1章 捨てられ少女と冒険者
3話 ヤバそうな人と遭遇しました
ラインドール公爵に捨てられて3年が経った。
私、キャルロットは現在11歳だ。
あれからずっと、お母さんと過ごした山の中にいる。
基本的に自分で1から耕した畑と、山で取れる木の実、それと山に出る動物の肉とで生活している。
畑については、家は取り壊されていたものの、畑仕事に必要な道具や肥料、種が保存してあった地下の倉は残っていたため、何とか作物を育てることが出来た。
雨風を凌ぐ家も、木々を組み合わせただけだけど、ハリボテの小屋を作った。
ほぼ0からのスタートだったけど、今はお母さんと過ごした日々と余り変わらない生活を送れている。
変わった事があるとするなら·····お母さんとの勉強の時間が鍛錬とかパトロールの時間になった事だろうか。
強くなきゃ生きていけない。
そう分かったからか、魔法·····はまだてんでダメだけど、武術はあれからものすごい勢いで習得した。
お母様に教えて貰ったものは一通りマスターした·····と思う。
並行して体力作りもし始めた。
毎朝早く起きて、山の中を駆け回ってる。
そのおかげか、昔より長い時間畑仕事が出来るようになった。
筋力も付いたようで、試しにその辺に生えている木を思い切り蹴ってみたら、倒せるようになった。
流石に大木みたいなのは無理だけど。
あと、パトロールについては、ここに住み始めて最初の方は、よく近くの村の人が憂さ晴らしに棍棒とかで殴りに来てたから、それに備えるために行ってる。
ちょっとでも早く見つけたら逃げたり出来るから。
でも、最近は武術が身について、体力も付いてきたので、来た人を迎え撃ってる。
誰かが山の中に入り、私の生活を踏み荒らそうとするなら、全員痛い目に合わせてやった。
私だって傷つきたくないし、何も奪われたくない。
だから、痛い目に合わせるのは仕方がない事だ。
そのおかげか、ある時を境に人が山に来るのがぱったりと止んだ。
そんな訳で、ここ最近は誰にも傷つけられない、他人に怯えることも無い、平穏な暮らしを続ける事が出来ていた。
そんなある日の事だった。
パトロールと鍛錬がてら山の中を走っていると、二つの人影を発見した。
1人は村の人だ。
·····確か、よく私の生活を邪魔しにやってくる人。
かなりの頻度で追い返している気がするんだけど、懲りないなぁ。
「この山に盗賊が·····」
そして、村の人が話しかけているのは、黒を基調とした、この辺じゃ見かけない服装の男性だった。
いや、それ以前に、紺色の髪と金色の瞳って言うのも見かけないな。
この辺は金髪で青い眼の人が多いし·····色合い的に北とか東の方の国の出身なのだろうか。
あと、腰には·····なんて言うんだっけ。
·····あぁ、思い出した。
刀、そう、刀が刺してあった。
この辺りの騎士とか傭兵とかかと思ったけど、あの人達は剣を使うのが主流だからなぁ·····
あ、そう言えば、何か依頼があると、派遣されてくる人達がいるんだっけ。
確か·····冒険者とか·····なんとか·····
話を内容を聞くに、村の人が、私を捕まえる依頼をギルドとか言う場所に出したみたいだ。
で、この冒険者の人が来たと。
なら、容赦はしない。
痛い目に合わせる。
私は両手に石を削って出来たナイフを構えた。
こういう時は雑魚から倒すのが基本。
木陰で息を潜め、ジリジリと近づき·····襲う!
冒険者の人がこちらから顔を反らせた瞬間、木陰から飛び上がり、村の人の顔をめがけてナイフを振りかざす。
しかし·····冒険者が村の人の前に出て、庇われてしまった。
嘘、あれだけ気をつけたのに!
キィンと、ナイフと刀のぶつかる音が響く。
「ひぃっ·····!」
「っ·····子供!?」
町の人は腰を抜かし、冒険者の男性は私を見て目を見開いた。
バキリ、と、石のナイフが壊れてしまった。
あっちの武器の方が性能が良いから仕方ない。
私は一旦、2人と距離をとる。
「·····おい、お前が言ってた盗賊ってのはあの餓鬼か?」
「えぇそうです!アイツです!」
村の人は怯えた様に、冒険者の後ろに隠れる。
·····あの人は後ろに隠れようとしたら、逃げるための囮として、冒険者の人に斬られるかもしれない、なんて考えた事無いんだろうな。
冒険者の方も、同じ理由で後ろから刺されるかもしれない、なんて思った事も無いのだろう。
まぁ、とにかく、冒険者の男性を何とかしないと、例の村の人には手が出せなくなってしまった。
武器が壊れたし·····体術で行くしかないか。
私は壊れた石のナイフを投げ捨てると、再び冒険者の男性と距離を詰めた。
顎や鳩尾等、急所を狙って殴打や足技を仕掛けるが、軽くいなされる。
それだけじゃなく、いなした動きで次は刀を振り下ろして来る。
でも、見切れる速さなので、こちらもいなしたり避けたりする。
そして、その動きの流れのまま、次の殴打を繰り出す。
·····この説明だけじゃ互角って感じだけど、違う。
私は本気、あっちは余裕綽々なのだ。
しかも何か私を見てニヤニヤしてる!怖い!
と言うか、隙あらば腕掴もうとしてくる!何で!?
こっちも隙をついて村の人を狙おうとしても、読んでましたと言わんばかりに直ぐ庇われる!
持久戦になるなら·····いや、ならなくても間違いなく私は負ける。
十中八九勝てない。
·····一旦引く?
いやでも、この人達私の家の方に向かってるし·····
と言うか、私を捕まえにきたんだし。
どうする?何か、何か策は·····
「集中切れたな?足元がお留守だぜ!?」
私が考えを巡らせている最中に、冒険者にトン、と足を払われる。
しまった·····!
11歳の少女である私の体は軽い。
その一撃で、私はあっさりバランスを崩した。
突然の事で受身も取れず、地面にうつ伏せに倒れる。
立ち上がる間もなく、背後から冒険者に腕を背に押さえつけられた。
顔から血の気がさぁっと引いた。
あぁ、終わりだ·····やられた。
今から私、殴られて、蹴られて、ボロボロにされるんだ·····
私が震えながらそう考えているのをお構い無しに、冒険者は·····ニヤリと笑った。
「お前·····すげぇわ。本当に餓鬼か?」
その言葉は素直に賞賛しているように聞こえた。
予想外の発言に、私は唖然として冒険者を見上げた。
「パワーもスピードも観察眼も、その辺のちょっと強くて天狗になってる冒険者より高いぞ?ソロでA·····は微妙だがBは余裕だろ。そのよく分からん体術もかなり実用性が高い。まぁ、形にはめ過ぎてお上品すぎる気もするが、そこは経験不足か。身のこなしも軽くて良い。勘も悪くねぇ。よく俺の斬撃をあんだけ避けられるもんだ。俺じゃなく最初にこっち狙った時点で頭も使える。しかもちゃんと息を潜めて俺の死角から来た。武器さえもっとマトモなもん持ってれば、魔法使わない縛りの俺と普通に戦えるレベルだ。まぁ、それでも俺の負ける要素はないが·····充分だ。」
何か興奮して凄い勢いで喋ってるけど·····この人、私を捕まえに来たんだよね·····?
村の人からの依頼でどうのこうのって言ってたし。
それに、充分って·····何の事?
「後でお前とゆっくり話がしたい。どこで落ち会える?」
これだけベラベラ喋ったのに、まだ何か話すつもりなのだろうか。
と言うか·····え?落ち合うって·····
2回目だけど、私を捕まえに来たんじゃないの·····?
この状況が分からず混乱していると、村の人が痺れを切らして声を張り上げた。
「何を呑気な事を言ってる!?ソイツは盗賊だぞ!?依頼通り早く始末し·····」
「盗賊じゃないだろ。盗んでるにしては身なりがひどい。あと、武器がこんなだ。金持ってりゃもう少しマトモなもん持ってる·····別に俺はこの依頼について、ギルド本部に審議をかけていいんだぜ?こいつを見たら、ギルド本部のお偉いさん達も同意見だろうよ。お前らは二度とギルドに依頼を出せなくなるだろうな?」
しかし、冒険者がそう
あ、この人、私が盗賊じゃないって気づいてたんだ。
あれ·····じゃあなんで戦ったんだろ?
あれ·····もしかして·····私が出てきたから?
いや、でも、普通に私の家に向かってたよね·····?
盗賊退治する気満々だったよね·····?
と、取り敢えず町の人が居なくなったのは良いんけど·····どうしよう。
目の前で起こったことに理解が全然追いついてない。
「よし、あの
そう言うと冒険者はあっさり私の拘束を解いた。
私はすぐ様立ち上がって、警戒して距離を取る。
冒険者はそんな私に手を差し出した。
「俺はシグ・ヴェール、よろ·····」
足元に転がってる硬そうな石を冒険者に向かって投げ、最後まで自己紹介を聞かずに私は逃げた。
視界に捉えた範囲だと·····石はサラッと避けられて冒険者に当たってない。
当たってはないけど、気は逸らせた·····筈だ!
我武者羅に家の方に向かって森の中を駆ける。
何何何何!?何あの人?何怖い!
私が会ってきた人と対応が違う!!
何考えて行動してるの!?
気を抜くと追い付かれるだろうから、全力で走って走って走って·····
そして、家に戻って扉を閉めた。
この山はそこそこ険しい。
ガイド無しでここを見つけるのは簡単じゃないはずだ。
よし、これで一安し·····
「なぁ、流石に酷いんじゃないか?話ぐらい聞いてけよ。因みにこのボロ屋、もしかしてお前が建てたのか?」
腰が抜けた。
·····何で私より先に家の中にいる??
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