熱 ―堂々巡り―


確証は、ない。

はっきりしたことは判らない。

ルイが僕に与えたほんのわずかな言葉だけでは。


けれども僕の中の “何か” が、しきりに僕を小突こづいている。

『真実は、そこにある』と。


彼女が逃げて来たというのは、たぶん “アルビノ狩り” からだ。


どういう経緯かは解らない。

相手がどういう人間なのかも。


ただ……ルイは、その見た目だけでは “アルビノ” とはわからない。

本人がそうと言わない限り。

げんに僕は彼女から “アルビニズム” だと言われても、ピンと来なかった。


街角で偶然に “アルビノ狩り” の連中に目をつけられたとか、突発的にさらわれた……というのではないだろう。

ルイが “アルビノ” だとあらかじめ知っていた者の手にかかった……ということなのではないか。



何者かが薬か何かを使ってルイの抗いを防ぎ、病院……あるいは病院のようなところで、彼女にをしようとした。

供物ウーフランドにするための、何かを。


確かに……闇雲やみくもに病院に運ぶなんてことは、できない。

“どこの病院なのか、わからない” のだから。


では、警察なら……?


いや、警察だって絶対に安全かどうかは解らない。


むしろ、ここで小康状態になるのを待ってから、日本大使館に駆け込むのが順当だろう。むろん、僕が付き添って。



だけど……

その後は、どうなる……?



大使館に駆け込む、ということは、すなわち、日本に帰すということだ。

日本に帰す……



そこまで考えたところで、僕の頭は、停止した。



不思議の国。

行ったこともない国。

僕の知識では、ほとんど何も知らないも同然の国。



そこに、彼女を帰してしまう?

―――そんなのは、嫌だ!!



ベッドの上を見た。

ルイは眠っている。

僕はバスルームに向かった。

自身と対話するために。



その鏡の中には、僕が僕だと認めたくない僕がいた。


……なんて顔をしてるんだ!?


髪はぐちゃぐちゃ。ヒゲも生えかけている。


さっき自分で着替えた服は、着替えたばかりだというのに、すでにだらしない。

睡眠不足まる出しの顔……

目の下のくま……

まるでこっちの方が重病人みたいだ。



―――おい、お前はどうしたいんだ?

―――彼女は……つい先日まで、見知らぬ人間だったんだ。

―――友達ですらない……ただの他人だぞ。



彼女は僕の名前すら、まだ知らない。

僕が何者で、なぜここにいるかも。

まして、僕が彼女を……彼女の存在を、どんなふうに感じているか、何も。



僕だって……知っているのは、彼女の名前だけ。

その名をどう綴るのかさえも……彼女のくちびるから出たその発音は僕の名と全く同じだったが、おそらく、フランス人と同じ綴りのはずはない。


彼女が日本のどこで生まれてどこで暮らしていたのか。

どうして宝飾品ジョアイユリの研究者になったのか。

そしてそんなものを研究しているにしては、どうして何も飾らず、まるで男の子みたいな姿をしているのか?




つまり、僕は彼女のでもないんだ。

彼女も……僕のでもない。




そんな僕が、そんな彼女を、だって?


お笑いだ……!


一体全体、どんな資格でそんなことが言えるんだ? 

言ってみろ! さあ、言ってみろ、ルイ!!

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