5話 信頼出来ないからっ!!!

次の日の朝、シグはまだここに居た。

外で、昨日の残りらしいシチューを呑気に食べてた。

私が無意識に布団で寝てなかったら今頃·····今頃·····!

イライラしている私は、シチューを食べるよう勧めてくるシグを無視し、朝の鍛錬に出かけようと思った。

が、また通せんぼされた。

ほんと、何なのもぉ·····っ!

でも、今から日課の走り込みをしに行くのと、絶対また戻ってくる事を伝えると、快く逃がしてくれた。

興味あるから着いてくとか言ってたけど、全力で拒否した。

鍛錬の時間ぐらい、解放してください。

で、山の中を走り出して·····ふと思いついた。

足を止めて、後ろを振り返る。

シグが追ってきている様子は無い。

·····よし、一旦身を潜めよう。

え、ついさっき絶対帰ってくるって言ったって?

·····知らない。自分の身と精神の方が大事!

私は近くの動物の巣穴らしき洞穴に身を隠した。

洞穴の入口は下から背の高い草が伸びてて、上から木々の弦が垂れ下がっている。

いかにも隠れるには持ってこいみたいな場所だ。

こんな場所、余程の事がないと、私でも見つけられないかも。

これはシグ、諦めて帰ってくれるんじゃないかなぁ?

頑張って引きこもるぞ·····ふふふふ·····


·····1時間後·····バレた。

草の隙間から周りを見張ってると、私を探してるらしきシグの姿を捉えた。

と思ったら、シグは迷いなくこちらに向かってきた。

そして、慌てて逃げようとする私に、いつもの通せんぼムーブをしてきた。

もしかしたら、私が気づかなかっただけで、最初から付けられてたとか·····?

くっ·····シグは凄腕のストーカーだって事を忘れてた!

もう、もう、もうっ!

なんでこんなに上手くいかないの!?


と言うのが今朝のハイライト。

私はシグに連行(?)され、渋々自分の家に帰ってきた。

そして暫くふて腐れた後、日課の畑仕事に取り掛かった。

シグは何故か畑仕事を手伝おうとしていたので、手を出すなって伝えた。

万が一、作物を傷つけられたら、たまったものじゃないしね。

雑草と間違えて、作物の苗を引っこ抜かれたらもう·····ね?

シグはやる事がなくなって、私の畑仕事をつまらなさそうに見ている。

私も幼い時、お母さんの畑仕事をなかなか手伝わせて貰えなくて、駄々を捏ねたことがあるからよく分かる。

畑仕事を見てるなんて、さぞ退屈だろう。

帰ってもいいんだよ!

シグのそんな視線を無視して、私は畑の雑草を抜いて、作物の様子を見て肥料を追加して、水をやって、実った野菜を麻袋に詰める。

今日はじゃがいもが大量に取れた。

大きな麻袋に沢山詰め込めるぐらい。

ふふ·····1日でこれだけ採れるなら、今年の冬は乗り越えられそうだ。

前の冬は長く保存出来る野菜が、全然取れなかったせいで大へ·····


「·····なぁ、助けてやろうか?」


シグが唐突にそう尋ねて来た。

助ける·····? あぁ、はいはいはい。

シグは我慢の限界らしい。

私はドヤ顔でメモ帳にペンを走らせた。


『今日の畑仕事は終わりました。』

「あ、いや、そっちじゃねぇよ??」


ん?そっちじゃない?

じゃあどっち?と言うか、何?

意味が分からず、私はシグの方を見て首を傾げた。


「お前さ、何と言うか·····辛くないか?こんな所に追い払われて、そんなちっさいのに1人で生活してて·····あれ、お前、ふもとの村の奴らに嫌がらせを受けてるんじゃねぇのか?だから、こんな辺鄙へんぴな所に住んでるん·····だろ?」


私の反応が悪いので、シグも首を傾げる。

あぁ、そう言う意味の助ける、か·····

まぁ、シグの予想は間違ってはいないけど·····何か勘違いしているみたいだ。

私はこの村が嫌いなんじゃない。

この世界が嫌いで信用出来ないんだ。

そして·····そんな大嫌いな世界の思い通りに殺されるのも嫌なんだ。

別に世界を滅ぼそうなんて考えてない。

単純に、誰とも関わらずに静かに生活できれば良い。

だから、そういう生活が出来てる今は全然辛くない。

どちらかと言うと、誰かがいる方が安心出来ない。

その旨を伝えると、シグは爆笑し始めた。


「ははっ、世界か!また大きく出たな?」


·····なんか、凄く馬鹿にされている様な気がする。

不服そうにする私を無視してシグは続ける。


「お前の言う世界はここだけだろ?お前はまだ何も知らねぇ。俺も、お前ぐらいの歳の時から一人で活動してるが、閉じこもらなくてもこの世界で何とかやれてる。11年生きただけで全部決めつけんのは勿体ないぜ?」


そんな事言ったって·····今まで私の事をなんて、誰も助けてくれなかったよ?

寧ろ、信じさせた挙句、突き放したじゃないか。

貴方のその手だって·····私を傷つけるものかもしれないんだから。

きっと、シグは強いから外でもやっていけてるんだよ。

私じゃあ、外に出たら直ぐにボロボロにされてしまうよ·····


·····でも、外のもっと外に出たらどうなるか·····なんて、全然考えた事無かったな。

そう言えば、お母さんはよく、もっと外の話をしてくれたな。

北の国に夜空を覆うカーテンが現れるとか、西の国に不死の鳥がいるだとか、ダンジョンって言う地下に、空に咲く花畑があるだとか。

お母さんのそういうわくわくする様な話、私、大好きだったなぁ。


「お前さ、俺と冒険者にならないか?良いぜ冒険者!基本何するのも自由だし、金も稼げる!登録証1つで色んな場所にも行けるしな!責任持たなきゃいけねぇのは自分の命だけだ。」


シグは心底楽しそうに語る。

多分、本当にこの人は冒険者と言う職業が好きなのだろう。

依頼を受けながら、世界中を旅して回る。

お母さんの話していた場所にもいけるかもしれない。

楽しそうだけど·····それを他人から提案されているのが怖い。

何か裏があるのかもしれないと思ってしまう。

私はふるふると首を横に振った。


「拒否か·····理由は?」

『貴方が信用出来ないからです。』

「じゃあ、どうしたら信用してくれる?」

『どうしても信用しません。私は私以外信用しません。』

「そうか。なら、一緒に来いとは言わねぇから、一旦ここから離れてみたらどうだ?価値観変わるかもしれないぜ?」


一旦ここを離れてみる·····かぁ·····

これも結局、シグから提案されてるのが癪だけど·····

·····あ、いや、駄目だ。

私は首を振り、メモ帳に文字を書く。


『ここはお母様と暮らした場所だから、出ていきたくないです。』

「あー·····そういう事か。それでまだ離れたくないと。」


シグは妙に納得したような顔をした。

ここは私にとって唯一の居場所だから。

ここにはお母さんとの沢山の思い出が詰まってる。

それを、そう簡単には置いていけないよね。

それに·····私が居なくなったら、この場所が、村の人達に何かされる·····かもしれない。

もっと外に居場所が無かったとして、戻ってきたらここも住めないようになっていた。

もしそうなったら、私はどこに行けば良いのだろう。


「お前、本当に母親の事大好きなんだな。」


シグの言葉に私は大きく頷く。

暖かくて、優しくて、私の事をいつも大事にしてくれた私のお母さん。

お母さんだけが私の唯一の味方だった。

もう居ないんだけど·····ね·····

感傷に浸っていると、シグが私の頭を撫でようとしたので、手を払った。

本当、気を抜く隙が無い!


「·····いつかお前に、お前の母親ぐらい信頼出来る誰かが出来たら良いな。」

『必要ありません。』

「そうか。」


そう返したシグの顔は、さっきより柔らかいように感じた。

この人と1日と少し、一緒に居たけど·····なんだか、本当に悪い人ではなさそうなんだよね。

···············い·····いやいやいやぁ!?!?

びっくりしたぁ!怖い!危ない!

ふっつーにお母さんの話とかしてた!

駄目だって、簡単に信頼したら!

私、それでどれだけ痛い目を見たのか分かってる!?

馬鹿馬鹿馬鹿!

そもそも、シグだけでやって行けるのに、シグより弱い私を仲間に誘う必要ある!?

無いよね!?じゃあ罠じゃん!!


「あ、そうそう。言っとが俺は、今現在お前から信頼されてなくても、スカウト出来るまで諦める気ねぇからな?」


もぉ、そんな事まで言ってくる!

お母さんが言ってた!

この人は人垂らしってやつだな!

危ない!とっても危ない!!

とっとと諦めて帰ってください!!

勘弁してください!!!




それから1ヶ月ぐらい同じ様な生活を送っていた。

シグのせいで私の日常はだいぶ騒がしくなった。

けど、私の態度は一貫して変わらない。

シグが触ろうとしたら叩いてるし、信頼しているような態度もとってない。

自分、偉い。すっごく偉い。

初期に貰ったメモ帳は色々話しすぎて、もうそろそろ終わりに近づきかけている。

結構分厚かったんだけどね。

シグも無くなりかけているのに気づいているようで、無くなったら2冊目をやるとか言ってきた。

いらない、って言っても無理矢理押し付けられそうだなぁ。

そもそも、最初にメモ帳とペンを受け取ったのだって、少々話をするだけだと思って受け取ったんだからね。

こんなに長くいるなら受け取らなかったからね!?

まぁ、とにかく、2冊目に入る前に、そろそろ飽きてどこかに行ってくれないかな〜って思っていた、その矢先だった。


「俺、ちょっと野暮用で山から降りるわ。3日ぐらいしたらまた戻ってくるだろうけど。」


シグからの事務的な連絡を聞いて、はいそうですかと無関心そうに反応し、家に入って扉を閉める。

そして·····力いっぱいガッツポーズをした。

よっしゃあぁぁぁ!!!三連休だぁぁぁ!!!

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