8話 どいつもこいつも屑ばかり(シグ視点)

クォエラの町。

ラインドール公爵の家がある事もあり、この公爵領では最も栄えている町だ。

ただ、何となくピリピリしてると言うか·····

全体的にフレンドリーな印象のあるモドラの町に慣れてしまっているからだろうか。

あと、建物もモドラの町より質素な感じだ。

古びた木造の建物が多い。

それが味がある·····って言われたらそれまでだが。

だから白色で豪勢な公爵邸が町の中で目立った。


まぁ、取り敢えず情報収集開始。

適当な店とかでアイツの名前を出したら、真偽は定かではないが、面白い程情報が落ちた。

ゼーレのオッサンの情報と総合するとこんな感じになった。

アイツのフルネームはキャルロット・ラインドール。

ここの領主であるラインドール公爵と、その従者の間の子らしい。

つまり、って事だ。

ラインドール公爵は従者とその子供、つまりキャルロットの母親とキャルロットの存在を隠すために、2人を例の山に連行したらしい。

しかし、実子の教育が上手くいかなかったらしく、数年後にキャルロットを再び公爵家に戻したそうだ。

この時、引き取られたのはキャルロットだけだというのだから、多分、このいざこざで母親は死んだのだろう。

キャルロットは無理矢理連れてこられた経緯を知っているのだろうか。

知ってたら·····酷いな。

そんなしょうもない理由で、アイツにとって大切な母親が死んだんだから。

まぁ、そんなこんなで平民から貴族に成り上がったキャルロットは、公爵令嬢としての教育を受けることになった。

よくよく考えたら、アイツ、平民にしては日常動作が上品だったよな。

筆談も敬語だし、ドアを閉める時に絶対手を添えるし、歩き方もこう……スラッとしてるし。

でも、公爵邸では出来はいまいちだったらしい。

あれで駄目って·····貴族ってそんな高等教育受けてるんだな。

·····もしかしたら、母親を殺されて誘拐された様なもんだし、やる気が起きなかったのかもな。

ただ、それを餌に、公爵夫人やその子供、成り上がりが気に食わない殆どの従者から嫌がらせを受け、精神的に参ってしまったそうだ。

そして、3年ぐらい前にこの町に捨てられた。

なんか、出来ないと言う風評に加えて、精神的な疲弊から幻覚が見えていたのがトドメだったらしい。


「あぁ、捨てられたラインドール公爵の子供ねぇ·····あの子が捨てられた時の事は未だに覚えてるよ。」


最後に立ち寄ったレストランで、店長の婆さんが愉快そうに話す。


「ソイツに会ったことあるのか?」

「あぁ、こう見えても医学の知識があってね。公爵様は従者の病を専属医で治そうとしないから、私が従者担当の医者として、公爵邸に足を運んでいたのさ。にしても·····毒を飲んだ時の、あの子のあの顔ったらなかったねぇ·····」

「毒·····?」

「なんだ、婆さんまたあの話をしてんのか?」


レストランの酔っ払った客達がゲラゲラと笑って尋ねる。

ゼーレのオッサンからの情報には、毒がどうのこうのって言うものは無かったが·····この辺りでは周知の事なのか·····?

婆さんは話を続ける。


「たまたま、捨てられて直ぐのあの子に会えてね。あの子、自分の立場も知らないで、ちょっと優しくしたらコロッと信頼してねぇ。·····私の夫は公爵様の重税で、過労になって死んだのさ。これなら、夫の復讐が出来るかもしれないって思って、あの子の飲み物に喉を焼く毒を混ぜたのさ。」


·····俺は他人事を装う為にポーカーフェイスを貫く。

落ち着け。

こんな所で喚いても意味は無いだろ。


「結果、何も疑わずに毒を飲んで、そこの床でのたうち回ってたよ。あの絶望しきった顔を見たらスカッとしたねぇ。」


糞野郎婆さんは悪魔のように笑った。

でも·····そうか、毒か。

生まれつきじゃなくて、それのせいでキャルロットは声が出せなくなったのか。

だから、か。


「その後、皆でその貴族の餓鬼をボコボコにしてな?いやぁ、本当にスカッとしたぜ!」

「婆さんの毒のせいで悲鳴が上がらないのだけ残念だったけどな!」

「そういや、あの餓鬼、どこ行ったんだろうな?」

「その辺での垂れ死んだんじゃねぇの?」


レストランに寄り付く輩の下品な笑い声を聞いて、

お前ら全員ここで殺してやろうか?ぐらいには思った。

冒険者の掟上、一般市民には手出しできねぇけど。

·····なんだよ。

目の前で大好きな母親を殺されて?

貴族の家で暴言と暴力を浴びながら孤立して?

挙句の果てに外でも同じ様な扱いを受けて?

·····そりゃ誰も信用しなくなるわ。

あれだけ他人を突き放すのも当然だ。

特に一度心を許した存在に裏切られれば、心に大きな傷を残す。


アイツの事を知りたかったとは言え、こんな町に来るんじゃなかった、と、後悔した。

最低な気分だわ。

まぁ、でも·····決心は着いた。

何年かかっても、アイツをこの地獄から連れ出す。

環境が悪かったんだ。

アイツはもっと餓鬼らしく笑っとくべきだ。


さて、アイツのとこに帰るか。


ーーーーーーーーーーーーーーー


血まみれの地面。

意地の悪い笑みを浮かべる冒険者クソ共と、羽交い締めにされ、頭から血を流すキャルロット。

その光景を見て、1周周って笑いそうになった。

·····なぁ、何だよこれ??

あんな過去があった上で、まだコイツをこんな目に合わせるのか?

コイツは前世で余程悪い事でもしたのか?


俺はとりあえず馬鹿共を制止させる為に、キャルロットを押さえつけている男に刀を投げた。

鼻先をかすった程度で済んだのは、ギリギリ俺の理性が効いたからだぞ?

急に武器が飛び込んで来た事から、4人は俺の方を向いた。


「邪魔して悪いな。ソイツ、俺のツレなんだ。乱暴は止めてくれないか?」


落ち着け。冷静に、冷静にだ。

何処の馬の骨か分からねぇ奴らが、目の前で俺のお気に入りをボロッボロにしてるが大丈夫だ。

俺は高ランクの冒険者だぞ?

感情を抑えるなんて余裕だろ。

大丈夫だ、いける。

何より、現在進行中で腸煮えくり返ってる俺が、感情むき出しで戦えば·····アイツの大事な居場所が吹っ飛ぶ。


「なんだ兄ちゃん知らねぇのか。この辺に盗賊出たんで退治しろって依頼が出たんだよ。」

「·····あぁ、ダブルブッキングか。ここには盗賊はいなかった。ソイツは無関係。それで、終わりだ。」


俺は冷静に説き伏せようとしたが、大男は気に食わなかったらしく、不満そうに言い返してきた。


「でも、依頼主はみすぼらしい格好をした10歳ぐらいの女の餓鬼だって言ってたぜ?それは、コイツ間違いねぇよな?で、犯罪者だから、もう希望が持てないぐらい痛ぶってくれって依頼だ。なら、何したって問題ねぇよな?」

「·····そいつが例え、本当に何もしてなくてもか?」

「そう言う依頼だ。言うまでもねぇよ、なぁ?」


大男に同意を求められ、他のパーティメンバーはニヤニヤと笑って返す。

あぁ、金が貰えて、更に自分達が優越感に浸れればそれで良いってタイプか。

プツリ、と、堪忍袋の緒が切れた。


「·····馬鹿に雇われた奴もまた馬鹿ってことか。」

「あ?」


俺は威嚇をしてきた大男·····では無く、怪しげな詠唱をしている魔法使いの頭上へと雷を落とした。

あの女が、俺の様子が変わった事にいち早く気づいた。

まず殺すならコイツだろう。

雷に打たれ、魔法使いは黒焦げになった。

言うまでもなく即死だな。

残りのパーティメンバーは唖然としてそれを見ていた。

·····誰も動かないか。

もしかして、無詠唱かつ予備動作無しの魔法を初めて見たか?

それとも、俺の正体がバレたか?

理由は何でもいいが、この反応を見るに、厄介そうなのはあの魔法使いだけだったらしい。

まぁ、問題ないか。

どうせコイツら全員ここで死ぬんだから。


「俺の言う事を素直に聞かないお前らが悪いんだ·····どうなっても文句は言うなよ!」


もう我慢も限界だ。お前ら冒険者だろ?

いつでも死ぬ覚悟は出来てるよな?

その上で俺のお気に入りのコイツを、こんな目に合わせたんだよな?

上等じゃねぇか。全員ぶっ殺してやる。


「ひ·····ひぃぃぃ!化け物ぉぉ!!」


小柄な男が奇声を上げて俺に襲いかかってくる。

化け物だって?

こんな餓鬼にこんな事出来るお前らの方が、よっぽど化け物だろ。

俺は小柄な男にも雷を落としてやる。

魔法使いと同様にソイツも黒焦げになった。


「その雷の魔法と刀·····おっ·····お前、まさか·····ら·····」

「遅せぇ。」


続いて俺は、震えながら大剣を構えた大男に雷を落とした。

為す術なく、大男も黒焦げになり、キャルロットの横に倒れる。

変にキャルロットを人質にしなくて良かったな?

そんな事をしてたら、一瞬の死じゃ済まなかったぜ?

·····いや、そこまで頭が回らなかっただけか。

残ったのは細身の僧侶だけだ。

俺は僧侶に近づき、腰の抜けている僧侶を見下ろした。


「ひっ·····ひぇっ·····」

「おい、アイツ、治せ。」


俺は少女を指さす。

俺は治癒魔法·····と言うか、雷以外の魔法は使えない。

アイツが喋れないのと同じ、他の魔法を使いたくても出来ないってやつだ。

だから、アイツを回復して貰うためには、非常に不本意だが、この僧侶を使うしかない。

しかし、僧侶は震えているだけで何もしない。

痺れを切らした俺は、僧侶の胸ぐらをつかんだ。


「治せっつってんだろ殺すぞ!」

「は、はいぃぃぃ!!」


漸く僧侶はあたふたとキャルロットに駆け寄って、回復魔法をかけ始めた。

回復魔法で傷口が塞がっていく。

·····良かった。

治るって事は、まだ死んでないって事だ。


「な、治しましたよ!?治しましたから殺さ·····」


台詞の途中で雷を落とした。

知らん、治したら殺さないなんて一言も言ってない。

お前もアイツが苦しんでるのを見て、楽しんでただろうが。

寧ろ、苦しまず一瞬で死なせてもらえて感謝して欲しいぐらいだ。


よし、これで片付いたな。

俺は黒焦げの4人を運びやすいように縄で縛った。

流石にこのまま放置っていうのはちょっと·····な。

後で熊にでも食わせようか。

·····って、流石に炭は食わねぇか。

知らねぇけど。

そして、俺は漸く地面に転がって気絶しているキャルロットに目をやった。

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