョッとして扉の方を向いた。

うっわ!やっぱり帰ってきた!


「冒険者だ。ここを開けろ。」


外から全然聞いた事が無い声が聞こえた。

·····シグ·····ではない?

でも、冒険者と言う事は·····シグの友人かな?

あの人、1ヶ月近くここに居たから、仲間が心配して来てくれたのかもしれない。

今ここにシグが居ないので、この人にストーカーを引き取ってください、って言えない事だけが惜しい。

とりあえず、居ませんとだけ伝えよう。

で、さっさと帰ってもらおう。


私は『シグは居ません』とメモ帳に書いて、扉を開けた。

その瞬間、ぬっ、と首元に大きな手が伸びてくる。

思わず姿勢を低くしてそれを避ける。

そして、冒険者と扉の隙間から外に飛び出し、冒険者達の背後に回った。

危ない·····ぼーっと家の中にいたら、逃げ場が無くなって終わりだった·····

来訪者は回れ右をして私と向き合う。

彼らの目は獲物を見るようなそれだった。

どうやらシグの友人では無さそうだ。

つまり、敵襲。冷静になろう。

私は大きく深呼吸をした。


さて、敵の人数は·····4人。

私に手を伸ばしてきた大男、腰にナイフを差した小柄な男、フードを被った顔の見えない女、神父のような格好をした細身の男。

前衛2人と魔法使いと僧侶ってとこかな。


「お前が例の盗賊だな?」


大男が剣を私に向けて言う。

盗賊·····?

あぁ、そう言えば、村の人が私を盗賊だって依頼を出したんだっけ。

もう1ヶ月ぐらい前だけど·····

もしかして、また村の人が依頼したのかな?

私はブンブンと首を振った。


「しらばっくれるなよ?依頼主から盗賊はボロボロの服を着た女の餓鬼だって聞いてんだ。お前のことだろう?」


シグが来た時も思ったんだけど、私は村の人達にはだけで、何も盗んでないから盗賊じゃない·····と思う。

でも、敵はこちらの話を聞く気は無さそうだ。

4人か·····なんとか出来るかな·····?

村の人が4人なら余裕だけど、冒険者4人はちょっと分からない。

と言うか、シグって冒険者の中でどれくらいの強さなんだろう。

シグの強さで下の方なら·····ここは逃げた方が良いよね?

·····逃げ切れるかどうかは別として。

なんて考えていると、小柄な男が近づいてきた。


「お?お嬢ちゃん怖気付いちまったかぁ?」


小柄な男性は·····私に触ろうとしてきた。

危険を感じて、反射的に私は宙返りをするような動きで男性の顎を蹴り上げた。

我ながらクリーンヒット。

私が地面に着地すると、小柄な男性は後ろ向きに派手に倒れた。

なんか·····警戒心が薄かった。

近づいたら攻撃される、なんて考えなかったのかな?

それとも·····小さいから油断した?


「ってめぇ!?」


仲間がやられたのを見て、他の3人が臨戦態勢になった。

流石にもう油断はしてくれないだろう。

まず、大男が先陣を切って、剣を縦横無尽にブンブンと私に奮ってくる。

が、余裕で避けられる。

パワーはあるけど、動きが単調だし、シグに比べたら全然遅い。

大男が大剣を大きく真下に振り下ろしてきたので、隙をついて、剣の鍔に左手をかける。

そして、それを軸に体を回転させ、鼻に蹴りを当てた。

大男は呻いてよろける。

が、細身の男性の回復魔法で直ぐに正常な状態に戻った。


「やってくれたな糞ガキが!!」


そして、再び剣を振り回し始める。

頭に血が登っているのか、先程よりいっそう剣が大ぶりになった。

そのおかげで、何回も大男の急所に攻撃を当てている。

細身の男性にその度に回復されるが、治癒魔法は有限だ。

いつかは切れる。

あ、これ、いけるかも·····

細身の男性も、私が男性と大男を回復させつつオロオロしているだけだし、魔法使いのような女性も、今のところ何もする気配はない。

リーダー格っぽいこの人を倒してしまえば退いてくれるかな?

なんて考えていた時だった。


「·····ちっ·····こうなったら·····やれ!魔法使い!」


大男は魔法使いらしき女性の方を見た。

私も反射的にそちらを振り返るが、その時には女性が何かの魔法を放った後だった。

突然、棘だらけの茨が私の足元から生えてくる。

それは避ける余裕もないスピードで、私の体に巻き付いた。

茨の棘が深々と私の体全体に突き刺さった。


「ーーー!!!」


声の上がらない叫び声をあげ、私は地面に倒れた。

その衝撃で更に茨が肉を抉るように深く突き刺さる。

痛い·····痛いよぉ·····

痛みに悶えている間に、目の端に大男がのっしのっしと近づいてくるのが見えた。

不味い·····逃げないと·····

でも、駄目だ、茨のせいで体が動かない·····!

為す術もなく、大男は私のすぐそばに来た。


「糞·····手間取らせやがってよぉ!」


大男は私の腹部を蹴り上げた。

私は肺の空気と共に胃液を吐き出す。

小さい体は面白いぐらい吹き飛んだ。

そして、吹き飛んだ体は宙を舞って、大木に激突した。

その衝撃で怯んでいるのを回復する暇もなく、次は大剣でお腹を突き刺された。

剣が抜けると同時に体から血が吹き出す。


「おらっ!死ね!死ね!死ねっ!!」


それを大男は何度も何度も繰り返す。

痛すぎて逃げたいのに、体が動かない。

もう私のお腹は血と内臓でぐちゃぐちゃだ。

口から血が溢れてくる。

あ·····私·····死んだな·····

頭に血が回らなくなり、意識が闇に飲まれた。

しかし、


「おい!まだ終わってねぇぞ!起きろ!」


直ぐ様、腹部を剣で貫かれる激痛で覚醒する。

状況を理解する暇もなく、再び剣でめちゃくちゃに突き刺され、悶えると更に茨で肉を抉られる。

ここまでされて死ねないのは、細身の男性が私に回復魔法をかけ続けているかららしい。

小柄な男性は魔法のおかげで完全に回復したらしく、こちらを見てニヤニヤと笑っていた。

まるで生き地獄だ。いっその事殺して欲しいとさえ思ってしまう。

痛ぶられて、気絶して、無理矢理回復されて、痛みで意識が覚醒して、また傷つけられる。

痛いよ·····苦しいよ·····

どうしてこうなった?

私が扉を開けたから?

可笑しいな、前までなら警戒して扉を開ける事なんて無かったのに。

あの場面なら絶対居留守を使ってた筈だ。

·····シグのせいだ。

シグが来てから色々おかしくなった。

シグは私の会ってきた人とちょっと違った。

信頼はしてないけど、私といても、何も酷い事はしてこなかった。

でも·····だからって、この世界が惨い事には変わりないじゃないか。

馬鹿な事をした。本っ当に馬鹿な事をした。

私は何も出来ないまま、延々と痛ぶられ続けた。




·····あれからどれだけ時間が経っただろうか。


「·····飽きたな。」


ふと、大男が呟く。

漸く拷問の様な時間が終わる·····かと思いきや、大男は血塗れの私に馬乗りになった。

大男は私の体を動かないように固定すると、茨の拘束が消える。

そして大男は、私の服を上からゆっくりと裂き始めた。

·····え?

何をされるか分からないけど·····本能的に恐怖を感じた。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

何とか逃げようと思って、大男の腕を噛む。

すると、頭を鷲掴みにされ、ゴン、と硬い石の上にぶつけられた。

そして、また目の前が真っ暗になった。


ーーーーーーーーーーーー


気がつくと私は黄金色の草原の中に立っていた。

空は一面綺麗な青色で、心地良い風が吹いていた。

なんだろうここ·····とっても暖かい。

でも、陽だまりの温もりとは少し違う。

まるで·····お母さんに抱きしめられているようだ。

暫くそこをさ迷っていると、遠くに人影が見えた。

誰·····?

私は警戒しつつ、その人影にゆっくり近づく。

柔らかそうな長い茶髪に、私と同じ翡翠色の瞳·····

見間違えるはずがない。

あれは·····私のお母さんだ·····!

そう確信すると、私の目から大粒の涙が零れた。

私はお母さんに駆け寄る。

ずっとずっと会いたかった!

お母さんが居なくなってからずっと、寂しかったよ、怖かったよ。

もう、あんな世界でひとりぼっちは嫌だよ。

だから、今度こそ、一緒に·····

お母さんはにっこりと笑って私に手を伸ばす。

そして駆け寄る私を·····とん、と、後ろに押した。

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