第61話-2
「何ていうか…あいつは、もっとこう、ボン! キュッ! ボン! て感じの、抱き心地よさそうな、派手目の美人を連れてくると思ったんだけど」
まるでルーヴァベルトと真逆の女性像に、内心嘲笑する。どうやら、今までのお相手は、そういった女性だったらしい。
(私も、そういう女性がお似合いだと思いますよ)
そんな言葉を飲み込んで、相手をじいと見つめた。
どういうつもりだろうか。真意がどこにあるのかが分からぬことには、どうも出れない。
果たして、ただの無邪気な言葉か。
それとも、ガラドリアルの息子の言葉、か。
全く別の何か…だろうか。
青年の表情から、それを読み取ることはできなかった。そもそも、腹の探り合いは、ルーヴァベルトの得意とするところではない。
さて、何と答えるのが「王弟殿下の婚約者」として正解か。
考えあぐねている内に、ずい、とユリウスがルーヴァベルトへ顔を寄せる。「ねぇ」と、低く囁いた。
「君は、ランティスが、好きなの?」
耳朶をなぞる声。ぬるりと浸みた言葉に、一瞬、ルーヴァベルトの表情が消えた。
すうと細めた双眸を青年へ向ける。彼は無邪気めいた笑みで、答えを待っていた。
「…私、は」
唇を震わせ、答えを紡ごうとした時。
「ルーヴァベルト!」
大声で呼ばれた。驚いて、二人揃ってそちらを見やった。
大股にランティスが戻ってくる。後ろを、アンリが小走りに追う。
「おっと」呟き、ユリウスが一歩下がった。
側までくると、じろりとユリウスを睨めつけたランティスは、不満げに眉を寄せた。
「何もしてないよ」
困り顔でユリウスが首を横に振る。「次の曲で、お相手を願っていただけだ」
改めてルーヴァベルトへ向き直ったユリウスは、慇懃に首を垂れると、良く通る声で、心なし大きく言った。
「王弟殿下の婚約者殿。どうぞ一曲、お相手頂けないでしょうか」
差し出された手を見やり、どうしたものかとルーヴァベルトはランティスを見上げた。正直、足は痛いし、疲れてもいる。ランティス以外と接すれば、すぐにボロが出る気もするので行きたくない。
ランティスがどう答えようが、断りたい…そう思った、その時。
「先約がありましてよ、ユリウス様」
凛と鈴が鳴る様に、伸びやかな声が響いた。
見れば、アンリの側にいつの間に並んだのか、マリシュカが立っていた。彼女は妖精の如き美麗な笑みで、緩い亜麻髪を揺らす。
「次は、私がルーヴァベルト様にお相手頂く番ですわ」
楚々と、滑る動きでルーヴァベルトへ近づいたマリシュカに、ぽかんと驚いた顔のランティスも思わず場所を譲った。対し、堂々と少女の側に立った令嬢は、ふわり香るような笑みで、ルーヴァベルトの手を取る。
「先程お約束しましたもの。ねぇ、ルーヴァベルト様」
「あ、はい」
気圧され頷いてしまう。見れば見るほど美人だな、と頭のどこかで誰かが言った。
不服そうに異議を申し立てたのは、ユリウスだ。
「マリシュカ嬢、今夜は俺が主役だ。譲ってくれても良いのでは?」
「まぁ、ユリウス様。私だって、順番が来るのを今か今かと待っておりましたのよ」
「しかし…」
「まあまあ、ユーリ」
押し問答に割って入ったのは、ランティス。
先程とは打って変わって上等な笑みを浮かべ、突然、友人の手を握った。それに、ぎょっと碧眼が見開かれる。
気にせず、赤髪の男が続けた。
「俺の婚約者殿も、些か疲れたようだ。マリシュカ嬢と共に少し休ませたい。代わりに、俺がお相手させて頂こう」
「は?」
「今夜はお前の誕生日だからな。特別だぞ!」
「ちょっ」
「さ、行くぞ! 友よ!」
半ば引きずる様に広間の中心へ向かって行く。男二人が手を繋いでいる様に、周りの人々が除けてゆく。
「ちょ、離せって!」
叫ぶユリウスを無視し、ランティスは相手の腰と手を掴むと、音楽に合わせて踊り始めた。それに、ざわめきと嬌声が上がる。
拓けていた道は、あっという間に二人を取り巻く人垣に変わり、憐れユリウスの悲鳴だけが、音楽に合わせ耳に届いた。
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