金髪のお遍路さん

 キャンプ場にて、朝6時半起床。夜中には寒さで目覚め、ライトダウンを着ることに。朝も寒くて、なかなかシュラフから出られず。7時くらいになって、ようやく動き出した。テントの前室で朝食を作り、ゆっくりと朝食をとる。その後はテントの片付けに取り掛かる。テントは夜露と結露でびっしょりで、乾くまでには時間がかかりそう。


 本日の最初の目的地は少し高い山の中で、坂道が大変だ。昨日頑張った分、本日はあまり回らなくても良いかと、朝はゆっくりとすることに。テントが乾くのを待つ時間は、コーヒーを飲んだり、スマホで情報をチェックしたりと。テントが乾くのを待っていると、出発は9時くらいになった。


 本日最初の81番札所 白峯寺は、五色台の白峰中腹の標高300m付近にある。五色台の登り口までは、10kmほど。まずはそこまでゆっくりと向かう。しっかりとウォーミングアップ。


 五色台の入り口から81番白峰寺まで、約6kmで300mほど上ることになる。高知の七子峠と同じくらいなので、むちゃくちゃきつくはないはずだ。走り出した最初だけ、少し斜度がきつい。その後斜度は緩くなって白峰寺の入り口まで、ずっとダラダラとした登りが続いた。


 本日は天気が良くて、気持ちが良い。気温もそれほど高くなく、絶好のサイクリング日和。必死こいて坂を上っても、汗は流れてくるものの、少し暑く感じるくらい。空気自体は爽やかで、気分良く上れた。


 1時間ほどかけて、白峰寺の入り口にあたる、白峰パークセンターに到着。ここから白峯寺までは、500mほどの距離の結構な坂を下っていくことになる。帰りを自転車で上るのが嫌なので、自転車はここに停め、お寺へは歩きで向かうことにした。


 昨日訪れた札所はどこも、日曜日ということもあって、人がたくさん。ちょっとうんざりだった。本日は平日で、人も少なくてゆっくりとお参りが出来た。


 お参りを済ませた後は、パークセンターまで戻り、自転車の整備をする。どうやらチェーンの油切れのようで、朝からずっとチェーンが鳴いていた。この旅中、一度も自転車の整備をしていなかったので、ここで初めての整備。チェーンクリーナーで一度汚れを拭き取り、チェーン油を差す。これだけのことで、音は鳴らなくなり、回転もスムーズになる。やはり整備は必要だ。


 82番札所 根香寺へ行くには、また200mほどの上り。標高480mくらいまで行き、そこから下って行くことになる。ただ白峰寺を過ぎてからは、上りだけで無く下りもあって、アップダウンを繰り返す。上っているときは良いのだが、下りになると体が冷える。こうなるとウインドブレーカーを来た方が良いか悩むところ。少しでも風を防いで、汗冷えをなくしたい。しかし、着た後に上りが続くと、これまた暑くてムレてしまうのだ。


 そんな判断に悩む中、あまりにも寒く感じたので、ウインドブレーカーを着ることにした。そしたら、きつい上り坂が現れた。最悪。頑張って漕いで上ると、汗でびっしょり。ここが頂上というところも無く、いつの間にか一番標高の高いところは過ぎ、下りになっていた。汗に濡れて気持ち悪いし、登りきったという達成感もないしで残念。


 気持ちよく坂を下っていると、前方に歩いている遍路姿の男性が見えた。バックパックにビニール傘をぶら下げているのが特徴的だ。昨日から何度か見かけた姿である。彼は海外から来た(と思われる)金髪のイケメンで、昨日から抜きつ抜かれつを繰り返している。歩き遍路のルートの方が、車道ルートに比べ距離的に短いので、追い越してもいつの間にか抜き返されるということになっていた。


 今朝も五色台に上る途中で追い越したのだが、白峰寺には彼の方が先についていた。白峯寺で適当な英語で、歩くの早いねと声はかけたが、うまくコミュニケーションは取れず。名前もどこ出身かも聞いていない。あまりお互いのことは知らないのに、顔はよく知っているという、何かそういう関係が面白いなと思う。


 歩いている彼の姿は、ビニール傘がぶら下がっているので、遠くからでもすぐに気づく。今回もサムズアップし、声援を贈り追い越していった。坂を下って、最後にちょっと上って、82番札所 根香寺に到着。


 高い木々に囲まれた周囲の様子は、白峯寺に比べ、こちらのほうがより山奥にある感じがする。山岳信仰との関わりがあるとのことで、役行者の像などもあった。いかにも山奥のお寺。木々に囲まれ凜とした雰囲気が良い。今まで振り返ると、山の中にあるお寺はどれも印象に残っている。たどり着くのが大変というのもあるが、醸し出す雰囲気が良いのだ。


 こちらでのお参りを済ませ、帰ろうと思ったところで、金髪の彼がやってきた。追い越した地点からは結構な距離があったが、彼は歩くのがかなり早い。ここでもまた「歩くの早いね」と声をかけ、二言三言会話をして別れた。


 この後はひたすら坂を下って、高松の街に向かう。坂を下るときに考えていたことは、お腹がすいた、吉野家の牛丼が食べたい、ということだった。朝食以降、何も食べていない。時刻は13時半くらい。根香寺でお参りを終えた後に、吉野家が近くに無いか調べたが、微妙に遠いところばかり。適当なところで何か食べるか、吉野家に向かうか、坂を下りながら考えていた。


 坂を下り終えたところで出した決断が、83番札所 一宮寺の近くにある吉野家へ行くこと。遠回りになるし、食事にありつける時間も少し遅くなるが、本日は一宮寺で終わりでも良いし、何より吉野家の牛丼が食べたい、その思いのみ。なぜ吉野家の牛丼なのか。朝から坂道を頑張って上りお腹はペコペコ、もうガッツリとなにか食べたくって。ガッツリ食べたい時に思い浮かぶのは、いつも牛丼だ。吉野家なのは、シンプルな牛丼が一番おいしいし、株主優待券を持っていてお財布にも優しいからだった。


 頭の中は、吉野家の牛丼で一杯だったが、走るルートは冷静に考えていた。地図で見つけた川沿いの自転車道を利用。これが正解で、信号はないし、車道と交差することも無く、気持ちよく一宮寺に近づける。ただ、自転車道を離れた、一宮寺周辺は走りにくい道で、道を間違ったりしながら、まずは吉野家へむかう。


 たどり着いた吉野家は最新式の店舗で、タッチパネルで注文が出来る。このようなお店は初めてだ。試しにタッチパネルで注文してみるが、口頭で注文した方がよっぽど早かったりする。混雑している時に使うものだ。 牛丼大盛り、お新香セット。さらに単品で牛皿並とガッツリいただく。牛丼と牛皿を同時に注文するという贅沢。満腹になったところで、一宮寺に向かう。


 駐車場の案内に従い進み、自転車を停めお寺へ向かう。駐車場からお寺に向かうと、何故か仁王門から入らない形。このパターンが多い。お参りの前に一度仁王門へ向かい、改めて仁王門から入る。


 お参りを済ませたら、本日はこれで終了。時刻は16時くらい。本日の宿泊場所を考えることにした。


 近くにはキャンプ場も道の駅もない。本日は久しぶりのネットカフェに泊まることに決めていた。あとはどこのネットカフェにするかだけ。出来るだけ次の84番札所 屋島寺に近づいておきたいところ。高松市中心部から少し離れ、屋島寺に近い所でネットカフェを探す。全国展開するお店と、四国を中心に展開するお店がそれぞれ一つあった。よりお寺に近いことを優先し、四国中心のお店を選択。一宮寺からは道に迷いつつ、走りにくい道を走り、17時頃に到着。


 このお店は、12時間パックで2000円もしない料金が売りだ。時間的にちょっと早いかなと思いつつも、料金は安いんだしと入店する。しかし、この系列店ではあるはずの、ソフトクリーム食べ放題もなく、サービス的にちょっと物足りないお店だった。入ってしまったものは仕方が無い。ゆっくりはせずに明日の朝は早めに出発することに決めた。

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