第115話-2

 しかし、それは表向きの話。ガラドリアル家には、王家より罰則が下ったらしい。



「傷心の当主は心を病み、親族に爵位を譲り引退。母親も嘆き悲しんでいるため、二人は田舎に引きこもることになった…てことで、現当主夫婦は僻地へ飛ばされる。実質蟄居となり、今後一切政はおろか、一族の運営にも関わることは許されない」



 爵位を譲る相手も、思想的に無難と判断された傍流の若者らしい。その他、現当主と一緒となり画策していた面々もまた、それぞれの家督を子供に譲ることを余儀なくされたという。

 この条件を飲む代わりに、ガラドリアル家はフルールからの除外は免れた。しかし、実質フルール五家における発言権はかなり低くなり、当面の間は苦渋を強いられることが多い事だろう。

 王太子や王子の婚約者を暗殺しようとした割には処分が甘い、と他人事のように考えていると、それがわかったのかランティスが苦く笑う。



「悪いが、これで堪えてくれ」



 一拍置いて、ルーヴァベルトは頷いた。

 堪えるも何も、今自分にとって不満などない。エヴァラントは元に戻り、ばあやは部屋で転寝をしている。堪えるものなど何もないけれど、と声に出さず独りごちた。



「下手にあの家を取り潰すと、同じ思想を持った奴らが黙っちゃいないからな…これが、精一杯なんだ。本当なら俺も、徹底的にやれりゃよかったんだが…」



 望み通りに、と呟き、視線を宙へ向ける。何かを探すように彷徨う視線は、やがて静かに床へと落ちた。

 何か言うべきか、と言葉を探すルーヴァベルトは、結局「そうですか」としか言えなかった。

 ぶっきらぼうな物言いに、ランティスは薄く笑みを浮かべた。両目の下にはくっきりと黒い隈が刻まれており、吐く息は全てため息に変わる。

 痛々しい、とそう感じた。

 けれど、ルーヴァベルトは口を噤む。安易な発言は、全て相手を傷つける気がして。

 硬い表情のまま瞳を揺らしたルーヴァベルトに気付かず、ランティスは俯いたままだ。



「お前が助けた…マリーウェザーだが、お前と一緒に攫われ、お前を庇って気絶していたため無関係、ということになっている」



 その言葉に驚き、首を傾げた。



「え、いいんですか?」



 素直に疑問を口にすると、じろりランティスが剣呑な視線を向ける。



「…お前が助けようとしたんだろ」


「あー…助けようとしたっていうか、あの場に放置していって済し崩しに捕まるよりは、連れ帰ってちゃんと裁いて貰おうかな…という思い付きというか」


「何だそれは」


「多分、私もいろいろあって頭がこんがらがってたんじゃないですかね」



 他人事のように肩を竦めると、眉を顰めたランティスがこめかみを押さえた。痛むところを揉むように指を動かし、息を吐く。



「助けようとしたわけじゃないのか」


「助けられたらいいとは思いました。マリーは友達ですし。でも、内情を良く知らない私が判断することじゃないので、実際どうするかはそちらの決定に従います」


「…友達、か」



 頭を抱える様に額を押さえたランティスは、やがて顔を上げ立ち上がる。覇気のない視線をルーヴァベルトに向けると、力なく口元へ笑みを浮かべて見せた。



「どちらにせよ、あれにどう罰を与えるかは、悩んでいたのだ。攫われたお前が許すのであれば、結果としてこれでいいだろう」


「私は構いません」


「まるで他人事だな」



 ふんと鼻を鳴らし、扉へ向かって歩き出した。



「夜分に邪魔をした。もう休め」



 振り返りもせずそう告げたランティスは、開けた扉の向こうに立つメイドには目もくれず、さっさと部屋を後にした。慌てて頭を垂れたミモザは、ちらと気遣わしげに部屋の主の様子を伺う。別段乱れた様子もない寝床に、ほっと緊張の糸を緩めた。

 先程まで赤髪の来訪者が座っていた辺りをじいと睨めつけたルーヴァベルトは、思案気に口元を押さえ、やがて何かを決意するように唇を引き結んだ。

  

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