第10話-2
自室だと案内された部屋は、白と青を基調にした、可愛らしい部屋だった。
少々…いや、大分趣味で無い内装に、ルーヴァベルトは僅かに眉を顰めた。
来客を迎え入れるための応接間と奥が寝室となった二つ続きの部屋は、少女が好むデザインの白い家具で統一されていた。小物や細々した装飾は金。絨毯は辛うじて紺色だったが、そこに置かれたソファセットは淡いピンク。壁紙はターコイズときたら、いっそ子供部屋だろうか、と思う。
開かれた出入口で立ちすくんでいたルーヴァベルトは、ジーニアスに促され、渋々部屋へ踏み入れた。
天井にはシャンデリア。きらきらしいクリスタルが、存在を誇示するようで目に痛い。
(マジかよ…)
げんなりして息を吐いた。
継ぎ接ぎだらけの色あせた洋服に身を包んだ自分は、まるでこの部屋に似合わない。清潔さには気をつかっているが、それでも今は床に落ちたゴミの気分だった。
(ここで暮らせとか、拷問だろ)
何だあの色のソファは、と思う。薄いピンク色なんて、すぐ汚れるぞ。
赤茶の双眸から、明らかに生気が失われたのに気付いたのか、ジーニアスが言った。
「この部屋は、ルーヴァベルト様のために、旦那様が一から全て揃えられました」
「え、趣味わ…」
るい、と言いかけ、慌てて両手で口を覆う。わざわざ自分の為に誂えてくれたのであれば、批判するのも悪いかと思った。
が。
「そうですね。あまり、お似合いではないかと」
あっさりと肯定され、口元を抑えたまま、ルーヴァベルトは眼を見はった。相変わらず表情のない灰髪の男は、何を考えているのかわからない。
すらりとした体躯の執事の横顔を、ちらと盗み見た。綺麗に整った顔は、見様によっては女性にも思える。一つにまとめた灰髪も、きちんと梳かれ艶やかである。一応女であるが、そういった手入れはてんで苦手なルーヴァベルトよりも、しっかりケアをしているのだろう。化粧をして着飾れば、きっと馬鹿な男たちが群がる気がする。
(まぁ、多少背が高すぎるが…)
ジーニアスがルーヴァベルトを促し、寝室へと移動する。
応接間と同等程度に広い部屋の真ん中に、大きなベッドが置かれていた。ルーヴァベルトが五人分は横になれそうな大きさに、無駄だなぁ、と心の内で独りごちた。
薄々覚悟はしていたが、やはり天蓋がついている。白い薄布には光沢があり、角度によって僅かに青みを帯びて見えた。シーツや掛布団の色は白だったが、ごちゃごちゃとしたレースがふんだんにあしらわれており、寝心地はよくなさそうだ。
寝室の隅にはドレッサーが置かれていた。迷うことなくそれに歩み寄ったジーニアスは扉を開いた。中からひらりとドレスの裾が覗く。
「どうぞ、好きなものをお選びください」
振り返った執事の言葉に、げぇっと潰れた蛙のような声を上げた。
「ドレスに? 着替えるの?」
「はい」
「こ、このままの恰好じゃ、やっぱり…」
「いけません」
ぴしゃり、と却下され、ルーヴァベルトは肩を落とした。
「貴方は我が主の婚約者。相応の格好をして頂きます」
「…わかりました」
渋々、是と返す。
正直、あんなひらひらと動きづらそうな衣装は御免だ。着たこともなければ、着たくもない。走れないじゃないか、と舌打ちをする。
が、今回は腹を括るしかないだろう。
(これも、衣食住安定のため…仕事の内だ)
重い足取りでドレッサーへ近づくと、待ち構えるようにたっぷりとした布地を誇示したドレスに、手を伸ばした。
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