予想外の坂道

 見近島キャンプ場にて、6時に起床。テントの外に出ると曇り空。天気予報では晴れとなっていたので、青空が見えるかと期待していたのに残念。朝食の後は、出発準備を始める。テントが夜露でびっしょり濡れていたので、すぐに出発せずに、しばらく乾かすことにした。その間に島を散歩。


 キャンプ場近くにトンネルがあって、それを抜けると広場があった。そこから島を一周できるのかと歩いてみるが、途中で藪に阻まれ行き止まり。この島にはキャンプ場以外何もない、キャンプのための島。どういう経緯でこの島が整備されたのだろう。そんなことが気になった。


 ある程度テントが乾いたところで、出発することに。8時半頃の出発となった。キャンプ場から伯方・大島大橋へは、それなりの坂を上る。その後は、昨日走ってきたコースを戻る。来島海峡大橋側からに比べ、大島大橋側からの方が斜度が緩く、少し楽だった。


 来島海峡大橋手前の、道の駅に到着。少し休憩。この道の駅からは来島海峡大橋がよく見える。この頃には雲がなくなっており、その姿は青空に映えていた。全長4000mの橋は壮大で、日本の土木技術の高さを思い知らされる。


 橋を渡るためにそれなりの坂を上って、来島海峡大橋へ。晴天の下、橋上を走るのが気持ちいい。今治側から来るサイクリストが多くて、その都度挨拶するのもひと苦労。ロードバイクに乗った人だけで無く、レンタル自転車の外国人観光客、家族でサイクリングと、たくさんの人が走っている。しまなみ海道がサイクリストの聖地として、成功している証か。この流れに乗って、明石海峡大橋とか鳴門海峡大橋とかも、自転車が走れるようになると良いなと思う。


 気持ちよく来島海峡大橋を走り終え、今治の市街地に。平坦な道では、快調に進む。市街地にある56番札所 泰山寺、57番札所 栄福寺は楽に行くことが出来た。問題は次の58番札所 仙遊寺だった。


 地図で見ると明らかに、山の上にあるお寺。どこから向かえば楽だろうか。次のお寺を指す道は、明らかにキツい坂道を上っていくように見えた。それならばと坂を回避するように進むと、道に迷ってしまい、遠回りをしてしまう。さらにお寺への道は、最後に激坂が待っている。結局どこから来ても、同じだった。


 見るからにキツい斜度の坂。ルート的にはまたこの場所まで戻ってくることになる。自転車を置いて歩こうか。そんな思いが頭をかすめる。いや、高知の七子峠以降、600m、700mの峠を越えてきた。ゆっくりながらも、自転車を押すことなくクリアしてきている。最初の頃から比べると進歩しているはず。これは挑戦するしかない。


 自転車のギアを一番軽くして、アタック開始。ずっとキツい斜度が続く訳ではなく、所々斜度は緩む。そこでは休憩を取りながら、少しずつ上っていく。斜度のキツいところが、何度も現れる。もうここに自転車を置いていこうか、何度も考えた。その度に「ここで負けたくない。なんとかお寺の駐車場まで行ってやろう」と。


 しかし、これまでで一番のキツい斜度が登場。これを乗り越えたら、少しは斜度も緩くなるだろう。その坂を乗り越え、カーブを曲がると、さらにまたキツい斜度の坂が待ってた。ここで心が折れてしまう。もうペダルはこげない、ギブアップ。


 ギブアップしたのは、仁王門のあるところだった。山門から歩くことを小さなこだわりとしていたので、これはちょうど良かったじゃないかと自分に言い聞かせる。自転車を停めて、お参りの装備をととのえる。その間も息はあがった状態。本堂へはまだまだ上らなければならない。ここでしばらく休憩をすることにした。


 落ち着いたところで、歩き始める。仁王門からは歩き遍路用の道を上ることにした。山の中を進む遍路道。いちおう整備はされているが、倒木に塞がれるなど、所々歩きにくいところもあった。そして待ち受ける階段。太ももはパンパンになって、階段上がるのがキツい。


 なんとか本堂にたどり着きお参り。境内からの見晴らしが良かった。こんな高くまで上ってきたのだと気づく。事前に調べた時には、この仙遊寺の坂についてはノーマークだった。明日訪れる予定の、60番札所 横峰寺の坂が大変と聞いている。ノーマークのここが、これだけキツいなら明日はどうなるのだろう。久しぶりに感じる不安。


 自転車のところへ戻り、坂を下っていく。頑張って上った坂道も、下り終えるのはあっという間だった。


 次の59番札所 国分寺には、握手修行大師像というちょっと変わった像があった。握手して願い事を伝えると良いらしい。ただし、注意書きによると「大師は忙しいので願い事は1つだけ」らしい。等身大といわれる少し小さめの大師像の手をしっかり握り、明日の坂道は楽に越えられるよう願った。


 お参りを終えたのは14時ころ。次の60番札所 横峰寺はかなり強敵と聞いているので、本日の札所巡りはこれで終了。宿泊予定地のキャンプ場に向かうことにする。


 キャンプ場へつくまでの間に、どこかで昼食をと考えていた。国道を走るので、食べるところはいくらでもあるだろうと。しかし、食堂どころかコンビニもない。途中、道の駅があったので立ち寄ることにした。その中のレストランはメニューは多彩だが、どれも値段がちょっと高い。ご飯ものはどれも1000円近くだ。この先の国道沿いには、もっと安く食べられる牛丼チェーン店くらいはあるだろうと、ここでの食事はあきらめた。


 吉野家でもすき家でも、と思いつつ走るのだが、食事をするお店はなかなか現れない。大型レストラン風の看板が見えたので、近づいてみるとすでに廃業。どうやらこのあたりは商売に向かない場所なのだろう。


 そうこうしているうちに、目的地に近づく。そこでようやくラーメン店を発見。以前から何度も見かけている、赤い看板のラーメンチェーン店。もう何でも良いやと、本日の昼食。その店の売りである、ネギラーメンをご飯とのセットで注文。ラーメンのスープはあっさり目の豚骨で、麺が細い。九州系のラーメンチェーンなのかと調べたところ、東京発祥のチェーン店だった。関西ではあまり見かけず、四国独自のチェーン店かと思っていたので、ちょっとびっくり。キャンプ場での夕食に、散々インスタントラーメンは食べているのだが、本格的なラーメンはやはり違う。その味と量に満足した。


 食後は本日の宿泊地、運動公園にあるキャンプ場へ。野球場やプール、公園などが集まった大規模な公園施設に広場があって、そこにテントを張ることが出来る。まずは受付に行き、書類に名前などを記入。きちんと管理されている市の施設なので、ちょっと面倒だがこれは仕方がない。使用料100円払い、テントサイトの説明を受ける。なんと運動施設にあるシャワーを使っても良いとのこと。時間制限もなく、追加の料金も無し。さすが公的な施設は違う。


 テントサイトには炊事棟があり、近くにトイレ。テーブルとベンチもいくつか。下が砂地なので、結露したときの後処理が大変かもしれない。しかし、広いサイトに、本日の利用者は僕一人。ゆっくりと過ごせそうだ。


 テントを張ったあとは、公園内を散歩する。テニスをする人や散歩をする人など、それなりに人がいた。公園内の高台に、展望広場があったので上ってみる。夕焼けの空に、明日訪れる予定の横峰寺がある石鎚山が見える。今日の仙遊寺は厳しかった、明日はどうなるのだろう。そんなことを思った。

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