4話 ヤバい人は馴れ馴れしい
シグとかって名前の冒険者から逃げたはずなのに、逃げた先にその冒険者が居た!
なんで!?なんでだ!!?
「お前が逃げるから先回りしようと思って。で、こんなあからさまな場所を見つけたから、あぁ、ここに来るんだろうな、と。」
冒険者は私の思考を読んだかのように答えた。
先回り!?何それ!?私、全力で走ったよ!?
えぇ·····怖い怖い怖い!
怖いと言うか·····気持ち悪い!
あ、これ、お母さんから教えて貰った事ある。
この人、ストーカーって奴だ!怖い人だ!
私は慌てて家から出た。
でも、また先回りされて進行方向を塞がれる。
どの方向に逃げようとしても同じだ。
私はへなへなと座り込んだ。
「お、ようやく諦めたか?」
冒険者は座り込んだ私と向かい合う位置にしゃがみこむ。
ついでに頭を撫でようとしてきたので、私はその手を払ってやった。
と、とりあえず、会話を·····会話を試みよう·····
まず、下手に出て、帰ってくださいって伝えてみよう。
私は地面に木の枝で文字を書く。
『冒険者さん、急に襲ってごめんなさい。反省しています。帰って下さい。』
「冒険者さんじゃなくてシグって呼べ。あと、断る。」
冒け·····シグは即答した。
ですよね!!!
私が散々逃げようとしたのに、しつこく追いかけてきたもんね!
これで、はいそうですかって帰るわけないよね!?
私が馬鹿だった!
よ、よし、方向性を変えてみよう。
次は、脅してみよう。
『殺しますよ。』
「お前にはまだ無理。」
·····はい、ド正論。ド正論です。貴方は正しい。
勝てない人をどうやって殺すと??
シグの返答に、反射的に近くにあった尖った石を投擲したが、また軽く避けられてしまった。
うん、知ってた。
自己紹介遮った時も余裕そうに避けられたし。
「だから、無理だって。そんな警戒すんなよ。もうあの依頼蹴ったし、お前を捕まる気はさらさらねぇよ。単に俺がお前に興味あるから話聞きたいだけ。OK?」
何を言っても流されてしまう。
·····諦めた。仕方ない。
捕まえる気は無い、とか、話を聞きたいだけ、なんて微塵も信用してないけど、この人が強くて私が弱い。
これは揺るぎようが無い事実だ。
そして弱者は搾取される存在だ。
だから、何をされてもどうしようも無い。
「よしよし、漸く話す気になったか·····お前、名前は?」
『キャルロットです』
「キャルロットか、
それは
まぁ、でも、実際私の名前はそこから取ってきたってお母さんが教えてくれた。
私の橙色の髪と緑色の瞳は、人参と色合いが似てるから。
「歳は·····10ぐらいか?」
『11歳です。』
「だよなぁ、エルフだの吸血鬼みたく100歳の餓鬼とかそう言うオチじゃないよなぁ·····なんでお前、餓鬼の癖にそんなに強いんだ?」
『毎日鍛錬してるからです。』
「へぇ、じゃあ努力の賜物か。じゃあ何だ?将来は騎士とか傭兵になろうとか思ってんのか?」
『鍛錬してるのは強くないと生きていけないからです。』
そう書くと、シグの表情が固まった。
·····逆に、本当に傭兵になりたいとかそんな理由で強くなったって思っていたのだろうか。
私に味方はいない。強くないと奪われる。
私の8歳の時に見つけた、現実。
冒険者はこの世界は優しいだの、もっと大人を頼れだの、何か偽善じみた事を言うのかと思いきや、そうか、と素っ気なく返した。
「あと、さっきから気になってたんだが·····お前声が出ないのか?それとも単純に俺と喋りたくないだけなのか?」
『声が出ない方の喋れないです。』
まぁ、仮に声が普通に出てたとしても、帰れアピールで同じ様な事をしてたかもしれないけど。
「そうか·····成程。だから、11歳の癖にこんなに文字が書けるのな。そうしなきゃコミュニケーション取れないもんな。でも、すげぇな、この辺りの平民で、文字書ける奴はそう居ないぜ?」
·····色々ツッコミたいことはあるけど無視した。
今日会ったばかりの人に話せる事じゃない。
と言うか、話したくない。
私はコクリと頷いておいた。
「因みに、地面に文字を書くのは不便じゃないのか?紙とかペンの方が使いやすくないか?」
·····確かにそうだ。
そう言えば、声が出なくなってから私、どうやって会話してたっけ?
·····あぁ、違う。
会話した事、無かったんだ。
声が出なくなってから今まで、こうやって誰かと話した事なんて無かった。
まぁ、会話する必要がなかったしね。
『紙もペンも持ってないです。』
「あー·····そうか、お前、金とか殆ど持ってねぇみたいだし、買えるわけないよな·····じゃあやるよ。」
冒険者は背負っているリュックから、メモ帳と黒いペンを私に差し出した。
私はブンブンと首を横に振ったけど、
「いいから使え。と言うか、使ってくれ。地面に文字書かれたら読みにくいんだよ。」
と言われ、それを渋々使う事にした。
「つか、そもそも文字は誰に終わったんだ?」
『文字はお母様が教えてくれました。』
「あぁ、母親が文字を知ってたんだな·····その母親はこんな所にお前を置いて何処に·····」
シグの台詞の途中で私はブンブンと首を横に振った。
·····本当に、私を置いて何処かに行ってるだけならどれだけ良かったか。
寧ろ悲しすぎて、そんな風に思い込みたかったんだけど、血まみれのお母さんの姿が記憶にこびりついて消えなかったから、現実をそのまま受け入れるしか無かった。
「やっぱそうか·····悪いこと聞いたな。」
シグはまた素っ気なく返した。
そこから延々と、鍛錬はどんな事やってるんだとか、普段どんな生活を送ってるんだとか、そもそも世間の事どれだけ知ってるんだとか、色々聞いてきたから、仕方なく答えられる事は答えてあげた。
過去についても聞かれたが、何も話してない。
声の事と同じで、そう言う事を話したくない。
シグもそれを察してくれたのか、話さなくて良いと言ってくれた。
それにしても、こんなに私にとやかく色々聞いて、一体何のつもりなんだろう?
日が沈みかけていた。
そろそろ帰ってくれるだろう。
と、考えた私が甘かった。
シグは何か·····枝とか薪みたいな木材を集め始めた。
あ、この人ここに居座る気だ。
シグは木々を集め、慣れた手つきで木々を組み合わせる。
完成すると、薪に勝手に火がついた。
シグは魔法も使えるらしい。
なんか·····ずるいな。
私なんか魔法が使えないから、火を使うために火打ち石を使わなきゃいけないのに。
そもそも、魔法無しでもあれだけ強いのに、更に魔法も使えるとか·····
村の人とかを追い払えるようになって、そこそこ強くなったと思ってたけど·····私って、まだまだなんだな·····
溜息をつきたくなった。
火の用意が出来ると、シグはリュックから、そのサイズに収まりきらなそうな大きさの作業台やら、金属の鍋やら、包丁やらと、料理に用いる道具を取りだした。
·····多分、あのリュック、マジックバックってやつだ。
お母さんが教えてくれた事がある。
空間魔法って言うのがかかってて、リュックの中にリュックの大きさ以上の空間が広がってるんだって。
だから、見た目入らなさそうな大きさの物も収納出来るんだって。
あ、次は食材がリュックから出てきた。
じゃがいも、ブロッコリー、人参、お肉、キノコ·····
私がじーっと見ていると、冒険者は視線に気づいたのか、ふと、こちらを向いた。
「今から晩メシを作るんだが、お前も喰うか?」
『何が入ってるか分からないから要らないです。』
そう書いたメモ帳を冒険者に投げる。
他人が作ったものを口に入れたくない。
声を奪われる様な毒が入ってるかもしれない。
シグはそれを受け取って読むと、
「何入ってるか分からないって·····別に変な物なんて入れねぇよ。そんなに警戒するなら·····一緒に作るか?」
と言って私にメモ帳を投げ返した。
私は、ふん、と顔を背けて小走りで家の中に戻った。
私は美味しいりんごを齧っとくからいいもん。
ここに台所があれば私だって、ちゃんとした料理が作れるもん。
シグは家の中まで追ってこなかった。
·····暫くすると外からいい匂いがしてきた。
これは·····シチューの匂いだ!
お母さんがよく作ってくれた、温かくて、野菜がいっぱい入ってて、その旨みがギューッと白いソースに詰まった美味しいやつ。
やっぱりそうか!
具材を見た時からもしかして·····って思ってたんだよね。
私はチラリと扉を開ける。
視線の先で·····シグがニヤニヤしてこちらを見ていた。
私はパタンと扉を閉めた。
·····罠だ·····これは罠だ!
美味しそうな料理に私が吊られるのを待ってる作戦だ!
きっと何か酷い事を企んでいるに違いない!
毛皮にくるまって、私は知らんぷりをした。
火が消えたのか、外がいつもの様に暗く、静かになる。
私は家の扉を少し開け、シグの様子を伺った。
シグは、木陰で薄い毛布を被ってすやすやと寝ていた。
こんな呑気に寝ていられるなんて、私に寝首をかかれるかもしれない、とは考えないんだ。
·····いや、違う。
かかれたとしても、対応できると思ってるんだ。
このぉ·····舐めるんじゃないぞ!
シグは警戒心0で眠っている·····ように見えるが、油断は禁物だ。
もう少し様子を見る。
私の生活に介入してくるのが悪いんだ。
お望み通り、寝首をかいてやる·····!
·····気づいたら朝だった。
うわぁぁぁ!!寝落ちしたぁぁぁ!!!
しかも無意識に普通に寝床で眠っていたらしい。
シグに付きまとわれてた事での疲れのせいか!?
私の馬鹿ぁぁぁ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます